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数日後
その日、俺は商店街の花屋で買った薔薇の花束を持っていた。
そしてこの前仕立てた上等なスーツを着て、駅に向かおうと商店街のアーチに向かっていた。
そしたら、向こうから絹枝が歩いてきた。
夜勤明けなのか疲れた顔をしている。
でも、俺を見てすぐに笑顔になった。
その笑顔がとても可愛くて・・・。
やっぱり、とても可愛くて・・・。
俺は慌てて視線を逸らした。
「長峰!!」
そんな俺の前に絹枝が走ってやってきた。
あの日から数日ぶりに会った絹枝は嬉しそうな顔で俺の前に立っている。
あの日別れた時とは全然違い、可愛い顔で照れたように笑って俺を見上げている。
そんな絹枝の顔を少し見てしまい、また慌てて視線を逸らした。
それから、絹枝に言った。
「これからこの前話した女の子に告白をしに行く。」
「え・・・?」
「昨日も会って、そしたら俺のことを好きだって言ってくれて。
こんなに不細工な俺のことを好きだって、大好きだって言ってくれて。
それで・・・キスまでしてくれた・・・。
凄いよな、俺こんなに不細工なのに・・・。
そんな俺にキスをしてくれた・・・。」
「・・・。」
「だから今日、告白してくる。」
「それ、何の告白?
自分は顔だけじゃなくて心までブッサイクですって告白?
美人な子から愛の言葉を囁かれてキスをされただけでコロッと告白するような、そんなブッサイクな男ですって?」
絹枝からそう言われ、これには苦笑いしか出来なかった。
全くその通りで苦笑いしか出来ないので、薔薇の花束で自分の顔を隠した。
それから、目の前に立っているであろう絹枝に言った。
「俺、絹枝のことが好きだったんだ。
ずっと昔から、絹枝のことが好きだったんだ。
こんなに不細工な顔で、絹枝のことがずっと好きだったんだ。」
やっと言えた・・・。
ずっと昔から何度も何度も言いたかったことを、やっと言えた・・・。
この不細工な顔は見えていないはずで。
この綺麗な薔薇の花束で顔が見えていないから、絹枝が大嫌いであろう不細工な顔は見えていないはず。
絹枝が言うには心も不細工らしいけど。
でも、この顔よりはいくらか不細工ではないはずだから。
だから、少しだけでも笑ってくれているかもしれない。
ほんの少しだけでも、笑ってくれているかもしれない。
そう思いながら、そう願いながら、俺は薔薇の花束を恐る恐る下ろした。
恐る恐る、恐る恐る、下ろした。
下ろした。
ずっと下まで下ろした。
なのに、どこまで下に下ろしても絹枝の顔は出てこなかった。
ゆっくりと振り返ると、随分と後ろに絹枝の後ろ姿があった。
「あとは何があれば良かったんだろう・・・。」
.
その日、俺は商店街の花屋で買った薔薇の花束を持っていた。
そしてこの前仕立てた上等なスーツを着て、駅に向かおうと商店街のアーチに向かっていた。
そしたら、向こうから絹枝が歩いてきた。
夜勤明けなのか疲れた顔をしている。
でも、俺を見てすぐに笑顔になった。
その笑顔がとても可愛くて・・・。
やっぱり、とても可愛くて・・・。
俺は慌てて視線を逸らした。
「長峰!!」
そんな俺の前に絹枝が走ってやってきた。
あの日から数日ぶりに会った絹枝は嬉しそうな顔で俺の前に立っている。
あの日別れた時とは全然違い、可愛い顔で照れたように笑って俺を見上げている。
そんな絹枝の顔を少し見てしまい、また慌てて視線を逸らした。
それから、絹枝に言った。
「これからこの前話した女の子に告白をしに行く。」
「え・・・?」
「昨日も会って、そしたら俺のことを好きだって言ってくれて。
こんなに不細工な俺のことを好きだって、大好きだって言ってくれて。
それで・・・キスまでしてくれた・・・。
凄いよな、俺こんなに不細工なのに・・・。
そんな俺にキスをしてくれた・・・。」
「・・・。」
「だから今日、告白してくる。」
「それ、何の告白?
自分は顔だけじゃなくて心までブッサイクですって告白?
美人な子から愛の言葉を囁かれてキスをされただけでコロッと告白するような、そんなブッサイクな男ですって?」
絹枝からそう言われ、これには苦笑いしか出来なかった。
全くその通りで苦笑いしか出来ないので、薔薇の花束で自分の顔を隠した。
それから、目の前に立っているであろう絹枝に言った。
「俺、絹枝のことが好きだったんだ。
ずっと昔から、絹枝のことが好きだったんだ。
こんなに不細工な顔で、絹枝のことがずっと好きだったんだ。」
やっと言えた・・・。
ずっと昔から何度も何度も言いたかったことを、やっと言えた・・・。
この不細工な顔は見えていないはずで。
この綺麗な薔薇の花束で顔が見えていないから、絹枝が大嫌いであろう不細工な顔は見えていないはず。
絹枝が言うには心も不細工らしいけど。
でも、この顔よりはいくらか不細工ではないはずだから。
だから、少しだけでも笑ってくれているかもしれない。
ほんの少しだけでも、笑ってくれているかもしれない。
そう思いながら、そう願いながら、俺は薔薇の花束を恐る恐る下ろした。
恐る恐る、恐る恐る、下ろした。
下ろした。
ずっと下まで下ろした。
なのに、どこまで下に下ろしても絹枝の顔は出てこなかった。
ゆっくりと振り返ると、随分と後ろに絹枝の後ろ姿があった。
「あとは何があれば良かったんだろう・・・。」
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