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直人さんが、深く、優しい目でわたしを見下ろす。



「実は、9月・・・俺が支社に転勤になる前に麻美の本当のこと話して、よく見ておいてもらうようお願いしてた。」



「岸部長・・・全然分かりませんでした・・・。
いつもと全然変わらなかったし・・・。」



「あの人は早い段階で、麻美のこと“女王様”じゃなく“うちの姫”ってよく言っててさ。
だから、話した時も“そんな無茶させて”って結構怒られたよ。」



直人さんが少し困ったように笑っている。



「だから、この話をした時・・・岸部長は麻美に魔法が掛かったようにさせたかったんだと思う。」



「そっか・・・魔法みたいだったよ。
ピンヒールが折れた時は、驚いたけど。」



「それは、岸部長も驚いてた・・・。」



「え!?わざとじゃ・・・」



「そんなわけないだろ!!」



直人さんが焦りながら話しているから、本当のことなはずで。
わたしは、少し考え・・・笑った。



「なに?」



「副社長だ・・・。」



「副社長・・・?」



「朝ね、腕時計忘れちゃったんです。
今思い出すと、腕時計をつけるタイミングで、先に副社長からもらったボールペンを持ったんです。
だから、今日は腕時計を忘れちゃって・・・。」



その話をしていると、直人さんが明らかに不満そうな顔をしている。



「それで・・・うどんの汁を掛けられた時も、ピンヒールが折れた時も、わたしは副社長からもらったボールペンを持っていました・・・。
副社長からもらったボールペン、魔法の杖だったのかも。」



そう言いながら笑うわたしに、直人さんも最後は笑いながら「あの人本当怖いな」と言っていた。
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