天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~

水鳴諒

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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――

【026】もっと強く

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 ――もっと強くならないと。
 この日は、一人になるのがなんとなくこわくて、スミレは電気をつけたままでねむることにした。ベッドに入って目を閉じる。すると、天神様が菊の前に立っていた。大小様々、背丈も様々そんな菊の中には、菊人形がある。

「天神様……あのね、今日はこわかったの」
「そうであろうな。スミレは、やさしい心で人形の無事をつたえようとしたにもかかわらず、邪気にそまった悪意をあびたのだから」
「悪意……」
「スミレ。どのように心根こころねがよいものであっても、ゆがんでしまうことはあるのだよ。人形のことをしんに思っていても、その心がゆがんだからこそ、この供養の神社を逃げ出してしまったのだから」

 天神様の声に、小さくスミレはうなずく。

「ところでこの菊はなに?」
「今日見るものは、過去かこではないようだな」
「え?」
「修行がまた一つすすんだ。スミレは今、未来を見ているんだ。これから、スミレはこの場所に行く日が来るだろう。そのときは、迷わないように」

 すると天神様が菊人形へとふりかえった。
 そのうちの一つに、黒いカラスの羽が見えた気がした。

「あれって……」

 前にも見た烏天狗の羽のように見えるとスミレが思ったとき、アラームの音がして、スミレは目を覚ました。そして、龍樹の見つけた共通点によると、最後に向かう花園迷路では、今は菊人形展が行われていたのではなかったかとばくぜんと思い出していた。

 その後身支度みじたくをしてから食卓へと向かうと、今日は和成の姿もあった。

「あれ、お兄ちゃん今日はおそいんだね」
「どこかのだれかがこしをぬかしてないか気になってな」
「っ、もう平気だよ!」
「そうなのか? 昨日、明かりをつけてねてたみたいだけど?」
「うっ……」
「ま、元気そうでよかった。じゃ、俺は先に行く」

 そんなやりとりをしてから、和成が席を立った。
 そこへ入れ違いに母が顔を出す。

「今日はシュークリームを作っておいたから食べてね。それとお母さん、今日はちょっと遅くなるから」

 小さく首をかしげて水紀が言った。するともう、『遅くなる』という言葉が、やっぱりこわくなくなっていると気がついて、スミレはにっこりと笑った。

「うん!」

 こうして新しい一日が始まった。




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