上 下
185 / 293
13

13-9

しおりを挟む
そんな軽い反応にも俺は驚くしかない。
敢えて驚きを隠すことなく聞いた。



「渡、桃子が他の男とセックスとかそういうことしても、何も言わねー感じなの?」



昨日“桃子”があんな感じで男といる姿を渡だって見たことがあるはずで。
それなのに、何も言ってこないのか・・・。
彼女である母ちゃんが処女ではなくなったのに、何でもない感じでいるような男なのか・・・。



このパターンは予想していなかった。
全然、全く、何も予想していなかった。
母ちゃんは浮気をしたのではなく、溜まりまくっていた息子である俺が穴だけ借りてしまい、渡からぶっ飛ばされる覚悟まで出来ていた。



二度と会えない覚悟まで出来ていた。
母ちゃんと、“桃子”と、一生会わない覚悟まで出来ていた。



ヨボヨボのババアになって死ぬ“その時”が来る“桃子”にも、会わない覚悟が出来ていた。



何としてでも、“桃子”にウェディングドレスを着せる為に・・・。



桃子からの言葉を待っていると、桃子は何でもない感じで笑った。



「別に言わないでしょ。
笑いながら“どうだった?”とか聞いてきそうだけどね。」



そんな母ちゃんの反応に、俺は笑いながら立ち上がった。



分かったから。



あいつがどんな男なのか、よく分かったから。



器が違うと、よく分かったから・・・。



渡とよく似た豊を思い浮かべる・・・。



理子が他の男と結婚するのを受け入れているかのような豊を・・・。



「もし妊娠してたら、その時はまたどうするか考えるか!!
とりあえず、渡がそんな感じなら渡には言うなよ!?」



立ち上がりそう言った俺に、母ちゃんは笑う。



「こんなこと言えるわけないでしょ。」



「だな!!俺が墓場まで、いや・・・地獄まで持っていく!!
母ちゃんは覚えてねーだろうし、何も気にすんな!!
何も気にしねーで、渡と結婚しろよ!!」



地獄まで持っていく・・・。
俺は、地獄まで持っていく・・・。



一生どころか、死んでも忘れたくないから・・・。



全然幸せなセックスではなかったけど・・・。



虚しいだけのセックスだったけど・・・。



好きな女と・・・



愛して愛して仕方ない女とした、最初で最後のセックスだから・・・。



俺は死んでも忘れない・・・。



驚いた顔をしている母ちゃんの顔を見ながら、最後に目に焼き付けた“桃子”の姿を思い浮かべる。



俺は、俺を殺す・・・。



何度だって、殺す・・・。



地獄に行きたい・・・。



早く、地獄に行きたい・・・。



そしたら、叫べるのに・・・。



きっと聞こえないから・・・。



天国までは、聞こえないから・・・。



そんなことを願いながら、俺は起き上がる・・・。



笑いながら、起き上がる・・・。



そして、口を開いた・・・。



笑いながら、口を開いた・・・。



「もしも渡から何か言われたら、俺からも話すから。
俺が絶対に渡と母ちゃんを結婚させてやるから。
だから、母ちゃんは何も気にすんな。
何も気にしねーで、渡から着せて貰ったウェディングドレス姿で幸せそうに笑ってろよ。」



そう言って、俺は笑いながら歩き出した。
扉へと、歩き出した。



「・・・光一!ちょっと待って・・・」



母ちゃんの声を背中に、俺は歩き続けた。



歩き続けた・・・。



歩き続けた・・・。



歩き続けた・・・。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冷酷社長に甘く優しい糖分を。

氷萌
恋愛
センター街に位置する高層オフィスビル。 【リーベンビルズ】 そこは 一般庶民にはわからない 高級クラスの人々が生活する、まさに異世界。 リーベンビルズ経営:冷酷社長 【柴永 サクマ】‐Sakuma Shibanaga- 「やるなら文句・質問は受け付けない。  イヤなら今すぐ辞めろ」 × 社長アシスタント兼雑用 【木瀬 イトカ】-Itoka Kise- 「やります!黙ってやりますよ!  やりゃぁいいんでしょッ」 様々な出来事が起こる毎日に 飛び込んだ彼女に待ち受けるものは 夢か現実か…地獄なのか。

私を犯してください♡ 爽やかイケメンに狂う人妻

花野りら
恋愛
人妻がじわじわと乱れていくのは必読です♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~

及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら…… なんと相手は自社の社長!? 末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、 なぜか一夜を共に過ごすことに! いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……

処理中です...