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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――
【006】深珠ロッジ
しおりを挟むかべ紙がところどころはがれ落ちていて、コンクリートがのぞいている。
床には黒いしみのようなものがあり、ロッジの内部は暗い。龍樹がパチンと明かりをつけると、電気は通っている様子で、少しだけ視界がよくなった。
階段は左側にある。
龍樹がそちらへと歩き始めた。
「天月、時間が無い。急ごう」
「う、うん」
慌ててスミレも龍樹に追いつく。そして二人で早足で、階段を上っていった。おどりばで一度曲がってから二階に上がると、コの字がたの深珠ロッジの客室が見えてくる。思ったよりも長い。
「北ってどっち?」
「左に進んで、直進して、また右に行ったつきあたりだ」
「分かった」
「一番奥の部屋にあると覚えておけばいい。階段は一つきりだ」
龍樹は表情をかえるでもなく、とても冷静に見える。それに安心しながらも、スミレは、ひんやりとした空気がどんどん強くなっていくものだから、いやな感覚におちいった。ようやく左はじの階段があるろうかを通りすぎ、また右にまがってまっすぐの道を進む場所まで来た時、スミレはスマホを取り出して時間を確にんする。
すでに三時二十分だった。目的の部屋まで急いだとして三時三十分、行きが二十分かかったのだから、帰り道だってそのくらいかかるはずだ。だとすると人形は十分くらいで探さなければならない。これは急がなければならないと、スミレは足を速めた。
そのおかげで、三時二十五分には、最後のろうかに到着した。
「あ」
だがそのろうかに進んだとき、思わずスミレは両手で口をおおった。
目的の部屋らしきものは、真正面にあるのだが、何故そこが目的の部屋だとわかったかといえば、その部屋のドアの天井あたりに、黒いもやが浮かんでいたからだ。一気に背すじが寒くなる。
「龍樹くん、あれ……あの黒いの、なに?」
「邪気だ。悪い霊が放つんだ」
「霊ってお化けのことだよね?」
「そうだ。普通の人間には見えない。おそらく天月は、天神様の御用人になったことで力を得たから見えるようになったんだな」
「龍樹くんにも見えるんだよね?」
「ああ。俺は生まれつき見える。そういう人間も、世界には一定数いるんだ」
龍樹の足取りはかわらない。スミレも急がなければと、黒いもやはこわかったが足をすすめる。歩はばも大きい龍樹が早足になったため、スミレはついていくのに必死だった。そしてなんとかドアの前に立つ。龍樹がカギを取り出した。
「開けるぞ」
「うん」
かたずを飲んでスミレが見守っている前で、龍樹がドアノブにカギを差し込んだ。そしてドアノブをひねる。しかしそれはガチャガチャと音を立てるだけで動かない。
「開かないの!?」
「焦るな」
冷静な声でそう言った龍樹は、ポケットからお札を取り出した。
それをドアにはり付ける。
それからドアノブを再び動かすと、今度はかんたんにドアが開いた。そればかりではなく、黒いもやが散らばるように天井の方へと全て移動した。
「どういうこと?」
「俺の神社では、天神様の力が宿った特別なお札の作り方が伝わっているんだ。それで邪気をおさえた。俺たちが来ていることに、人形も気づいているから、ドアを開けないようにしようとしたんだ。行こう」
龍樹が中へと先に入ったので、あわててスミレも中に入る。
すると中にはいっきゃくのイスがあった。
その上に、ちょこんとクマのぬいぐるみがのっている。先日スミレが龍樹に渡したのは茶色いクマだったが、こちらにいるクマは白い……の、だろうか? ところどころが茶色く汚れている。
「見つけた」
「待って? この子が、その……心霊スポットを作り出している人形なの?」
「そうだ。正確にはその中に宿る魂だ」
だんげんした龍樹とぬいぐるみを、スミレは交互に見る。
「天月。見た目にだまされるな。人形を回収しろ」
「回収ってどうやって?」
「御用人は天神様の力を分けあたえられている。だから、お前がふれるだけで、一時的に人形の力が消える」
「つまりあの子を抱きかかえて、外に出ればいいってことだよね?」
「その通りだ」
龍樹がうなずいたので、一度だえきを飲み込んでから、大きくスミレもうなずいた。
そしてクマのぬいぐるみへと歩みよる。
手をのばすしながら、茶色いよごれだと思っていたものが、どうやら血のようだと気がついた。ぞくっとしつつも、クマのぬいぐるみを抱きかかえる。
「龍樹くん、あと何分!?」
「あと十五分以内に出ないと、心霊スポットが力をなくしたわけではないから、俺たちはきけんだ」
「急ごう!」
スミレは今度は先に走り出す。するとすぐに龍樹がとなりに追いついてきた。
まっすぐ進み、右に曲がり、さらにまた右に曲がって階段を目指す。
必死で階段をかけおりていく。行きの道中とは違い、全力で走った。
すると開けっぱなしにしてあった、深珠ロッジの玄関のドアが見えてきた。
日の光が入ってきている。
あとちょっと、あと少し。そう考えた時だった。
「わっ!」
後ろからつきとばされて、転げるようにスミレは外へと出た。
ピピピ、ピピピ、と、アラームの音がひびいたのは、ほぼ同時のことだった。
「龍樹くん!」
見れば中にはまだ龍樹がいる。ギリギリのところで、外につきとばしてくれたのは龍樹で間違いない。
「天月……俺は大丈夫だから、先に深珠神社に行って、天神様にそのぬいぐるみを渡してくれ……っく……俺は、平気だ。お前にしか、そのお役目はできない。行ってくれ」
「だけど……」
うずくまってしまった龍樹は、苦しそうに息をはきながら、片手で口をおおっている。
――見すててなんて行けない!
スミレはそう考えて、ドアから中へと引き返した。するとズドンとかたに岩がのったように重くなる。
「天月、早く外に!」
「だまってて!」
スミレは龍樹にあゆみより、片手でぬいぐるみを抱いたまま、龍樹のうでをひっぱる。龍樹は、くちびるをかむと、つらそうな足取りでスミレの手にふれた。そのまま二人で外へと出る。
そして日の下に出たところで、龍樹が座りこんだ。横にスミレも座りこむ。
「天月……先に行けといっただろう?」
「行けるわけがないよ。神社に行くんなら、二人で行こう。ね?」
それからスミレはクマのぬいぐるみを抱きしめ直した。
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