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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――
【014】数学とプリン
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週が明けた。龍樹とも和成とも、先日の話は特にしていない。
それからの一週間はあっという間で、金曜日の朝、母が言った。
「今日は遅くなるの。プリンを作って冷やしておいたから、帰ったら食べてね」
母のプリンは、スミレの大好物だ。
「うん」
明るく返事をしてから、スミレは学校へと向かった。本日も和成は家を早く出ている。ゆったりとした足取りで学校へと向かうと、南が声をかけてきた。
「おはよう、ねぇねぇ聞いた?」
「おはよう南ちゃん。なにを?」
もしかしたら心霊スポットの話だろうかと、みがまえながらスミレは質問する。
「縁切り地蔵の話! あそこやばいんだって」
「やばいって、なにが?」
「あそこって、悪縁を切るのと縁が切れないように結ぶのと両方の効果があるっていうじゃない? それが……あそこにお祈りすると、具合が悪くて倒れる人がおおぜいいるんだって。今は誰もちかづかなくなっちゃったみたい」
一時間以上心霊スポットにいると具合が悪くなる。
あらためてスミレはそのことを思い出した。
縁切り地蔵については、心霊スポット連絡帳にも書かれていたし、有名なお地蔵様なのでスミレも知っていた。これは、龍樹と和成に連絡しなければと、スミレは一人うなずく。
「こわいよねぇ」
「そうだね。南ちゃんってこわいのがダメなのに、こわい話が好きだよね」
「ウワサ話はべつばら! 食後のデザートみたいなものなの!」
二人がそんなやりとりをしていると先生が入ってきた。
スミレは一時間目の休み時間に、まずは龍樹に縁切り地蔵について送っておいた。すると、すぐに返事があった。
『放課後、図書館にいる。詳しく聞きたいから来て欲しい』
それに対し、スミレはすぐに『はい』と返信した。
部活は、中間テストが近いため、お休みの日が多くなっている。今日もお休みだ。
そうして放課後、スミレは南と少し話をしてから図書館へと向かった。
するとおくの席で、参考書を開いている龍樹が目に入った。
「龍樹くん、おまたせ」
「ああ、いや、勉強をしていたから、待ってはいない」
龍樹はそう言うと、しせんで数学の参考書をしめした。となりの席にすわったスミレは、次のテストで出るところだと確認する。ちょうど、苦手なところだった。
「それで? 縁切り地蔵だったな?」
「うん。心霊スポット連絡帳のコピーにも書いてある場所なんだけど」
「ここだな?」
龍樹がカバンから、コピー用紙を取り出した。そしてボールペンで、縁切り地蔵に丸をつける。
「縁切り地蔵の前に広場がある。そのいったいが心霊スポットになっているんだと俺は思う」
「そうかもしれない。南ちゃんは、行った人が具合が悪くなると話していたけど、広場しか長くいられるところはないし」
スミレはうなずいた。
「お兄ちゃんにも家に帰ったら話しておくね」
「ああ。いつ行く?」
「テスト前の期間は部活もお休みだし、いつでも行けるよ。お兄ちゃんも勉強しないし、帰宅部だし」
「そうか。じゃあ明日にでもさっそく行こう」
明日は土曜日だ。十四時に縁切り地蔵の広場の入り口前で合流する約束をした。
それからスミレは、はぁっとため息をつく。
「どうかしたのか?」
「数学……不安なの。今日の宿題も、ちらっと見たけど分からなくて」
「どの部分が?」
龍樹の声に、スミレは宿題のプリントを取り出した。テスト前に特別に配られたものだ。
「ここ」
「ああ、ここは――」
そう言うと龍樹が、机に出してあったルーズリーフに、数式を走り書きした。
「方程式は、こうやって解くといい」
「すごい……ええっ、分かりやすい。これなら、私にも解けそう! 龍樹くんってすごいんだね」
じゅんすいにスミレがおどろいてから笑顔を浮かべると、龍樹がめずらしく、ちょっとだけくちびるのりょうはじを持ち上げた。本当にいっしゅんで小さい変化だったけれど、たしかに笑っているように見えて、スミレは思う。
「龍樹くんは、笑ってた方がいいよ」
本心からそう伝えると、龍樹がまたいつものクールな表情にもどった。
「俺だって面白いことや楽しいこと、うれしいことがあれば笑う」
「それもそうだね。数学は楽しくないよね……」
スミレがうなだれる。
「そうでもないぞ? 数式を見ながらにやにやすることはないけど、俺は数学が嫌いじゃない。答えが明確に出るからな」
龍樹の言葉に、スミレは和成のことを思い出す。
「そういうもの? お兄ちゃんも、問題を見ると、答えが頭に浮かぶっていうんだよね」
「そこは人それぞれだろう。俺は和成先ぱいとは違って、式を解かないと答えは浮かばない」
頭のいい人にも色々な種類があるのだなとスミレは考えた。
その後は、少しの間、二人で数学の勉強をした。宿題をスミレが解いていてつまると、すでに終わっている様子の龍樹が教えてくれたのだ。
「これで明日は安心。本当にありがとう!」
「いいや。俺も勉強になった。人に教えていると、自分でもどのていど理解できているか分かるからな」
二人で生徒玄関へと歩きながらそんな話をし、この日もT字路で二人は別れた。
さて、家についたら、プリンが待っている。
楽しい気分で、スミレは家の中に入った。
「ただいまー!」
「おう」
すると和成がリビングで出むかえてくれた。なんとその正面には、からになったプリンの入れ物が二つある。
「あー! 私のプリン!!」
「うますぎて一個じゃたりなかったからもらった」
「ちょっとお兄ちゃん! ひどい!」
「代わりに夕食には麻婆春雨を作ってやるんだから怒るなよ」
「うっ……で、でも! だからといって! お兄ちゃんの意地悪!」
和成には、確かに良いところもある、それは事実だ。
だけどやっぱり意地悪だと、スミレは感じたのだった。
それからの一週間はあっという間で、金曜日の朝、母が言った。
「今日は遅くなるの。プリンを作って冷やしておいたから、帰ったら食べてね」
母のプリンは、スミレの大好物だ。
「うん」
明るく返事をしてから、スミレは学校へと向かった。本日も和成は家を早く出ている。ゆったりとした足取りで学校へと向かうと、南が声をかけてきた。
「おはよう、ねぇねぇ聞いた?」
「おはよう南ちゃん。なにを?」
もしかしたら心霊スポットの話だろうかと、みがまえながらスミレは質問する。
「縁切り地蔵の話! あそこやばいんだって」
「やばいって、なにが?」
「あそこって、悪縁を切るのと縁が切れないように結ぶのと両方の効果があるっていうじゃない? それが……あそこにお祈りすると、具合が悪くて倒れる人がおおぜいいるんだって。今は誰もちかづかなくなっちゃったみたい」
一時間以上心霊スポットにいると具合が悪くなる。
あらためてスミレはそのことを思い出した。
縁切り地蔵については、心霊スポット連絡帳にも書かれていたし、有名なお地蔵様なのでスミレも知っていた。これは、龍樹と和成に連絡しなければと、スミレは一人うなずく。
「こわいよねぇ」
「そうだね。南ちゃんってこわいのがダメなのに、こわい話が好きだよね」
「ウワサ話はべつばら! 食後のデザートみたいなものなの!」
二人がそんなやりとりをしていると先生が入ってきた。
スミレは一時間目の休み時間に、まずは龍樹に縁切り地蔵について送っておいた。すると、すぐに返事があった。
『放課後、図書館にいる。詳しく聞きたいから来て欲しい』
それに対し、スミレはすぐに『はい』と返信した。
部活は、中間テストが近いため、お休みの日が多くなっている。今日もお休みだ。
そうして放課後、スミレは南と少し話をしてから図書館へと向かった。
するとおくの席で、参考書を開いている龍樹が目に入った。
「龍樹くん、おまたせ」
「ああ、いや、勉強をしていたから、待ってはいない」
龍樹はそう言うと、しせんで数学の参考書をしめした。となりの席にすわったスミレは、次のテストで出るところだと確認する。ちょうど、苦手なところだった。
「それで? 縁切り地蔵だったな?」
「うん。心霊スポット連絡帳のコピーにも書いてある場所なんだけど」
「ここだな?」
龍樹がカバンから、コピー用紙を取り出した。そしてボールペンで、縁切り地蔵に丸をつける。
「縁切り地蔵の前に広場がある。そのいったいが心霊スポットになっているんだと俺は思う」
「そうかもしれない。南ちゃんは、行った人が具合が悪くなると話していたけど、広場しか長くいられるところはないし」
スミレはうなずいた。
「お兄ちゃんにも家に帰ったら話しておくね」
「ああ。いつ行く?」
「テスト前の期間は部活もお休みだし、いつでも行けるよ。お兄ちゃんも勉強しないし、帰宅部だし」
「そうか。じゃあ明日にでもさっそく行こう」
明日は土曜日だ。十四時に縁切り地蔵の広場の入り口前で合流する約束をした。
それからスミレは、はぁっとため息をつく。
「どうかしたのか?」
「数学……不安なの。今日の宿題も、ちらっと見たけど分からなくて」
「どの部分が?」
龍樹の声に、スミレは宿題のプリントを取り出した。テスト前に特別に配られたものだ。
「ここ」
「ああ、ここは――」
そう言うと龍樹が、机に出してあったルーズリーフに、数式を走り書きした。
「方程式は、こうやって解くといい」
「すごい……ええっ、分かりやすい。これなら、私にも解けそう! 龍樹くんってすごいんだね」
じゅんすいにスミレがおどろいてから笑顔を浮かべると、龍樹がめずらしく、ちょっとだけくちびるのりょうはじを持ち上げた。本当にいっしゅんで小さい変化だったけれど、たしかに笑っているように見えて、スミレは思う。
「龍樹くんは、笑ってた方がいいよ」
本心からそう伝えると、龍樹がまたいつものクールな表情にもどった。
「俺だって面白いことや楽しいこと、うれしいことがあれば笑う」
「それもそうだね。数学は楽しくないよね……」
スミレがうなだれる。
「そうでもないぞ? 数式を見ながらにやにやすることはないけど、俺は数学が嫌いじゃない。答えが明確に出るからな」
龍樹の言葉に、スミレは和成のことを思い出す。
「そういうもの? お兄ちゃんも、問題を見ると、答えが頭に浮かぶっていうんだよね」
「そこは人それぞれだろう。俺は和成先ぱいとは違って、式を解かないと答えは浮かばない」
頭のいい人にも色々な種類があるのだなとスミレは考えた。
その後は、少しの間、二人で数学の勉強をした。宿題をスミレが解いていてつまると、すでに終わっている様子の龍樹が教えてくれたのだ。
「これで明日は安心。本当にありがとう!」
「いいや。俺も勉強になった。人に教えていると、自分でもどのていど理解できているか分かるからな」
二人で生徒玄関へと歩きながらそんな話をし、この日もT字路で二人は別れた。
さて、家についたら、プリンが待っている。
楽しい気分で、スミレは家の中に入った。
「ただいまー!」
「おう」
すると和成がリビングで出むかえてくれた。なんとその正面には、からになったプリンの入れ物が二つある。
「あー! 私のプリン!!」
「うますぎて一個じゃたりなかったからもらった」
「ちょっとお兄ちゃん! ひどい!」
「代わりに夕食には麻婆春雨を作ってやるんだから怒るなよ」
「うっ……で、でも! だからといって! お兄ちゃんの意地悪!」
和成には、確かに良いところもある、それは事実だ。
だけどやっぱり意地悪だと、スミレは感じたのだった。
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