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第十七話

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鍾乳洞から戻ってくると照りつける太陽で濡れてた服もほぼ乾いてた。

エリーと佐波井と保田の3人は走って行っただけあって、当然先に着いてたが…流石に坂道ダッシュはキツかったんだろう、椅子にも座らず、テントの中でぶっ倒れていた。
俺は乾いたとは言え、一度ずぶ濡れになった服を着続けるのも、なんだか気持ち悪いのでキャンプ場脇のシャワールームを使わせてもらった。

シャワーから帰ってみるとテントで寝ていた連中も復活してバーベキューの用意が始まっていた。

「お!帰ってきた帰ってきた。サトルー!炭に火付けてくれぇー。」
バーベキューコンロを用意していた成瀬が俺を見つけて声を掛けてきた。
「はいよー。」
返事はしたものの、炭に火を付けたことなんて多分一度も事ない…どうしよ。
「炭はそこに置いてるから、コンロに入れといて。あとごめん着火剤持ってくるの忘れたんだわ。」
どーやって付けよう…。
着火剤が無いってことは、簡単には付かないんだろうな…。
とりあえず、コンロの中ほどに小さめの炭を集めて小さな山を作った。
次に新聞紙を固めに絞って先端にライターで火をつけた。
それを見ていたエリーが近づいてきた。
コイツも鍾乳洞で濡れたのに着替えもせずにそのままの格好をしてる。
杖も持って歩き回ってるのに、皆はもう見慣れたのかツッコミもしてこない。

「便利だなそれ。」
ライターの事を言ってるらしい。
「あっちには無かったのか?」
「帝都は知らないが、イカサガンには無かったぞ。魔法があったしな。」
「それはそれで、やっぱり便利だよなぁ。」
話しながら火の付いた新聞紙をさっき作った炭の山の下に置いて、上に大きめの炭をくべていった。
これで付く筈だ。

しかし新聞紙が燃えるだけでなかなか炭に火がつかない。
上手くいかないなぁ。
「ファイグ。」
エリーがボソッと呟いた。

ボッ!
突然炭が燃え上がった。

「おい。何やってんだよ。」
「火を付けてやったんだ。」
「バカ!魔法使うなって。バレたらどーすんだよ。」
周りに聞こえない様に小声で怒ったけど、エリーは『何か悪い事したか?』って顔をしている。

「ん?どした…って燃えてんじゃん。そんなに燃え上がったらすぐ灰になっちゃうだろ!」
「え?え?」
成瀬がもう一つ作ってたバーベキューコンロを放り出して、慌てて火を消しにきた。
「こんなに火を出しちゃダメだろ。ちゃんと落ち着かせてやんないと…。」
「悪りぃ…。」
どうやら魔法を使った事はバレてないようだ。

「じゃこっちのコンロが出来たら、そっちの炭を半分移すぞ。」
成瀬のヤツ、なかなか慣れてるな。
テキパキ動き回ってる。
蒼ネエは椅子に座ったまま顔にタオルを掛けて寝ちまってる…椅子の周りにビールの空き缶が5本転がってた。
昼間っからいいご身分だ。

そう言えば保田と八尋はどこ行った?
佐波井はさっき炊事場に向かうのが見えたけど…。
まぁいいや、すぐ帰ってくるだろ。

バーベキューコンロに網を置いて、準備完了。
時計を見ると、もう夕方の5時半、まだまだ明るい時間帯だ。

とりあえず蒼ネエを起こすか。
「そろそろ起きろよ。バーベキュー始めるぞ。」
「…ん?…うん…。」
「蒼葉さん大丈夫っすか?」
「うん…大丈夫…。ちょっと頭痛いけど…。」
「飲み過ぎだ。学習能力ないよなぁ。」
「そこ…うるさいよ…。」

エリーは昼食後に下準備しておいた野菜と肉が入ったクーラーボックスをテントから出してきて早く食べたそうにしている。
「エリー、佐波井を呼んできてくれ。それと保田たち知らないか?」
「2人なら散歩して来るって出て行ったぞ…あっ帰ってきた。」
早速デートかよ。
保田もなかなかやるな。
それとも八尋から誘ったのかな?
とりあえず全員揃ったな。

「早く来いよ!始めるぞ~!」
楽しそうに話しながら近づいてくる2人に声を掛けた。
佐波井は食器を洗っていた様だ。
紙皿とかでも良かったのに、アルミ製の食器を持ってきてたようだ。
エリーは佐波井と一緒に洗った食器を持って戻ってきた。

「なになに?2人とも何処でデートしてたの?」
佐波井は白々しくクレアに問い詰めた。
「いや…まぁ…ちょっと散歩してただけだ。景色もいいし。」
八尋が照れながら取り繕っていた。

「で、保田ちゃ~ん、実際どーなんだよ?」
今度は成瀬がチャラい感じで、保田の胸を肘でツツキながら問い詰めた。
「なにが?」
「なにがって八尋ちゃんとの関係だよぉ~。」
「関係って…いや…だから散歩だよ散歩。」
なんなんだ2人とも、煮え切らないな(笑)

「ねぇ、早く食べないか?私はもう我慢できない。」
エリーが焦れてる。
右手にトルグ、左手に肉の乗った皿を持って待ち構えている。
「じゃ始めますか!」
なんとなく男3人で焼き係に廻った。

やっぱり炭で焼く肉、更に自然の中でってのが食欲をそそる。
まぁ鍾乳洞に行ったりしたから体力も使って腹が減ってるのもあるけどな。

何枚目かの肉を口に入れた時、ズボンの後ろのポケットに入れておいたスマホが鳴った。
ミヨからだ。

『楽しそうだな。』
思わず辺りを見渡した。
「まさかどっかで見てるのか?」
『私を誰だと思っている?前にも言ったが私も神の一人だぞ。それに、お前たち…特にエリーはイレギュラーな存在だからな、一応監視対象だ。時々見てるぞ。』
「やっぱり見てるんだな…。」
話しながらバーベキューコンロから離れ、皆に片手でゴメンのポーズをとってテントの裏に回った。
『一つ警告しとこうと思ったんだが、聞きたいか?』
「聞かなくても良いのか?」
『聞かなくても良いぞ、でも後で文句とか言うなよ。』
嫌な予感しかしない…。
「…なんだよ警告って…。」
『気づいてないみたいだから、わざわざ電話してやってるのに。そんな態度だとホントに教えないぞ。』
「ごめんごめん…。お願いします、教えてください!」
『もう一つのアプリを見てみろ。』
「もう一つの?あぁ魔道アプリか…ちょっと待って…。」
通話を保持したままスマホのタスクを切り替えた。
魔道アプリにバッジが付いていた。
開いて見ると、魔力探知機のボタンが点滅していた。
「これって…。」
恐る恐る開いてみた。
見るとココから2キロほど離れた所に何か居るらしい。
キビナーって書いてある。
キビナー…どっかで聞いた様な…あっ。
慌ててスマホを耳にあてた。
「キビナーってエリーが死ぬ原因になったヤツだよな?」
『あぁだから知らせてやろうかと思ってな。まぁ大群じゃないから大丈夫だとは思うが…。』
「でもトラウマになってる可能性はあるよな…。」
『とりあえず警戒だけはしておけよ。』
「解った。でももし遭遇したら戦わなきゃいけないんだよな。」
『そうだな。』
「そうだな…って…アレで戦えって事なのか?」
『アプリにアイテムがあっただろ?』
「短剣とか?」
『あぁそれで充分だろ。』
「まぁやってみるけど…でも取り逃がした場合どーなるんだ?」
『そりゃ未確認生物ってことで大騒ぎになるだろーな。』
「やっぱりか…。でもキビナーって危険生物なんじゃないか?エリーもそいつに殺されたんだろ?」
『退治して貰えればノープロブレムだがな。』
「結局丸投げなわけね…。」
『それにしても楽しそうだな。』
「…だから何処から見てるんだよ…。」
『教えられんな。』


§


ミヨとの話が終わって、辺りを気にしつつ皆のところに戻った。

なんかすげー盛り上がってるし…。
「エリー!肉ばっか食ってんじゃねぇーよ!」
放っといたらひたすら肉ばかり食べてるエリーの皿に無理やり野菜を積んでやった。
「なにをする!」
あれ?デシャヴ?
いや、この前ショッピングモールのしゃぶしゃぶ屋で同じ会話したよな?
「食い放題じゃないんだぞ!皆の分もちゃんと考えて食えよ。」
「いーよいーよ、エリーちゃんの食べっぷりみてたらこっちまでお腹いっぱいになってくるから。」
佐波井がニコニコしながら言った。
「ホント速水さんよく食べるよね。あ、こっちで焼きそば作ったから椎葉くんもだべる?』
隣のバーベキューコンロにはいつの間にか鉄板が敷かれてあって、保田が焼きそばを作っていた。
コイツ意外に器用なんだな。
「美味しいよこの焼きそば!」
八尋は保田の前を陣取ってずっと焼きそばを食べていた。
この二人…もう確定だな。
あーあ、俺も彼女欲しいなぁ。

「サトル、リンゴ買ってたよね?」
「小さい方のクーラーボックスに入ってなかったか?」
「ん?…あ、あったあった。リンゴだべる人~!」
蒼ネエがリンゴを掲げて言った。
「お!デザートっすか?」
成瀬はとりあえず何にでも反応するんだな。
「手伝いますよー。」
佐波井と八尋が蒼ネエの元に移動してワイワイ皮むきを始めた。
「エリーは食べないのか?」
「アレは果物か?果物なら食べるぞ。」
「野菜って言ったら?」
「騙されないぞ。色といい形といい果物だろ。」
エリーが肉好きってのは、今考えてみれば初めて会った時から分かっていた。
野菜も食べるには食べてるようだが、好き嫌いが激しいってのは、しゃぶしゃぶの時に解った。

「エリーちゃんも手伝ってー。」
蒼ネエに呼ばれてエリーも炊事場に走って行った。

辺りはすっかり暗くなっていた。
暗くなったのを気にしてか保田がテントの中からランタンの形をしたLEDライトを幾つか持ってきた。
「サトル手伝って。」
成瀬は手早くランタン用の支柱を立てていた。
その支柱に保田と2人で照明をぶら下げていく。

「保田、いつの間に八尋と仲良くなったんだ?」
「なんか話してたら好きなアニメが一緒でさ…。」
「なに?散歩しながらアニメの話しかしてないの?」
「いや、他の話もしてたんだけどな。」
「で?」
「で?って?」
「いやいや、保田的には八尋ってどーなんだよ?」
「え?」
「え?じゃ無くて…気になってんだろ?」
「…あぁまぁ…そうだな。」
「「おー!」」
思わず成瀬とユニゾンになってしまった。

ランタンの明かりで明るくなった処にリンゴを剥いて4人が戻ってきた。
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