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―― 天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~ ――
【002】天神様
しおりを挟む放課後になった。今日は部活がお休みなので、早めに中学校を出て、ぬいぐるみが入ったカバンを手に、スミレは深珠神社へと向かった。深珠神社は、この深珠市のはずれにある小さな神社だ。
隣に小さな公園があって、そこには六つのブランコがある。そのはじから四番目に乗ると、神隠しにあうだなんてウワサもある。
ぬいぐるみを預けようと、スミレは鳥居をくぐる。
そして少し歩いた時だった。
「あれ?」
神社の本殿が開いている。いつもは閉じられているから不思議に思いつつ、ちょっとした興味がわいて、スミレは中をのぞきこんだ。
「わぁっ……」
そこにはずらりと人形がならんでいる。スミレが持ってきたようなクマのぬいぐるみもあるが、どちらかというと日本人形やフランス人形が多い。なんとも不気味で、特に眼球がないフランス人形はおそろしかった。その時、残っている方の目が、ぎょろりと動いた。
「ひっ!」
背中がぞくりとしたスミレは、あわてて引き返そうとする。だが真後ろに、人が立っていた。まるでお雛様の横にいるお内裏様のような服――束帯衣装という名前だとこの前テレビで見た、平安時代の貴族の服のようなものを着ている。背が高く、その人は、スミレを見下ろすようにあごを引いた。
「逃げたか」
「っ、え?」
「なにか見たか?」
「い、今、そこのフランス人形の目が動いて……」
「ああ、案ずるな。あれに危険はない。本当に危険だったのは、別の人形達だ。だが、少し私が目をはなしたすきに……これはゆゆしき事態だ」
二十代くらいのその人は、深くため息を吐く。
「あなたは?」
「私は天神様と呼ばれている。この神社に住まうものだ」
「天神様……?」
「人形に宿った魂を浄化し、害のないものに変えるのが役目だ。ただ何体か危険な魂を持った人形が逃げ出した」
「逃げ出すとどうなるんですか?」
「他の害ある存在を呼び寄せて、その場をまがまがしく変えてしまう。わかりやすく言えば、人形のお化けが他のお化けを呼びよせて、お化けがたくさんいる空間を作ってしまう」
天神様はそう言うと、腕を組んだ。
「お前は、名前はなんと申す?」
「私は天月スミレです」
「スミレか。私の御用人になってはくれぬか?」
「御用人ってなんですか?」
「雑用係とでも思っておけばよい。人形を回収してきてほしいのだ」
「えっ、私がですか!?」
「うむ」
なんでもないことのように天神様は言う。だが本殿の中に振り返り、多くの人形を見たスミレは震えそうになった。
「いやです、こわいです!」
思わずそう声をあげる。
「あれ? 天月?」
そこへ声がかかった。スミレが顔を向けると、そこには龍樹の姿があった。
「龍樹くん……」
「帰ったか、龍樹。やはり人形の体を借りて邪悪な魂が逃げたぞ」
「なっ」
天神様の声を聞くと、ぎょっとした顔をしてから龍樹が本殿の中をのぞきこむ。過去、いつもクールであったから、龍樹のこのような顔は一度もスミレは見たことがなかった。それだけ、大ごとなのだろうと判断する。
「そこでスミレを御用人にする。人形の回収を頼んだところだ」
「天月を……」
「龍樹も手伝ってやるように。では、な」
天神様がそう言うと、体が消えてしまった。狐につままれたような気分で、スミレは先ほどまで天神様がいた場所を見る。
「天月。少し話せるか?」
「う、うん……」
スミレがうなずくと、龍樹が公園の方を見た。
「ブランコしか座るものはないけど、あちらへ行こう」
そして龍樹が歩き始めたので、ぬいぐるみを抱きしめたままでスミレはその後を追いかけた。六つあるブランコの、二番目に龍樹が座ったので、そのとなりの三番目にスミレは座る。少し風があるせいか、ブランコは小さくゆれていた。
「それで、天月。天神様は、なんて?」
「えっと……人形のお化けが他のお化けをいっぱい呼んで、まがまがしくなるとか……」
「ああ。わかりやすく言えば、人形がいる場所が心霊スポットになるんだ」
「心霊スポット?」
急に分かりやすい話になったため、スミレは目を丸くしながら話を聞く。
「そうだ。ただ、心霊スポットは危険だから、普通の人間は一時間ほどしかそこにいられない。それがまがまがしいということだろうな」
「一時間……」
「天月がたのまれたことというのは、ようするに、人形がいる心霊スポットに行って、一時間以内に人形を見つけて、それを回収してこの神社に持ってきて欲しい、ということなんだ。天神様は昔の人だからたまに言葉がわかりにくい」
確かに龍樹の話の方がわかりやすいなとスミレは思った。
「俺はそれを手伝うようにと言われた。だから、一緒に心霊スポットで人形を探す」
「それって龍樹くんだけじゃダメなの……?」
「天神様の御用人になれるのは、天神様がこれと決めた人じゃないとダメなんだ。俺は残念ながら、御用人じゃない。出来るのは手伝いくらいだ」
そういうものなのかと、スミレは小さくうなずいた。それから抱きしめているクマのぬいぐるみを見る。
「この子を供養してほしくて来ただけなのに」
「それは預かっておく。きちんと供養する。任せてくれ」
龍樹が手を伸ばしたので、スミレは両手でぬいぐるみを渡した。
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