空気より透明な私の比重

水鳴諒

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―― Chapter:Ⅱ ――

【015】嶺色に視えるナニカ

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 次の月曜日。今日は九月十二日だ。
 本日から学園祭の準備のため、佳音達生徒は自由登校となっている。

「……行く気、起きないよね」

 深々と溜息をついた佳音は、無視されている現状を嘆く。本当に理由が一切分からない。かといって……家に居る気も起きない。理由は同じだ。

「ねぇ、お母さん、おはよう」
「……」

 母親の雫もまた、今日も佳音を無視して皿洗いをしている。朝食も用意はしてもらえなかった。何故、自分の事を、優しかった母が無視するのかさっぱり分からない。その辛さに胸が締め付けられたようになり、佳音は椅子から立ち上がると家を出た。

 今日は風もなく、夏の暑さが襲いかかってくるようで、アスファルトも照りつけている。当てもなく歩きながら、何度も佳音は溜息をついた。いくら空が快晴でも、胸中には暗雲が立ちこめている。ざわざわと嫌な感覚がずっと続いていて、いっそこの世から消えてしまいたいような、そんな感覚に陥ることもある。だからといって、自殺したいだとか、そういう事を考えるわけではない。事故から折角生還したのだから、命は大切にしなければ。

「あ」

 すると目の前を横切る猫が見えた。顔を向ければ、さと瀬公園の中へと入っていく。

「……嶺色くん、今日もいたりするのかな?」

 自問自答し、先日嶺色に会った事を思い出した佳音は、猫を追いかけるようにして公園へと入る。そしてベンチの上に座った灰色の猫の前を通り過ぎて、奥の茂みで出来た迷路の中へと入った。中央に向かって進んでいくと、四阿の屋根が見えた。

「だからお前は首を吊って死んだんだよ」

 すると声が聞こえてきたから、思わず足を止めた。視界には、宙に向かって険しい顔をしている嶺色が入ったところだった。

「死にたい死にたいっていってるけど、もう死んでる。はぁ? 遺書? 遺書を遺してきたはず? 知るか。隠してある? だからなんだよ」

 何も無い場所に向かい、嶺色が険しい声を出している。唖然とした雛乃は、暫しの間、嶺色が視えないナニカと話しているのを見据えていた。それが一段落した時、勇気を出して声をかける事に決める。

「嶺色くん?」

 するとハッとしたように佳音を見た嶺色が、慌てたように顔を背けた。

「誰と話していたの?」
「……」
「もしかして、幽霊が視えるって本当なの?」

 恐る恐る佳音は問いかける。嶺色がクラスで浮いている理由を思い起こしていた。

「……ああ、まぁな」

 小声で肯定した嶺色へと、佳音は歩みよった。
 そして隣に座りながら、嶺色の横顔を見る。

 ――幽霊なんて、いるわけがない。
 正直、内心でそう考えた。だが、好きな相手がいるというのなら、話を聞いてみてもいいかもしれないと思い直す。

「ねぇ、幽霊ってどんなの?」

 佳音は率直に尋ねた。

「どんな?」

 すると嶺色が、眉を顰めて怪訝そうな顔付きになる。

「どんな風に視えるの?」

 それには構わず、佳音は言葉を続けた。それを聞くと、嶺色が腕を組み、片目だけを眇めて、じっと佳音を見る。

「……死んだ時とか、まぁ事故に遭ったり自殺をしたり、病死したり、そういう時の姿で視える。さっき話してたそこにいる奴は、首吊り自殺をしたから、首にベルトが巻き付いてる」

 嘆息しながら語った嶺色を見た佳音は、やはり信じられなくて、思わず言う。

「それ、本当の話なの?」

 どう考えても、この世界に幽霊などいるはずはない。そういったオカルト的な考えは、佳音は好きになれない。仮に本当に、いないものがいるように見えたり聞こえたりするのなら、それは病気だとしか思えない。幻覚だ。早急に病院へと行くべきだ。

「別に信じてほしいわけじゃない」

 どうでもよさそうに嶺色がそう述べた。そして嶺色は立ち上がった。

「僕はもう行く」

 気分を悪くさせたかと思い、慌てて佳音も立ち上がる。

「待って。どこに行くの?」
「家に帰るんだよ。で、家の手伝い」

 それを聞いて、引き留めては悪いかと考える。

「そっか……忙しいんだね」
「――来るか?」
「え?」

 予想外の言葉が返ってきたため、佳音は目を丸くした。

「うち、カフェなんだよ。お茶でも飲みにくるか?」
「いいの? 行きたい!」

 反射的に佳音は頷いた。どうやら怒らせたわけではなかったらしい。それに安堵していたし、恋している嶺色の誘いだ、それが嬉しくてたまらない。

 こうして二人で、カフェに行くことになった。



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