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第十六話

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家に帰り着いたのは空が白み始めた頃だった。
家に帰ったら蒼ネエはもう自室で寝ているようだった。
リビングに行くとユウキがソファで寝ていた。
俺もエリーもユウキを起こさない様に自室に戻って寝ることにした。

目が覚めたのは昼過ぎだった。
リビングから話し声が聞こえる。
エリーと蒼ネエの声だ。
ユウキは帰ったのか?

ドアを開けてリビングに出て行くと、2人の視線が飛んで来た。
「おはよ。ユウキは帰ったのか?」
「さっき起きて帰ったぞ。」
「そういえば向こうから何持って帰って来たんだ?」
「あぁ色々とな。」
「色々ってなに?私も見てみたい。」
「ちょっと待ってて。」
エリーが部屋から大きな袋を持ってきて中身をリビングの床に並べはじめた。
なんかいっぱい持って来たな。
「そんなにいっぱい、どこから持って来たんだ?」
「家からだ。」
「家って、エリーの家か?」
「うん、何年も放置してあったから、荒れ放題だったがな。」
「ミヨとユウキの話ではイカサガンは滅んだって言ってたけど…。」
「確かに人は見当たらなかったな。街と言うよりイカサガン全体が封鎖されていた。」
「封鎖って…よっぽどなんじゃないのか?」
近隣の街もいくてか全滅してたみたいでな、ユウキが住んでたってリツネ村で聞いたんだけど、奇病の原因はまだ判らないって事になってたんだが…帝都が何か隠してる様な感じだった。」
「隠してるって…なんの目的で?」
「うん…いったい何の為に隠してるのか判らない。」
「だよな…。なんかよっぽどヤバイことなのかな?」
「向こうでちょっと調べてはみたんだけどな…判っているのはイカサガンだけが封鎖されていたって事くらいだな。あとイカサガンの住人の大半は帝都に移住したらしいって事だ。」
「ミヨが言ってたのとだいぶ違うな。神様って言っても当てにならないよなぁ。」
「でも私は故郷が滅んだ事より、皆が無事だったって事だけで嬉しい。」
「そうだな。」
「あと家に帰った時にひとつ気になるとモノを見たんだ。」
持って帰ってきたモノについて聞こうと思ってるのに、なかなか話が終わらない。
まぁ、久しぶりに帰郷した訳だし仕方ないか。

「私の住んでた頃は、滅多にモンスターは出なかった筈なんだけどな、至る所にモンスターが居たんだ。それと遠目に見えたんだけど、街の中央部に見た事のない塔が建っていたみたいだ。」
「見に行かなかったのか?」
「うん、帝都の兵士が監視してたみたいだったから…。」
「ますます怪しいな。その塔もかなり怪しいと思うぞ。」
「うん、私もそう思う。」
状況証拠だけでも、明らかにその帝都ってのが怪しいよな。
そう言えば、帝都にはエリーの両親も居るって言ってたよな。
エリーはイカサガンが滅ぶ前に帝都に向かった訳だけど、偶然にしてはタイミングが良い様な…でもコイツは結果的には帝都に辿り着く前に死んじゃった訳だけど、その知らせって帝都には届いてるのかな?

「なぁ、エリー…お前の両親はお前が死んだ事って知ってるのか?」
「ミヨ殿は知ってるんじゃないかって言ってた。」
「でも家はそのままだったんだろ?」
「うーん…そのままでは無かったぞ、サトルが言うように向こうとの時間の流れが違うみたいで、何年も経ってるからなのか、それとも空き巣に荒らされたからなのかは分からないが、無茶苦茶な状態だった。でも、地下の研究室は無事だったぞ。なにしろ私が巧みに魔法で隠しておいたからな。」
自分の施した魔法がしっかり地下室を守っていたのが余程嬉しかったんだろう、自慢げにそう言った。

「ねぇ、エリーちゃん。そろそろこの持って帰ってきたモノについて説明してよ。」
その声に蒼ネエの存在を完全に放ったらかしにしていたのに気がついた。

「あぁそうだな。まずコレはユウキの修行様に使えると思って持ってきたんだ。」
そう言って指差したのは、先日高島が付けていた、あのブレスレットに似ているモノが3本置いてあった。

「コレって…。」
「そうだ、アレと同じヤツだ。」
やっぱりな、って事は3段階のレベルアップに使えるって事なのかな?

「そして魔法石も何かの役に立てばと思って、有るだけ持ってきた。」
蒼ネエは、その魔法石が気にらるようで、一つずつ手にとって光にかざして見ている。

「ねぇコレって宝石かなにかなの?」
「うーん、宝石と言えば宝石かな?でもたいした物じゃないぞ。」
「この赤いのはナニ?」
「持ってきた魔法石にはまだ何も魔力を込めてないからただのキレイな石だ。まぁ一目で分かるように魔法の特性に合わせて魔力を入れるけどな。」
「じゃ赤は炎だね。こっちの青は水?」
「そんな感じだ。」
「コレは何だ?」
パッと見、使い道の分からない道具が何点か並べられていた。
「それは、薬の調合に使う道具だ。この前の月光草とかも、本来コレで調合するんだ。」
後はアクセサリーみたいなのも有るけど、多分コレも魔道具なんだろうな。
「後はたいした物が無いな。」
「何を言う。全部大事な物だぞ。合成用の素材なんかもあるから、サトルの武器素材にも使えるんだぞ…。」
「武器素材って例えば?」
「その魔導アプリの短剣だけじゃ心許ないだろ?だから普段から携帯出来る感じのモノも作れるぞ。今度作っといてやるから楽しみに待っててくれ。」
「あ…ありがと。」
「エリーちゃん、私にも何か作って欲しいなぁ。」
「勿論だ。蒼葉ちゃんにもちゃんと考えてるよ。」
「じゃ何が出来るか楽しみにしとくね。」

ブブブッ

ミヨからだ。
ビデオ通話じゃないな…なんだろ?
「もしもし?」
通話ボタンを押して、リビングから離れ自室に向かった。
ちょっと気になることもあるしな…。

『ちゃんと固定化出来たみたいだな。』
「…ちょっと良いか?」
『なんだ?』
「あの時空の歪みってさ、お前が意図的に作ったんじゃ無いのか?」
『な、何を根拠に…。』
「だってさ、偶然にしては出来すぎなんだよな、色々と…。」
『何が出来すぎなんだ?』
「例えば、今回の出現場所だ。他の場所でも不思議じゃ無いのに、なんでピンポイントで空き部室なんだよ。不自然過ぎるだろ。」
『いやいや、そんな事は無いだろ。』
「いやいや、都合良すぎだって。それに、なんで今回に限って穴の固定を許したんだよ?なんか企みがあるんじゃ無いか?白状しろよ。」
『白状しろって…お前私が神だって忘れてないか?』
「忘れてないよ。」
まぁ何度神って言われてもミヨには威圧感とか…そう威厳ってモノをあんまり感じないんだよな。

『まぁひとつだけ言えるとしたら、なんであの場所に歪みが発生したかなんだが…。』
ミヨは、ちょっと口ごもって話を続けた。

『最初は、もうちょっとズレた所に発生してたんだ。ただ、お前に知らせる前にネコが迷い込んでしまってな…。』
「ちょっとズレた所ってどこだよ?」
『今穴が開いている部屋と右隣の部屋に掛けての前辺りだ。』
「部室の前って…外に開いてたって事か?」
『そうだ、しかも今の倍以上の大きさでだ。だこら無理矢理あの場所に移したんだ。』
「無理矢理って…どんな力業だよ…。」
『まぁそう言う訳だ。』
「待て待て…『そう言う訳だ。』じゃないよ。無理矢理穴の位置をズラしたってのは分かったよ。でもなんで固定化を許したんだよ。それが一番気になるんだよ。」
『いや、ひとつだけ言えるとしたらって言ったじゃないか。二つ目は無しだ。』
「それは納得出来ないぞ。ちゃんと説明しろよ。」
『ちぇっ…心配して電話してやったのに…。』
電話の向こうで、凄く小さな声で呟いてたのを俺は聞き逃さなかった。
「なんか言ったか?」
『いや何でもない。』
「とにかくなんで固定化を許してくれたのかを聞かせてくれよ。でないとなんか気持ちが悪い…。」
『………。』
「ダンマリか?」
『…仕方ない、もうちょっと時期を見て話そうと思ってたんだが、今解っている事から話してやる。』
「解ってること?」
『あぁ、時空の歪みについてだ。まず穴が開く場所についてだ…。』

ミヨが言うには、開いた穴の向こう側と言うのが、エリーがこちらの世界に来る前に訪れた場所に起因しているらしいと言う事だった。
そして、こちら側に開く場所については俺とエリーの居る場所の近く…まぁ半径5キロ圏内の何処かって凄くアバウトな範囲みたいだけど…。
まぁ、直ぐに駆けつけられる距離って感じだけど、なんか法則がないのかな?

それと重大な事をサラッと言われた。
イカサガン滅亡についてだ。
エリーがイカサガンの自宅に一度戻ったと話したから、渋々話してくれた様だったが、どうも帝都の誰かがイカサガンを何かの実験場として使っているみたいだ。
実験には広大な土地が必要らしくて、それで場所の確保を目的に伝染し易くまだ地方にはあまり知られていない病気をわざと持ち込んで、住人を避難させると共にイカサガンを封鎖して、実験場を作り上げたって事らしい。
やる事がエゲツないな…。
そんな形で故郷を追われた人達って、可哀想過ぎるだろ。

初期の感染者数名は亡くなった様だが、皆体力の無い老人だったらしい。
まぁ老人だったから良かったって話でもないけどな。

その帝都の奴ら…何を考えてんだか…。
でもなんでイカサガンを選んだのかは解らないらしい。
研究者の誰ががイカサガンに恨みでも持っていたのか、それともイカサガン出身で何か重要な拠点になると思ったのか…。
結局、穴の向こうの世界、要はエリーの住んでた世界で今何かが起ころうとしている事は確かな様だ。

『じゃついでだ、せっかく時空の歪みを固定出来たんだ。お前達で調査しておいてくれないか?』
「汚ねえよな…絶対それが目的だっただろ…。」
『そう言うなって…私にも立場ってモノがあるだから。それとお詫びと言ってはなんだが、アプリをアップデートしておいたぞ。』
「今度はなんだよ?」
『現実の物質を制限はあるけど5つまでデジタル化して保存出来るようにしておいた。』
「なんだその超未来チックな新機能。」
『この前、そっちの世界のSFドラマを見ていて思いついたんだ。』
なんのSFドラマだよ。
まぁ役に立つ機能なら大歓迎だけとさ。

「その新機能、制限があるって言ってたけど、例えば?」
『一度に保存出来るのは5つまで、スマホのカメラで収まる範囲の人が持ち運べる程度の質量の物体だ。』
「いっこ聞いても良いか?例えばリュクサックとか、大きめのバッグに色んな物を詰め込んでデジタル化って可能なのか?」
『それは出来ない。例えば電子機器みたいないくつものパーツで構成された物はそれ自体がひとつのモノとして成立してるから、パーツひとつひとつは単体では機能しないだろ?だからひとつのモノとして認識出来るが、袋状のモノの中に多種多様なモノを詰め込んだ場合、それぞれが独立して機能出来るモノと認識してしまうから、ひとつのモノとしてはカウントされないんだ。』
「その判別ってどんな仕組みなんだよ。」
『AIだ。人工知能を使ってるんだ。凄いだろ!』
「前から気になってたんだけどさ、このアプリ作ってるのって、やっぱこっちの人間だろ?」
『よく気づいたな。メインで開発しているのはそっちから来た日本人だ。ただ他の世界の技術者もいっぱい居るぞ。さながら宇宙連邦だ。』
ミヨが見ているって言うSFドラマがなんなのか解った気がする(笑)
「とりあえず、アプリについては色々と試してみるよ。それよりどうせ断れないんだから聞くけどさ、調査って何やれば良いの?」
『それについては追って沙汰する。ではまた連絡する。』

プツッ

いうもいつも言いたい事だけ言って有無も言わせず電話を切る癖ってなんとかなんないのかな?
なんだか丸投げされてる気分にしかならないじゃないか…。
まぁとにかく、穴の管理と監視は必須だな。
出入りしても大丈夫な様に、あの部室を使えるよう学校に交渉してみよう。
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