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第1章 ◆ はじまりと出会いと
43. 予感
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「では、今日の授業はここまでだ。みんな、今日習ったところはよく復習しておくようにな」
『はーい』
終業の鐘が鳴り、今日の授業がこれで終わりました。
組のみんなは解放されたように、席を立って帰る準備をします。
リスト先生は教室を出ようとしたところで何か思い出したのか、みんなに待つように言いました。
そして、講壇に戻ってくると授業のとは別のファイルからプリントを取り出します。
「忘れるところだった。みんな、再来週は校外学習があるぞ。このプリントを保護者の人に渡すように。これは参加届になるから、保護者の人のサインをもらってくるようにな」
配られたプリントを見ると、校外学習の日程と注意事項が書かれています。
校外学習は、三日間。
一日目はフィールドワーク。二日目は野外戦闘見学。最終日は芸術と演劇鑑賞。
どれも、自分の組を決めるきっかけになるような内容です。
注意事項を見てみれば、保護者同伴でも構わないということ。
んん?どうして保護者同伴??
「参加届にサインをもらえなければ、参加はできないからな?必ず持ってくるように。保護者と一緒に来る場合は、先生に言ってくれ」
「先生、私の家は来まーす」
「僕の家も~」
ぱらぱらとリスト先生に報告する子達を見て、首を傾げるばかりでした。
そんな私に気がついたカイト君が、そっと耳打ちしてきました。
「校外学習はオルデンから離れることになるから、心配な親はついてきてもいいってなってるんだ」
「え?心配ってどういうこと?それにオルデンの外から通ってきてる子達もいるよね?」
すると、後ろの席のリィちゃんも答えてくれました。
「オルデンは大きな守護魔法で護られているの。その中で最も強い守護魔法で護られているのは、このグランツ学園よ。だから、学園の中にいる子達は、学園が護ってくれるわ」
えっ、それって、ものすごいことなんじゃ…。
街を覆うほどの大きな守護魔法は、主に王都や防衛都市にかけられてるってクロードお兄ちゃんに聞いたことがあります。
でも、守護魔法の使い手が少ないので重要な都市にしか派遣できないんだと言っていました。
その代わりとなるのが魔導具で、オルデンはたくさんの魔導具で守護魔法を発動させていると言っていたのを思い出しました。
「外から通ってくる子達は、契約精霊や守護獣がいる子以外は親に送ってもらっている子が多いわね」
「グランツ学園は国で一番大きな学校だし、しかも優秀な生徒が多い。だから、外の人達から狙われることがよくあるらしいぞ。親が心配するのも当然だ」
リィちゃんがそう言うと、カイト君も付け足すように言いました。
「そ、そうだったんだ…」
そういえば、入校式の時を思い出してみると、みんな保護者の人や、その時は動物だと思っていたけど…おそらく守護獣が付いていました。
独りで来た私の方がちょっと珍しかったということなんですね。
あの時ライゼンさんが手を引いてくれたのも、それがあったからかな?
「クリスも気をつけろよ。おまえ、いつも独りで帰ってるだろ?」
「うん、大丈夫。最近はお兄ちゃんやお父さんが門の近くまでお迎えに来てくれてるから」
「そうなのね。それなら安心だわ」
グランツ学園は大きくて立派な学校だと思ってたけど、通っている人達もすごい人がいっぱいなんだ。
確かに、お兄ちゃん達もライゼンさんもリィちゃん、カイト君もそれぞれ得意なことがあって、普通の人よりも優れた人だと思います。
私、この学園に通っててもいいのかな?
いくらすべての人に門を開いている学園とは言っても、すごい学校にはやっぱり優秀な人が集まります。
私みたいな、魔法がうまく使えない人が通っててもいいのかどうか不安になりました。
それと同時に、グランツ学園は私が思っているよりも、とっても大きくてエリートの学校なんだなと思いました。
リスト先生の話が終わると、教科書を一旦片付けて掃除の準備をします。
今日は図書室にも行かないし、掃除をしたらあとは帰るだけです。
「ねえねえ、クリスちゃん」
掃除のために机を後ろへ運んでいると、後ろから声をかけられました。
振り返れば、三人の女の子達に見つめられていて、どこかそわそわしています。
「なあに?ミルティちゃん、シーナちゃん、サラちゃん」
声をかけてきたミルティちゃんは、落ち着かない様子で手を組みながら訊いてきました。
「クリスちゃんは、えっと、保護者…来るの?」
「え?うーん、どうだろう?訊いてみないとわからないよ」
「あ、あああ、あの!保護者となると、ク、クロード様は来られるのかしら!?」
緊張しながら言ったのはシーナちゃんで、その横でこくこくと首を縦に振っているのはサラちゃんです。
そういえば、学校初日にお兄ちゃんパニックで付いてきたのもこの三人だったかもしれないです。
この三人…ミルティちゃんとシーナちゃんとサラちゃんは、クロードお兄ちゃんのファンだそうです。
クロードお兄ちゃんが卒業式で披露した剣技に一目惚れして、それでグランツ学園に入学することを決めたほどです。
「えーと…クロードお兄ちゃんは剣の先生以外に自警団のお仕事もしてるから、来れるかどうかはわからないかな…」
「そうなの…」
三人の勢いにちょっと戸惑いながらそう答えました。
それを聴いた三人はしょんぼりして、それぞれ掃除に戻りました。
気がつけば、他の子達も私達の会話を聞いていたようで、がっかりした様子でした。
そうだよね。私もクロードお兄ちゃんが来てくれたらうれしいし、心強いよ。
私達の様子を離れたところで見ていたリィちゃんが、こっそり内緒話をするように話しかけてきました。
「クリスちゃん、保護者に来てもらうの?」
「うーん。どっちでもいいんだけど、たぶんお父さんもお母さんも来れないと思うから、参加届にサインをもらうだけになると思う」
お母さんは、ライゼンさんが届けてくれた魔導具で少しずついつもの元気を取り戻しています。
ときどき無理すると、おでかけの日の時みたいに倒れちゃうこともあるけど、それ以外は普通の生活に戻っています。
お父さんも毎日魔力を込めずによくなって、もう安心です。
でも、最近のお父さんとお母さんは、何かやることがあるみたいです。
ときどき大がかりな準備をしてどこかにでかけて行って帰ってくると、うまくいかなかったのか、ひどく落ち込んでいます。
それを見ているから、あまりお願いを言わないようにしています。
「私の保護者は来ないの。クリスちゃんがよければ、私とカイトと一緒にグループになりましょう?」
「うん!もちろんだよ!」
リィちゃんのお誘いにうれしくなって頷きます。
三人でまわれるなら、この校外学習、とっても楽しくなりそうです!
「校外学習?」
「うん、再来週あるの。サインをくれる?」
その日の晩、晩御飯が終わって一息つくと、お父さんに校外学習の案内を渡しました。
お父さんは、それを読んで困った顔になりました。
どうしたんだろう?
あ、保護者同伴のことかな?
「お父さん、一緒に来れなくても大丈夫だよ。友達とグループを組むし…」
「クリス。校外学習は休めないのかな?」
「え…っ」
思っていたのと違う答えが返ってきて、言葉に詰まってしまいました。
お父さんは、真剣な顔で見つめてきます。
意地悪で言っているわけじゃないということはわかります、でも……。
「どうして?行っちゃダメなの?」
お母さんが倒れてから、お父さんとお母さんは前よりも私を心配するようになりました。
学校に行くときは、「誰かと一緒に」と言われるし、最近では帰りにお父さんかお兄ちゃんが学園の門まで迎えに来るほど。
理由を訊けば、「心配だから」としか返ってこないので、気になりながらも無理矢理納得することにしていました。
「駄目…というわけではないんだ。本当はついて行きたいくらいだよ。でも、お父さんはどうしても抜けられない用事があって、クリスについていてあげられない」
とても苦しそうな顔で言うので、お父さんは私をとても心配しているんだなと思いました。
それでも、私は行きたい。
リィちゃんとカイト君とグループを組むって約束しました。
とっても楽しみにしてるんです!
泣きそうな顔になると、お父さんはオロオロしながら私を膝に抱っこしました。
「ごめんね、本当に。でも、とても心配なんだ。クリスに何かあったら…」
「お父さんは心配しすぎだよ。私は何もできない子どもじゃないよ」
危険なことには近づかない。
簡単に知らない人にはついて行かない。
迷子には…なるかもしれないけど、そうならないようにリィちゃんとカイト君と一緒にいれば大丈夫なはず。
勝手なこともしません!
先生だっているし、他の子の保護者もいる。
周りに頼れる大人はたくさんいます!
どんなにお願いしても、お父さんは「いいよ」って言ってくれませんでした。
お父さんがこんなに心配するのは珍しいことです。
いつもなら、「仕方ないね」って困り笑いをして許してくれます。
首を横に振って、ただただ、私を抱きしめるだけでした。
「お父さん…」
お父さんの抱っこは大好き。
でも、この抱っこは苦しい。
私の気持ちを閉じ込めてしまうものだと思ってしまいました。
「父さん、俺が行くよ」
私達のやり取りを見ていたのでしょうか。
クロードお兄ちゃんが声をかけてきました。
お父さんは、クロードお兄ちゃんに視線を投げます。
クロードお兄ちゃんもそれを受け止めて頷いているようでした。
「クロード…いいのか?自警団の仕事は代わってもらえるだろうが、学校の授業は?」
「大丈夫だよ、父さん。俺はあくまで非常勤の外部顧問の一人だから、学園を優先しなくていいんだ。俺よりも優秀な先生はたくさんいるし」
肩を竦めて軽く言うクロードお兄ちゃんに、お父さんは顔をしかめながらため息をつきました。
「…それなら…いいんだが…」
「まあ、妹の保護者として校外学習に行きますとは言えないけどな。引率の先生にされそうだから」
今度は困り笑いでそう言ったクロードお兄ちゃんは、お父さんに抱きしめられたままの私の頭をポンポンと撫でてきます。
「クリスだって、遠くに行ってみたいよな。大丈夫、お兄ちゃんが護ってやる。でも、当日まで俺が行くことは誰にも秘密だぞ?」
「お兄ちゃん…」
緩くなったお父さんの腕から抜け出して、クロードお兄ちゃんに抱きつきます。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「ああ。前に一緒にお出かけできなかったし、校外学習いっぱい楽しもうな!」
「うん!」
うれしい!
本当にクロードお兄ちゃんが来てくれるなんて!
頼もしい保護者に、はしゃいでしまいます。
お父さんは、まだ複雑そうな顔をしていましたが、最後はいつもの「仕方ないね」という顔をして許してくれました。
プリントにサインをしてくれて、その後、クロードお兄ちゃんと何かお話をしていました。
私は校外学習に行けることがうれしくて、その時二人がどんな話をしていたのか気にも留めませんでした。
初めての遠出となるこの校外学習は、後に、私の道を決めるきっかけになりました。
『はーい』
終業の鐘が鳴り、今日の授業がこれで終わりました。
組のみんなは解放されたように、席を立って帰る準備をします。
リスト先生は教室を出ようとしたところで何か思い出したのか、みんなに待つように言いました。
そして、講壇に戻ってくると授業のとは別のファイルからプリントを取り出します。
「忘れるところだった。みんな、再来週は校外学習があるぞ。このプリントを保護者の人に渡すように。これは参加届になるから、保護者の人のサインをもらってくるようにな」
配られたプリントを見ると、校外学習の日程と注意事項が書かれています。
校外学習は、三日間。
一日目はフィールドワーク。二日目は野外戦闘見学。最終日は芸術と演劇鑑賞。
どれも、自分の組を決めるきっかけになるような内容です。
注意事項を見てみれば、保護者同伴でも構わないということ。
んん?どうして保護者同伴??
「参加届にサインをもらえなければ、参加はできないからな?必ず持ってくるように。保護者と一緒に来る場合は、先生に言ってくれ」
「先生、私の家は来まーす」
「僕の家も~」
ぱらぱらとリスト先生に報告する子達を見て、首を傾げるばかりでした。
そんな私に気がついたカイト君が、そっと耳打ちしてきました。
「校外学習はオルデンから離れることになるから、心配な親はついてきてもいいってなってるんだ」
「え?心配ってどういうこと?それにオルデンの外から通ってきてる子達もいるよね?」
すると、後ろの席のリィちゃんも答えてくれました。
「オルデンは大きな守護魔法で護られているの。その中で最も強い守護魔法で護られているのは、このグランツ学園よ。だから、学園の中にいる子達は、学園が護ってくれるわ」
えっ、それって、ものすごいことなんじゃ…。
街を覆うほどの大きな守護魔法は、主に王都や防衛都市にかけられてるってクロードお兄ちゃんに聞いたことがあります。
でも、守護魔法の使い手が少ないので重要な都市にしか派遣できないんだと言っていました。
その代わりとなるのが魔導具で、オルデンはたくさんの魔導具で守護魔法を発動させていると言っていたのを思い出しました。
「外から通ってくる子達は、契約精霊や守護獣がいる子以外は親に送ってもらっている子が多いわね」
「グランツ学園は国で一番大きな学校だし、しかも優秀な生徒が多い。だから、外の人達から狙われることがよくあるらしいぞ。親が心配するのも当然だ」
リィちゃんがそう言うと、カイト君も付け足すように言いました。
「そ、そうだったんだ…」
そういえば、入校式の時を思い出してみると、みんな保護者の人や、その時は動物だと思っていたけど…おそらく守護獣が付いていました。
独りで来た私の方がちょっと珍しかったということなんですね。
あの時ライゼンさんが手を引いてくれたのも、それがあったからかな?
「クリスも気をつけろよ。おまえ、いつも独りで帰ってるだろ?」
「うん、大丈夫。最近はお兄ちゃんやお父さんが門の近くまでお迎えに来てくれてるから」
「そうなのね。それなら安心だわ」
グランツ学園は大きくて立派な学校だと思ってたけど、通っている人達もすごい人がいっぱいなんだ。
確かに、お兄ちゃん達もライゼンさんもリィちゃん、カイト君もそれぞれ得意なことがあって、普通の人よりも優れた人だと思います。
私、この学園に通っててもいいのかな?
いくらすべての人に門を開いている学園とは言っても、すごい学校にはやっぱり優秀な人が集まります。
私みたいな、魔法がうまく使えない人が通っててもいいのかどうか不安になりました。
それと同時に、グランツ学園は私が思っているよりも、とっても大きくてエリートの学校なんだなと思いました。
リスト先生の話が終わると、教科書を一旦片付けて掃除の準備をします。
今日は図書室にも行かないし、掃除をしたらあとは帰るだけです。
「ねえねえ、クリスちゃん」
掃除のために机を後ろへ運んでいると、後ろから声をかけられました。
振り返れば、三人の女の子達に見つめられていて、どこかそわそわしています。
「なあに?ミルティちゃん、シーナちゃん、サラちゃん」
声をかけてきたミルティちゃんは、落ち着かない様子で手を組みながら訊いてきました。
「クリスちゃんは、えっと、保護者…来るの?」
「え?うーん、どうだろう?訊いてみないとわからないよ」
「あ、あああ、あの!保護者となると、ク、クロード様は来られるのかしら!?」
緊張しながら言ったのはシーナちゃんで、その横でこくこくと首を縦に振っているのはサラちゃんです。
そういえば、学校初日にお兄ちゃんパニックで付いてきたのもこの三人だったかもしれないです。
この三人…ミルティちゃんとシーナちゃんとサラちゃんは、クロードお兄ちゃんのファンだそうです。
クロードお兄ちゃんが卒業式で披露した剣技に一目惚れして、それでグランツ学園に入学することを決めたほどです。
「えーと…クロードお兄ちゃんは剣の先生以外に自警団のお仕事もしてるから、来れるかどうかはわからないかな…」
「そうなの…」
三人の勢いにちょっと戸惑いながらそう答えました。
それを聴いた三人はしょんぼりして、それぞれ掃除に戻りました。
気がつけば、他の子達も私達の会話を聞いていたようで、がっかりした様子でした。
そうだよね。私もクロードお兄ちゃんが来てくれたらうれしいし、心強いよ。
私達の様子を離れたところで見ていたリィちゃんが、こっそり内緒話をするように話しかけてきました。
「クリスちゃん、保護者に来てもらうの?」
「うーん。どっちでもいいんだけど、たぶんお父さんもお母さんも来れないと思うから、参加届にサインをもらうだけになると思う」
お母さんは、ライゼンさんが届けてくれた魔導具で少しずついつもの元気を取り戻しています。
ときどき無理すると、おでかけの日の時みたいに倒れちゃうこともあるけど、それ以外は普通の生活に戻っています。
お父さんも毎日魔力を込めずによくなって、もう安心です。
でも、最近のお父さんとお母さんは、何かやることがあるみたいです。
ときどき大がかりな準備をしてどこかにでかけて行って帰ってくると、うまくいかなかったのか、ひどく落ち込んでいます。
それを見ているから、あまりお願いを言わないようにしています。
「私の保護者は来ないの。クリスちゃんがよければ、私とカイトと一緒にグループになりましょう?」
「うん!もちろんだよ!」
リィちゃんのお誘いにうれしくなって頷きます。
三人でまわれるなら、この校外学習、とっても楽しくなりそうです!
「校外学習?」
「うん、再来週あるの。サインをくれる?」
その日の晩、晩御飯が終わって一息つくと、お父さんに校外学習の案内を渡しました。
お父さんは、それを読んで困った顔になりました。
どうしたんだろう?
あ、保護者同伴のことかな?
「お父さん、一緒に来れなくても大丈夫だよ。友達とグループを組むし…」
「クリス。校外学習は休めないのかな?」
「え…っ」
思っていたのと違う答えが返ってきて、言葉に詰まってしまいました。
お父さんは、真剣な顔で見つめてきます。
意地悪で言っているわけじゃないということはわかります、でも……。
「どうして?行っちゃダメなの?」
お母さんが倒れてから、お父さんとお母さんは前よりも私を心配するようになりました。
学校に行くときは、「誰かと一緒に」と言われるし、最近では帰りにお父さんかお兄ちゃんが学園の門まで迎えに来るほど。
理由を訊けば、「心配だから」としか返ってこないので、気になりながらも無理矢理納得することにしていました。
「駄目…というわけではないんだ。本当はついて行きたいくらいだよ。でも、お父さんはどうしても抜けられない用事があって、クリスについていてあげられない」
とても苦しそうな顔で言うので、お父さんは私をとても心配しているんだなと思いました。
それでも、私は行きたい。
リィちゃんとカイト君とグループを組むって約束しました。
とっても楽しみにしてるんです!
泣きそうな顔になると、お父さんはオロオロしながら私を膝に抱っこしました。
「ごめんね、本当に。でも、とても心配なんだ。クリスに何かあったら…」
「お父さんは心配しすぎだよ。私は何もできない子どもじゃないよ」
危険なことには近づかない。
簡単に知らない人にはついて行かない。
迷子には…なるかもしれないけど、そうならないようにリィちゃんとカイト君と一緒にいれば大丈夫なはず。
勝手なこともしません!
先生だっているし、他の子の保護者もいる。
周りに頼れる大人はたくさんいます!
どんなにお願いしても、お父さんは「いいよ」って言ってくれませんでした。
お父さんがこんなに心配するのは珍しいことです。
いつもなら、「仕方ないね」って困り笑いをして許してくれます。
首を横に振って、ただただ、私を抱きしめるだけでした。
「お父さん…」
お父さんの抱っこは大好き。
でも、この抱っこは苦しい。
私の気持ちを閉じ込めてしまうものだと思ってしまいました。
「父さん、俺が行くよ」
私達のやり取りを見ていたのでしょうか。
クロードお兄ちゃんが声をかけてきました。
お父さんは、クロードお兄ちゃんに視線を投げます。
クロードお兄ちゃんもそれを受け止めて頷いているようでした。
「クロード…いいのか?自警団の仕事は代わってもらえるだろうが、学校の授業は?」
「大丈夫だよ、父さん。俺はあくまで非常勤の外部顧問の一人だから、学園を優先しなくていいんだ。俺よりも優秀な先生はたくさんいるし」
肩を竦めて軽く言うクロードお兄ちゃんに、お父さんは顔をしかめながらため息をつきました。
「…それなら…いいんだが…」
「まあ、妹の保護者として校外学習に行きますとは言えないけどな。引率の先生にされそうだから」
今度は困り笑いでそう言ったクロードお兄ちゃんは、お父さんに抱きしめられたままの私の頭をポンポンと撫でてきます。
「クリスだって、遠くに行ってみたいよな。大丈夫、お兄ちゃんが護ってやる。でも、当日まで俺が行くことは誰にも秘密だぞ?」
「お兄ちゃん…」
緩くなったお父さんの腕から抜け出して、クロードお兄ちゃんに抱きつきます。
「ありがとう!お兄ちゃん!」
「ああ。前に一緒にお出かけできなかったし、校外学習いっぱい楽しもうな!」
「うん!」
うれしい!
本当にクロードお兄ちゃんが来てくれるなんて!
頼もしい保護者に、はしゃいでしまいます。
お父さんは、まだ複雑そうな顔をしていましたが、最後はいつもの「仕方ないね」という顔をして許してくれました。
プリントにサインをしてくれて、その後、クロードお兄ちゃんと何かお話をしていました。
私は校外学習に行けることがうれしくて、その時二人がどんな話をしていたのか気にも留めませんでした。
初めての遠出となるこの校外学習は、後に、私の道を決めるきっかけになりました。
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