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第十一話

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しばらく力が入らなくて、立ち上がることもできなかった。

ブレスレットが眩しく光った後、辺りの空気は一変した。
ミヨがブレスレットから出てた神力を解放するのに成功したみたいだ。

館内で倒れてた観光客も自体を飲み込めずに動転していた。
そりゃそうだ、多分この人たちにとっては、ただ謎の現象で気を失ってた感じなんだろう。
『おい…大丈夫か?』
床に落ちているスマホからミヨの声が聞こえる。
慌てて拾い上げて耳に当てた。
「大丈夫だ、ちょっと気圧されただけだ。」
『そのブレスレット…大事に展示されてるんだな…。』
「あぁ、なんかココの目玉みたいだぞ。」
『そうか…仕方ないな。そのブレスレットは諦めるとしよう。』
「いいのか?」
『いいんだ、お気に入りだったが、大事にしてくれているなら、そのままで構わん。』
「ってかさ、結果的にだけどこんな物騒なモノ忘れて帰るなよな。」
『物騒とはなんだ!私の力が宿った神聖な宝具だぞ!』
「自分で神聖な…とか言ってんじゃねぇよ!他には無いだろうな。」
『大丈夫だ……と思う。』
「自信ないのかよ!」
『まぁなんかあった時はまた頼む。』
「あー!あー!聞こえない!聞こえないぞ!次は頼まれても何もしないからな!」
ミヨの言葉を遮るように大きな声で断った。

「とりあえずお前の頼みごとってのは、これで終わりだよな?」
『そうだな。』
「後はエリーの件、早いとこなんとかしてくれよ…。」
『あぁ…その事なんだが…。』
「ん?」
『また後で詳細を伝える。』
「今言えばいいだろ?」
『まぁまぁ、そう急かすな。こちらからまた連絡を入れるから待っておれ。』
「気ぃ持たせやがって…。なる早で頼むぞ。」
例えランクが低くても相手は神様なんだよな…大丈夫か?俺…?

通話を切って辺りを見渡した。
すぐ横にエリーが立ち尽くしていた。
「サトル…なんか身体が変だ………なんかこう…体の底から力が湧いて来る様な…。」
言われてみれば、妙に元気になった気がする。
コレって神力を浴びた影響なのかな?

「サトルー!エリーちゃーん」
入り口でへたり込んでた蒼ネエも元気になって駆け寄ってきた。
『どーしたんだろ?なんかさっきまでダルかったのに急に身体が軽くなった感じがするのよねぇ。」

やっぱりこの辺に居た人達には少なからず神力が影響している様だった。
とりあえず、俺の…と言うよりはミヨの用事は済んだから、この後やる事が無くなった訳だけど…どっかで昼飯でも食べるか…。

「蒼ネエ!飯行こ飯!」


§


昼飯は近所の定食屋で済ませて、周辺を散策する事にした。

「ねぇサトル。」
不意に蒼ネエが声を掛けてきた。

「あのさ、せっかくこんな所まで来たんだから温泉とか入って行かない?」
「温泉?このクソ暑いのに?」
「うん、実はね、この近くに友達の家があるのよ。しかも温泉宿。」
「今から行っても無理なんじゃね?」
「大丈夫!もう部屋押さえてもらってるから。」
「早っ!なに?付いて来た理由ってそれ?」
「吉野ヶ里行くって言うからさ、久しぶりに会いたいなぁって…。」
「だったら早く言えば良いのに…。まぁ明日もやる事ないけどさ…。てもおれ着替えとか持って来てないから買いに行かなきゃ…。」
「大丈夫…とりあえず適当に持って来てるから。」
妙に荷物がデカイと思ったらそれだったのか…用意周到すぎるだろ…。

「ところで、やっぱりさっきの出来事って…。」
「いい加減信じろよ。エリーは元々別世界の住人だし、ミヨって云うあの世の番人みたいな神様もホントに存在してるんだから。」
「うん、確かにあんな体験しちゃったらねぇ…。また後でゆっくり聞かせてよ。エリーちゃんの事も改めてちゃんと知りたいし。」
「やっと信じてくれる気になったか…。」

蒼ネエと話している間、エリーはお土産屋さんの中で色々と物色していた。

「コレはなんなのだ?」
エリーにとってはお菓子よりも置物とかストラップみたいなお土産の方が気になるようだ。
「コレはキーホルダーだ。ほらココに家の鍵とかをぶら下げるんだ。」
「ほー。ではコレは?」
次から次に気になるモノを持って来ては、説明を求めて来る。
好奇心旺盛なのはいいけど、ほっとくと店にあるモノを全部解説させられそうで怖い。

散々物色した後、結局カタカナで『エリー』と焼印が押してある名前入りの木札と勾玉の付いた首飾りを蒼ネエに買ってもらって大喜びしてる。

蒼ネエも甘いよなぁ。

「そろそろ宿に行こうか?」
「そうだな、晩飯にはまだ時間はあるけど歩き回ってちょっと疲れたし。」
「ん?何処かに泊まるのか?」
あぁ、コイツは聞いてなかったんだ。

「近所に蒼ネエの友達の家がやってる温泉宿があるんだってさ。今日はそこに泊まるぞ。」


§


話によると温泉宿まで10分も歩けば着くって事だった。
なのに既に30分は歩き回ってる。
蒼ネエ…絶対道に迷ってるな。
「なぁ、宿ってどこなんだよ?」
「うーん…この辺の筈なんだけどなぁ…。」
「住所とか分かんないのかよ?」
「分かんない。ついでに宿の名前も分かんない。」
「なんだよそれ…その友達に電話してみたらいいじゃん。」
「あぁ!」
まさか思いつかなかったのか?

結局、蒼ネエの友達に迎えにきてもらって、やっと宿に辿り着いたのは夕方と言うより夜7じを回ってた。

「改めて紹介するね。短大時代の友達の茜ちゃん。この旅館の若女将。」
「どもども。蒼ちゃんとは学校ではアカアオコンビって呼ばれてたよ(笑)今日はゆっくりしていってね。」
なんか凄い気さくな人でよかった。

「とりあえず、お部屋に晩御飯用意しといたから、先に食べちゃってね。」
「茜ちゃんありがとー!」
「まぁウチは流行ってない温泉宿だから、今日もあんた達以外に二組みしか泊まってないから。温泉はロビーの右手に有るから晩御飯食べたら入っといで。」

豪華な夕食を食べながら改めて蒼ネエにコレまでの経緯を話した。

「え?って事は、サトルは気絶してただけなのに、死後の世界に行っちゃってたって事?」
「そう…で、ミヨって番人に追い帰されたんだよ。」
「エリーちゃんは別の世界で死んじゃったのよね?」
「そうだ、私の場合はその死後の世界からこっちの世界に迷い込んで来たんだけどな。」
「死んじゃったのに明るいのね…。」
「なんか死ぬ前のベストな状態で再生されたらしいよ。」
「で?吉野ヶ里まで来た理由って言うのがお昼にあった不思議な出来事な訳ね。」
「まぁそんなトコだな。で、このアプリでミヨと連絡が取れるって訳だ。」
「ふーん…あの世の番人と連絡が取れるんだぁ。神様って凄いね。」
他人事ひとごとだと思って…。

「そういえばエリーの事、また後で連絡するって言ってたな。行き先が決まったのかな?」
「私は別にこのままでも良いんだけどな…。」
「そうもいかないんじゃないか?お前ってこの世界じゃかなりイレギュラーな存在だからな。」

そんな話をしているとミヨから着信がきた。
「はいはーい。」
『エリーの処遇が決まったぞ。』
「やっとか…。」
『おい!ちょっと待て!私はお前の頭のドアップなんか見たくないぞ。』
「ん?」
『ビデオ通話だ!馬鹿者!察しろよ!』
慌てて耳からスマホを離し、テーブルに置いた。

「こんな機能もあったのか…。」
「わぁ!貴女がミヨちゃん?はじめましてぇ蒼葉でーす。」
『誰だお前は?』
「従姉妹の姉ちゃんだよ。」
『なんでそんなヤツがココに居るんだ。』
「お前が所構わず連絡してくるからだろーが!」
『ま…まぁ仕方ない…他には知られるなよ…。』
薄暗い画面にバツの悪そうな顔をしているミヨが映る。

『それは良いとして、エリーの事だが…。』
そうだった、エリーの行き先が決まったって話だった。

『協議の結果、そのまま其方の世界に居てもらうことになった。』
「え?え??なんで?」
『まぁあれだ、他の世界に行くためには、また死ななきゃ生まれ変われないからな。』
「はぁ?じゃどーすんだよコイツ。戸籍も何も無いんだぞ。」
『その辺は問題ない。お前の帰国子女の従姉妹と云う設定で其方の世界の記録を改ざんしておいた。』
「帰国子女の従姉妹って…まさかあの話し聞いてたのか?」
ミヨのヤツ絶対この前、学校で成瀬についた嘘を聞いてたな…。

「でも住むところとか、年齢的に学校行くか働かなきゃだろ…。」
『住む所ならお前の家があるじゃないか。学校も同じところに通えるようにしといてやったぞ。』
「な…なんでウチなんだよ。しかも学校もって…。」
『従姉妹なんだろ?』
ミヨは、してやったりな感じでニヤリと笑ってる。

『とりあえず生活費も必要だろ?明日、帰りに宝くじを一枚買ってみろ。当ててやるから。』
「当ててやるって…なんだよそれ…。」
ホントに当たるのか?

『ところで蒼葉と言ったか?』
「はいはい。」
『私とエリーの事は他言無用で頼むぞ。』
「はい…まぁ言っても誰も信じてくれないでしょうけど。」
『エリー、お前もそっちの世界で頑張れよ。』
「なんか良くわかんないけど、ありがとうございます。」
『それとサトル。』
「ついでみたいに言うな。」
『今後なにかあった時の保険としてこのアプリはそのままにしておく。何かと便利だしな。』
「えーもう用事とか無いだろ?」
『まぁいいじゃないか。保険だ保険。』
「なんか引っかかるなぁ…。」
『じゃぁな。また…。』
「あーちょっと待て!」
『なんだ?』
「エリーの魔法とか持ち込んだ魔道具って使っても問題ないのか?」
『…うーん問題ありだな。』
「どーすんだよ?」
『考えておく。じゃぁまた後で連絡する。』

そう言い残してビデオ通話は切れた。
ミヨってやっぱり自己中だよな…。

「ねえねえ、ミヨちゃんってアンタの話だと軽く1800年は生きてるって事でしょ?凄く若くない?」
「そこじゃないだろ…。」
「あのぉ…私はどおすれば…。」
「とりあえず今のままで良いんじゃない?ね!サトル。」
「えー…。」
最悪だ…両親の居ない間の気ままな独り暮らしの予定が台無しだ…。
結局、エリーを押し付けられてしまったじゃないか…。

「じゃエリーちゃん、お風呂行こっ。」
ふて腐れてる俺を余所に二人は部屋を出て行った。
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