2 / 3
2.親友が勇者になりました
しおりを挟む
恐る恐る剣に視線を戻すと、ふわふわと剣の周りを舞っていた光の粒が僕の方に纏わりついてきた。
おばあちゃんが鞘から抜こうとしたのを見た時は、寄り付こうともしなかったのに、なんで??
本当にみんな、この光見えてないの?
っていうか、鞘から剣が抜けないっていうのもおかしな話だよね?
もしかして、剣を扱える人も抜けなかったってこと…?
さっきまで自分も剣が抜けるわけがないと思っていたけど、なんだか嫌な予感がした。
みんなに見守られながら、剣に手をかけ、鞘を持つ方の手に力を込める。
すると、纏わりつく光の粒が輝きを増していくのを感じた。
あ、面倒なことになりそう。
そう瞬時に判断した僕は、鞘からちょっとだけ抜きかけた剣を元に戻した。
「あはは。僕も抜けませんでした」
そう言って、さらっと誤魔化した。一瞬の出来事だったから、誰にも気づかれていないはずだ。…気づかれてないよね?
実際、一番近くにいたローブの人は気づいていないようで、残念そうな顔をして僕の後ろへ視線を移した。
「では、君で最後ですね。お願いします」
「はーい」
最後と言われたレオンは陽気に返事をして剣に手をかけた。
この時は誰もが思っていただろう、これは儀式のようなもので、そう易々と剣を抜ける人間はいないと。
だけど、なんてことだろう。
スラリと鞘から剣が抜けてしまった。
その瞬間、場の空気が止まったように思えた。
抜いたレオン本人もポカンとした顔で言葉を失っている。
「な、なんと……剣が抜けた…!」
そして誰が言ったかわからない言葉を皮切りに人々は大歓声を上げた。
これには僕も言葉失うほどびっくりした。
ええっ!?嘘っ、抜けちゃった!?
僕は、愚かにも元に戻せば大丈夫だと思っていたのだ。
ちょっと考えれば、全然大丈夫じゃないとわかるはずなのに…。
「すげぇ!レオン、おまえは頭の出来は良くなかったが勇者になるほどすごい奴だったんだな!」
興奮したようにバシバシとレオンの背中を叩くおじさん。
おじさん、レオが痛がってるからやめてあげて!?
って、え!?待って!?勇者って何!?
そういえば、この剣を抜く理由を教えてもらってなかったことに気がついた。今更過ぎる!!
「ほ、本当に抜けている!聖剣はこの者を勇者に選んだ!!」
そう叫んだローブの人は、震えていたけどその顔は喜びでいっぱいだった。傍にいた騎士達も興奮した様子でレオンを見つめている。
「ゆ、勇者だ!!我が村の者が勇者に選ばれたぞ!!」
村長さんが涙目で万歳をした。それにつられて、村の人達も万歳や拍手をして喜んだ。その騒ぎようはレオンをもみくちゃにするほど。
そんなみんなの様子に戸惑う親友は僕の方に振り返った。
「なんで俺??」
その言葉に僕は苦笑いを返すことしかできなかった。
※※※※※※※
これがことの顛末。
僕が抜いた(けど元に戻した)剣を後に続いたレオが抜いたことになってしまい、めでたく勇者認定をされたのだ。
いや、全然めでたくないよ!!どうしよう!!!
僕が誤魔化したばっかりに、レオンを勇者にしてしまったのだ。
チラリとレオンの方へ目を向けると、村の人達から両腕いっぱいにたくさんの花やお菓子をもらっていた。
レオ、お菓子に喜んでるところ悪いけど、後ろでローブの人と騎士達が何か相談してるし、これ絶対何か面倒なことを言われるからね!?
もし、レオンが偽物だってわかったとき、どうなるかわからない。
僕達は貴族でも偉い人でもない平民だから、最悪、偽証罪や公務執行妨害で罪に問われるかもしれない。そのことで村の人達だって巻き込んでしまうかもしれない。
そんな最悪の状況が僕の頭の中をぐるぐると巡る。
そうだ、今からでも本当は自分が剣を抜いたと名乗り出た方がいい!
誤魔化したことを責められるかもしれないけれど、レオンや村のみんなに迷惑が掛かるよりマシだ。自分がやったことの責任はとらなければいけない。
正直めちゃくちゃ怖いけどね!!
そんなことを考えているうちに、ローブの人がレオンに近づいて何かを言おうとしたのを見て、思わず叫んだ。
「す、すみません!本当は僕が剣を抜いたんです!!」
僕の言葉にみんな振り向いたけれど、すぐにレオンの方へと向き直った。
「フィールのやつ、おまえが勇者に選ばれて嫉妬してるんだ。気にするな!」
「実際おまえが剣を抜いたのを俺達が見てるんだからな。おまえが勇者だよ!」
「そうそう!レオンが勇者だ!」
レオンを取り囲む人達があれこれ言っている。
あれ?もしかして、これ僕が嘘つき扱いされてる?
ローブの人と騎士達からも睨まれている気がする。
それでも、僕は何度も自分が剣を抜いたと訴えるように叫んだ。それが逆効果になるとも知らずに…。
「いいかげんにしろ、フィール!自分が聖剣に選ばれなかったから、親友のレオンからなら奪えると思ってるのか!」
「違…っ」
「本当に抜いたのなら、そうして見せればよかったんだ!」
「それは…」
みんなの顔がだんだん険しくなってくる。もう、これは何を言っても覆せない雰囲気だった。
僕達の様子を戸惑いながら見ていたレオンは、自分の手にある剣と僕の顔を交互に見たあと、その目が真剣なものに変わった。
「ああ、俺が勇者だ!」
それは、一番言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
おばあちゃんが鞘から抜こうとしたのを見た時は、寄り付こうともしなかったのに、なんで??
本当にみんな、この光見えてないの?
っていうか、鞘から剣が抜けないっていうのもおかしな話だよね?
もしかして、剣を扱える人も抜けなかったってこと…?
さっきまで自分も剣が抜けるわけがないと思っていたけど、なんだか嫌な予感がした。
みんなに見守られながら、剣に手をかけ、鞘を持つ方の手に力を込める。
すると、纏わりつく光の粒が輝きを増していくのを感じた。
あ、面倒なことになりそう。
そう瞬時に判断した僕は、鞘からちょっとだけ抜きかけた剣を元に戻した。
「あはは。僕も抜けませんでした」
そう言って、さらっと誤魔化した。一瞬の出来事だったから、誰にも気づかれていないはずだ。…気づかれてないよね?
実際、一番近くにいたローブの人は気づいていないようで、残念そうな顔をして僕の後ろへ視線を移した。
「では、君で最後ですね。お願いします」
「はーい」
最後と言われたレオンは陽気に返事をして剣に手をかけた。
この時は誰もが思っていただろう、これは儀式のようなもので、そう易々と剣を抜ける人間はいないと。
だけど、なんてことだろう。
スラリと鞘から剣が抜けてしまった。
その瞬間、場の空気が止まったように思えた。
抜いたレオン本人もポカンとした顔で言葉を失っている。
「な、なんと……剣が抜けた…!」
そして誰が言ったかわからない言葉を皮切りに人々は大歓声を上げた。
これには僕も言葉失うほどびっくりした。
ええっ!?嘘っ、抜けちゃった!?
僕は、愚かにも元に戻せば大丈夫だと思っていたのだ。
ちょっと考えれば、全然大丈夫じゃないとわかるはずなのに…。
「すげぇ!レオン、おまえは頭の出来は良くなかったが勇者になるほどすごい奴だったんだな!」
興奮したようにバシバシとレオンの背中を叩くおじさん。
おじさん、レオが痛がってるからやめてあげて!?
って、え!?待って!?勇者って何!?
そういえば、この剣を抜く理由を教えてもらってなかったことに気がついた。今更過ぎる!!
「ほ、本当に抜けている!聖剣はこの者を勇者に選んだ!!」
そう叫んだローブの人は、震えていたけどその顔は喜びでいっぱいだった。傍にいた騎士達も興奮した様子でレオンを見つめている。
「ゆ、勇者だ!!我が村の者が勇者に選ばれたぞ!!」
村長さんが涙目で万歳をした。それにつられて、村の人達も万歳や拍手をして喜んだ。その騒ぎようはレオンをもみくちゃにするほど。
そんなみんなの様子に戸惑う親友は僕の方に振り返った。
「なんで俺??」
その言葉に僕は苦笑いを返すことしかできなかった。
※※※※※※※
これがことの顛末。
僕が抜いた(けど元に戻した)剣を後に続いたレオが抜いたことになってしまい、めでたく勇者認定をされたのだ。
いや、全然めでたくないよ!!どうしよう!!!
僕が誤魔化したばっかりに、レオンを勇者にしてしまったのだ。
チラリとレオンの方へ目を向けると、村の人達から両腕いっぱいにたくさんの花やお菓子をもらっていた。
レオ、お菓子に喜んでるところ悪いけど、後ろでローブの人と騎士達が何か相談してるし、これ絶対何か面倒なことを言われるからね!?
もし、レオンが偽物だってわかったとき、どうなるかわからない。
僕達は貴族でも偉い人でもない平民だから、最悪、偽証罪や公務執行妨害で罪に問われるかもしれない。そのことで村の人達だって巻き込んでしまうかもしれない。
そんな最悪の状況が僕の頭の中をぐるぐると巡る。
そうだ、今からでも本当は自分が剣を抜いたと名乗り出た方がいい!
誤魔化したことを責められるかもしれないけれど、レオンや村のみんなに迷惑が掛かるよりマシだ。自分がやったことの責任はとらなければいけない。
正直めちゃくちゃ怖いけどね!!
そんなことを考えているうちに、ローブの人がレオンに近づいて何かを言おうとしたのを見て、思わず叫んだ。
「す、すみません!本当は僕が剣を抜いたんです!!」
僕の言葉にみんな振り向いたけれど、すぐにレオンの方へと向き直った。
「フィールのやつ、おまえが勇者に選ばれて嫉妬してるんだ。気にするな!」
「実際おまえが剣を抜いたのを俺達が見てるんだからな。おまえが勇者だよ!」
「そうそう!レオンが勇者だ!」
レオンを取り囲む人達があれこれ言っている。
あれ?もしかして、これ僕が嘘つき扱いされてる?
ローブの人と騎士達からも睨まれている気がする。
それでも、僕は何度も自分が剣を抜いたと訴えるように叫んだ。それが逆効果になるとも知らずに…。
「いいかげんにしろ、フィール!自分が聖剣に選ばれなかったから、親友のレオンからなら奪えると思ってるのか!」
「違…っ」
「本当に抜いたのなら、そうして見せればよかったんだ!」
「それは…」
みんなの顔がだんだん険しくなってくる。もう、これは何を言っても覆せない雰囲気だった。
僕達の様子を戸惑いながら見ていたレオンは、自分の手にある剣と僕の顔を交互に見たあと、その目が真剣なものに変わった。
「ああ、俺が勇者だ!」
それは、一番言ってはいけない言葉だったのかもしれない。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる