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―― Chapter:Ⅱ ――
【012】さと瀬公園
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空しさを覚えながら、佳音は帰路につく。鉛がついたように重い足取りで歩道を進んでいくと、公園の出入り口が見えた。家に帰るのも、弟は兎も角両親にはまた無視をされるかもしれないと怯えが混じり、ふと佳音は公園へと立ち寄り、少し時間を潰そうかと考えた。横断歩道を渡り、逆の歩道へと進んでから、すぐ横のさと瀬公園へと佳音は足を踏み入れた。
さと瀬公園は遊具と砂場の向こうに、小さな木で出来た迷路のような場所があり、そこには各所にベンチがある。白い雲が日を遮る中、佳音はそちらの奥へと進む。明るい子供達の声を聞いている気分ではなかったからだ。
「あ」
木の角を曲がったところで、咄嗟に立ち止まり、思わず佳音は声を出した。
見ればそこには、嶺色が立っていたからである。
佳音の声に、ベンチの前で振り返った嶺色は、若干つり目だが形のよい目を、佳音はと向けた。残暑の色が濃い風が、彼の黒い髪を揺らしている。
「七花?」
すると驚いたように嶺色が言った。やはり、彼は自分を無視しない。それが嬉しくて、唇にギュッと力を込め、両頬を持ち上げた佳音は、泣きそうな顔で笑う。
「嶺色くん……あっ、ええと、渡海くん」
幼い頃のまま名前で呼んでしまい、慌てて佳音は苗字で言い直した。
嶺色はベンチと佳音を交互に見てから腕を組む。
「邪魔しちゃった?」
「別に誰が何処にいるのも自由だ。ただこの場所で、七花を見た記憶が無いから、意外ではある」
「ちょっと家に帰りたくなくて」
「ふぅん」
嶺色は深く追求してくることはなく、佳音の前でベンチに座った。左端だったので、右側には一人分の空間がある。佳音はそちらへと歩みよった。
「座っていい?」
「公共のものだし好きにすればいい」
「ねぇ、嶺色くん……って、呼んでもいい?」
「別に呼ばれ方にこだわりはない」
笑うでも怒るでもな嶺色の返答を聞きながら、久方ぶりにきちんと他者と会話している佳音は、それだけで嬉しくなった。
「よくここに来るの?」
「そうだな。大体放課後はここによる。なんか、落ち着くから」
そうだったのかと佳音は驚いた。今まで意識しなかった公園に、想い人がいたと聞くと、これまでの時間を損してきたような心地になる。
「七花はどうして家に帰らないんだ?」
「……学校とおんなじ。無視されてるから」
「無視、か」
「そうなの。なんでなんだろう。私、何かしたのかな」
呟くように佳音が述べると、鞄から冷たいカフェオレの缶を取り出した嶺色が、プルタブを開ける。そして片手で一口飲むと、透き通るような目で、前方を見た。
「無視されてるのは、僕だ。必要最低限しか、周囲と話さない。僕の方も周囲を無視しているに等しいけどな。ただ僕は、別にそれを辛いとは思ってない」
嶺色の声に、確かにそれは事実だろうと、佳音は俯きながら考えた。辛くないとはいうが、己の現状を鑑みるかぎり、無視されて辛くないなんてことはないと感じる。そしてこれまで、佳音もまた、無視する側にいた。それは否定できない事実だ。今、自分が同じ立場になったからといって、いきなりこうして親しく話しかけるのは、都合が良すぎると自己嫌悪してしまう。
「きっとお前は、これからも無視されたと感じると思う。でも、俺は仕方ないと思う。ただな、だからといって、この世界を恨むのは違う。それだけは、覚えておくといい」
「何か知ってるの? 私が無視される原因」
「さぁな」
嶺色はそう言って缶をぐいっと飲みほすと、そばの白塗りのカゴのようなゴミ箱に入れて立ち上がった。
「俺は帰る」
「うん。また話せる?」
「僕は暇な時は大体ここにいるから、ここにお前が来るのは自由だし、一緒にいて会話が発生したら、雑談くらいは付き合う。じゃあな」
笑うでもなく事実だという顔でそう口にすると、嶺色が立ち上がり、鞄を持って歩きはじめた。その背を見送りながら、少しだけ佳音の肩からは力が抜けた。
さと瀬公園は遊具と砂場の向こうに、小さな木で出来た迷路のような場所があり、そこには各所にベンチがある。白い雲が日を遮る中、佳音はそちらの奥へと進む。明るい子供達の声を聞いている気分ではなかったからだ。
「あ」
木の角を曲がったところで、咄嗟に立ち止まり、思わず佳音は声を出した。
見ればそこには、嶺色が立っていたからである。
佳音の声に、ベンチの前で振り返った嶺色は、若干つり目だが形のよい目を、佳音はと向けた。残暑の色が濃い風が、彼の黒い髪を揺らしている。
「七花?」
すると驚いたように嶺色が言った。やはり、彼は自分を無視しない。それが嬉しくて、唇にギュッと力を込め、両頬を持ち上げた佳音は、泣きそうな顔で笑う。
「嶺色くん……あっ、ええと、渡海くん」
幼い頃のまま名前で呼んでしまい、慌てて佳音は苗字で言い直した。
嶺色はベンチと佳音を交互に見てから腕を組む。
「邪魔しちゃった?」
「別に誰が何処にいるのも自由だ。ただこの場所で、七花を見た記憶が無いから、意外ではある」
「ちょっと家に帰りたくなくて」
「ふぅん」
嶺色は深く追求してくることはなく、佳音の前でベンチに座った。左端だったので、右側には一人分の空間がある。佳音はそちらへと歩みよった。
「座っていい?」
「公共のものだし好きにすればいい」
「ねぇ、嶺色くん……って、呼んでもいい?」
「別に呼ばれ方にこだわりはない」
笑うでも怒るでもな嶺色の返答を聞きながら、久方ぶりにきちんと他者と会話している佳音は、それだけで嬉しくなった。
「よくここに来るの?」
「そうだな。大体放課後はここによる。なんか、落ち着くから」
そうだったのかと佳音は驚いた。今まで意識しなかった公園に、想い人がいたと聞くと、これまでの時間を損してきたような心地になる。
「七花はどうして家に帰らないんだ?」
「……学校とおんなじ。無視されてるから」
「無視、か」
「そうなの。なんでなんだろう。私、何かしたのかな」
呟くように佳音が述べると、鞄から冷たいカフェオレの缶を取り出した嶺色が、プルタブを開ける。そして片手で一口飲むと、透き通るような目で、前方を見た。
「無視されてるのは、僕だ。必要最低限しか、周囲と話さない。僕の方も周囲を無視しているに等しいけどな。ただ僕は、別にそれを辛いとは思ってない」
嶺色の声に、確かにそれは事実だろうと、佳音は俯きながら考えた。辛くないとはいうが、己の現状を鑑みるかぎり、無視されて辛くないなんてことはないと感じる。そしてこれまで、佳音もまた、無視する側にいた。それは否定できない事実だ。今、自分が同じ立場になったからといって、いきなりこうして親しく話しかけるのは、都合が良すぎると自己嫌悪してしまう。
「きっとお前は、これからも無視されたと感じると思う。でも、俺は仕方ないと思う。ただな、だからといって、この世界を恨むのは違う。それだけは、覚えておくといい」
「何か知ってるの? 私が無視される原因」
「さぁな」
嶺色はそう言って缶をぐいっと飲みほすと、そばの白塗りのカゴのようなゴミ箱に入れて立ち上がった。
「俺は帰る」
「うん。また話せる?」
「僕は暇な時は大体ここにいるから、ここにお前が来るのは自由だし、一緒にいて会話が発生したら、雑談くらいは付き合う。じゃあな」
笑うでもなく事実だという顔でそう口にすると、嶺色が立ち上がり、鞄を持って歩きはじめた。その背を見送りながら、少しだけ佳音の肩からは力が抜けた。
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