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それを見たハフリーク殿下はハツラツとした顔で大きく笑い、背負っていたクラスト陛下をユンスの方に向けた。
それを確認したユンスがまたゆっくりと立ち上がり、それからクラストを優しく担ぎ上げ、太くて長い腕で抱き込むように抱えた。
それにはクラスト陛下が物凄く驚いた顔をしている。
「クラスト陛下がさっき言ってたよね?
国に何かしらの強い感情を持ったまま死んでいった人間の魂が魔獣に入っている可能性が高いって。
そのユンスに入ってるんじゃないかな、ロンタス王の魂が。」
私の言葉にもクラスト陛下が物凄く驚いた顔をしている。
「器である身体はロンタス王の魂が入った器に借りればいいよ。
そしてクラスト陛下・・・ケリー?に国王の器がないとしても、ケリーには剣がある。」
「剣・・・?
昔は大剣も振るえていたが、今では・・・。」
「違う違う、その剣じゃなくて。」
私は3人の皇子を順番に人差し指で指差した。
ハフリーク殿下、ナンフリーク殿下、そしてソソ。
「クラスト陛下の息子である3つの剣。
それに・・・」
チチやミランダやクレド、モルダン近衛騎士団長、それから1度も頭を上げることなく膝をつき続けている王族の血が流れている人間達を指差した。
「国王の器がないのならロンタス王のような剣王になればいい。
その命が尽きるその瞬間まで、死んでいった民が、魔獣になった後も国に殺された民が、次の人生では幸せな人生を送れる国になるように、ケリーが国を立て直すことで償い続けなければいけないと思う。
そしてその背中を次の国王に見せ続けることが最後の仕事。」
皺が深く刻まれているケリーの目に鋭過ぎる光りが宿り、その目には自然と笑顔になった。
その笑顔のまま怒りで震えているジルゴバートに視線を移す。
「太陽の刻印、ケリーに返してよ。」
「嫌だ・・・絶対に渡さない・・・!!
これが俺の胸にある限り、俺は国王なんだ・・・!!
俺がこの王国の国王なんだ・・・!!」
ジルゴバートが首から下げているモノを両手で握り締めながら叫ぶ。
そんなジルゴバートの後ろでマルチネス王妃は笛を吹き続けていて・・・。
私とソソとチチは視線を絡ませ、お互いに小さく頷き合いながら剣を仕舞った。
それから3人でジルゴバートを中心に距離を詰めていく。
「やめろ・・・!!!来るな・・・!!!
俺は絶対に結ばない・・・!!!
“血の刻印”を絶対に結ばない・・・!!!」
ジルゴバートが首から下げているモノを両手で握り締めなからその場でうずくまった。
それでも構わず私とソソとチチでジルゴバートを捕らえようとしていたら・・・
「陛下・・・!!!クラスト陛下!!!
戻られたんですか・・・!!??」
“爺さん”どころか、もう死んでしまいそうな老人が王座の間に大慌てで入ってきた。
「マドニス、今戻った。
・・・戻ってもいいのだろうか。
俺は戻ってもいいのだろうか・・・。」
「私は“あの日”からクラスト陛下が戻られる日を待ち続けておりました・・・。
重鎮会議の部屋をエリナエル王妃と出ていったクラスト陛下が私におっしゃったあの日から。
”マドニス、俺が戻るまで頼んだぞ”、その言葉を胸に、“あの日”からクラスト陛下が戻られる日をこの老体に鞭を打ち続け待っておりました。」
マドニス宰相だと思われる男がほとんど開いてもいないような目から涙を流し、その場に倒れるように頭を下げた。
「戻ってきてください、クラスト陛下・・・。
そうでなければ私は先代の王にあの世で合わす顔がありません。
私のワガママです・・・全て私のワガママです・・・。
私にもう1度クラスト陛下のお傍で仕事をさせてください・・・。
まだ動けます・・・この身体はまだ動かすことが出来ますから・・・。」
マドニス宰相のそんな姿に、ケリーは静かに涙を流した。
それからユンスに乗った姿で上を見上げた。
天井窓から見える空を。
太陽が昇る空を。
「もう1度この国に太陽を昇らせよう。
どんな厄災が降りかかろうとも沈まない強い太陽を。
俺の剣になってくれるか?」
ユンスがゆっくりと歩き、王座の間にある王の座の前に立った。
私達を見渡すケリーが鋭い目をしながらも困ったように笑った。
「顔を上げてくれ、俺はケリー。
王の器がないただのケリーだ。
俺のこの命が尽きるその瞬間まで、サンクリア王国の為に・・・この王国に生きる全ての民の為に、俺の剣として戦う戦友になってくれ。」
静かで重いその言葉に、多くの人間達が立ち上がる音が聞こえた。
それに自然と笑っていた時・・・
「クラスト陛下・・・!!!
クラスト陛下、戻られたんですか・・・!!?
カンザル教会のクレバトル教皇一行がそう言いながら王宮を目指していたので、王弟殿下に排除されていましたけど俺達も戻ってきちゃいました!!!
・・・王宮に二度と入ってはいけないと明言されていたので、処刑ですかね!?」
数十人の男達がバタバタと入ってきて、それにはマルチネス王妃の笛の音が聞こえなくなるくらい王座の間は笑いで包まれた。
それを確認したユンスがまたゆっくりと立ち上がり、それからクラストを優しく担ぎ上げ、太くて長い腕で抱き込むように抱えた。
それにはクラスト陛下が物凄く驚いた顔をしている。
「クラスト陛下がさっき言ってたよね?
国に何かしらの強い感情を持ったまま死んでいった人間の魂が魔獣に入っている可能性が高いって。
そのユンスに入ってるんじゃないかな、ロンタス王の魂が。」
私の言葉にもクラスト陛下が物凄く驚いた顔をしている。
「器である身体はロンタス王の魂が入った器に借りればいいよ。
そしてクラスト陛下・・・ケリー?に国王の器がないとしても、ケリーには剣がある。」
「剣・・・?
昔は大剣も振るえていたが、今では・・・。」
「違う違う、その剣じゃなくて。」
私は3人の皇子を順番に人差し指で指差した。
ハフリーク殿下、ナンフリーク殿下、そしてソソ。
「クラスト陛下の息子である3つの剣。
それに・・・」
チチやミランダやクレド、モルダン近衛騎士団長、それから1度も頭を上げることなく膝をつき続けている王族の血が流れている人間達を指差した。
「国王の器がないのならロンタス王のような剣王になればいい。
その命が尽きるその瞬間まで、死んでいった民が、魔獣になった後も国に殺された民が、次の人生では幸せな人生を送れる国になるように、ケリーが国を立て直すことで償い続けなければいけないと思う。
そしてその背中を次の国王に見せ続けることが最後の仕事。」
皺が深く刻まれているケリーの目に鋭過ぎる光りが宿り、その目には自然と笑顔になった。
その笑顔のまま怒りで震えているジルゴバートに視線を移す。
「太陽の刻印、ケリーに返してよ。」
「嫌だ・・・絶対に渡さない・・・!!
これが俺の胸にある限り、俺は国王なんだ・・・!!
俺がこの王国の国王なんだ・・・!!」
ジルゴバートが首から下げているモノを両手で握り締めながら叫ぶ。
そんなジルゴバートの後ろでマルチネス王妃は笛を吹き続けていて・・・。
私とソソとチチは視線を絡ませ、お互いに小さく頷き合いながら剣を仕舞った。
それから3人でジルゴバートを中心に距離を詰めていく。
「やめろ・・・!!!来るな・・・!!!
俺は絶対に結ばない・・・!!!
“血の刻印”を絶対に結ばない・・・!!!」
ジルゴバートが首から下げているモノを両手で握り締めなからその場でうずくまった。
それでも構わず私とソソとチチでジルゴバートを捕らえようとしていたら・・・
「陛下・・・!!!クラスト陛下!!!
戻られたんですか・・・!!??」
“爺さん”どころか、もう死んでしまいそうな老人が王座の間に大慌てで入ってきた。
「マドニス、今戻った。
・・・戻ってもいいのだろうか。
俺は戻ってもいいのだろうか・・・。」
「私は“あの日”からクラスト陛下が戻られる日を待ち続けておりました・・・。
重鎮会議の部屋をエリナエル王妃と出ていったクラスト陛下が私におっしゃったあの日から。
”マドニス、俺が戻るまで頼んだぞ”、その言葉を胸に、“あの日”からクラスト陛下が戻られる日をこの老体に鞭を打ち続け待っておりました。」
マドニス宰相だと思われる男がほとんど開いてもいないような目から涙を流し、その場に倒れるように頭を下げた。
「戻ってきてください、クラスト陛下・・・。
そうでなければ私は先代の王にあの世で合わす顔がありません。
私のワガママです・・・全て私のワガママです・・・。
私にもう1度クラスト陛下のお傍で仕事をさせてください・・・。
まだ動けます・・・この身体はまだ動かすことが出来ますから・・・。」
マドニス宰相のそんな姿に、ケリーは静かに涙を流した。
それからユンスに乗った姿で上を見上げた。
天井窓から見える空を。
太陽が昇る空を。
「もう1度この国に太陽を昇らせよう。
どんな厄災が降りかかろうとも沈まない強い太陽を。
俺の剣になってくれるか?」
ユンスがゆっくりと歩き、王座の間にある王の座の前に立った。
私達を見渡すケリーが鋭い目をしながらも困ったように笑った。
「顔を上げてくれ、俺はケリー。
王の器がないただのケリーだ。
俺のこの命が尽きるその瞬間まで、サンクリア王国の為に・・・この王国に生きる全ての民の為に、俺の剣として戦う戦友になってくれ。」
静かで重いその言葉に、多くの人間達が立ち上がる音が聞こえた。
それに自然と笑っていた時・・・
「クラスト陛下・・・!!!
クラスト陛下、戻られたんですか・・・!!?
カンザル教会のクレバトル教皇一行がそう言いながら王宮を目指していたので、王弟殿下に排除されていましたけど俺達も戻ってきちゃいました!!!
・・・王宮に二度と入ってはいけないと明言されていたので、処刑ですかね!?」
数十人の男達がバタバタと入ってきて、それにはマルチネス王妃の笛の音が聞こえなくなるくらい王座の間は笑いで包まれた。
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