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私の発言にマルチネス王妃の笛の音だけが響いている。
結構長い時間マルチネス王妃の笛の音が響いていく。
グースもエリーも天井窓に立ち続けるユンスも何も反応しない中、マルチネス王妃の笛の音だけが虚しく響き続けている。
そんな時間の中でクラスト陛下の笑い声だけが聞こえてきた。
「俺はこの国を傾かせた愚王。
ダンドリーよりもミランダよりも王の器がなかった国王の息子。
俺よりも王の器があったダンドリーとミランダがその身体を俺に渡してくれたのに、俺はこの国を傾かせた。
多くの民が死んでしまったのは俺の責任だ。
そんな俺が太陽の刻印を持つことは二度と許されないだろう。」
「じゃあ誰が太陽の刻印を持つことが許されるの?ソソ?」
「そうだな、これほどまでに王の器が磨かれたステルか・・・」
言葉を切ったクラスト陛下が楽しそうに笑いながら私のことを指差してきた。
「ステルよりも遥かに強く光るキミ、ルル。
国王の子ども、またはそれに準ずる者、その者がサンクリア王国の国王になると明言されている。
俺よりも王の器があるダンドリーとミランダの娘だ、それに準ずる者に当てはまらないこともないだろう。
太陽の刻印の問題が解決出来ればルルでも・・・」
そこまで聞いてから、私は慌てて言葉を遮った。
「私はこの国の民のことだけを考えられる人間ではないから!!」
「そうなのか?」
「うん、私の命は国王になるソソの為に、国王になったソソの為に使う。
5歳の時からそうやって生きてきた。
ソソが統率し指揮を取る王国の為だけに私の命はある。」
「そして、実際にその命に代えてまで守った・・・。
だからそこまでの光りを放つ聖女になったのか。
この王国にその身を捧げることの出来る花持ちと呼ばれる女性が条件を満たした時、聖女の刻印が刻まれる。
そしてその刻印を刻んだ王の器がある者と心が結ばれ続けている限り“血の刻印”は結ばれ、胸の真ん中の花は咲き続ける。」
クラスト陛下がそこまで言い、苦しそうにしながらも大きな声で笑った。
「そんなことが起きるのは数百年に1度あるかないかの出来事。
それがこの短期間に2人の聖女が現れるとはな。
それもどちらもヒヒンソウの花の刻印を持つ聖女。」
クラスト陛下が楽しそうに笑い、ミランダの方を見た。
そして優しい優しい顔で笑い掛ける。
「俺の王国でよく待っていてくれたな、遅くなった。」
「遅すぎ、ケリー・・・!!!
私もうこんなに老けちゃった・・・!!!」
「そうだな、結構老けたな。
でも俺の方はもっと酷い、こんな姿になってしまった。
太陽の刻印が持てるかどうか以前に、1人ではこの王国の民の前に立つことも出来ない身体になった。」
「僕が背負い続けるよ。」
「ハフリークも世界を回ったことで各国と繋がりを持てた。
王国の為にして貰いたい仕事も多くある。」
「じゃあ、僕が。」
「ナンフリークは民の気持ちに寄り添うことの出来る優しい心を持っている。
その心が必要となる仕事は多くある。」
「俺は無理だな、国王陛下を背負いながら剣を振るえないこともないが、第2騎士団は民の為の騎士団。
近衛騎士団なら分からなくもないが・・・。」
「ステルには第2騎士団の団長以外に政務も学ばせたい。
俺を背負っている時間などない。
それに近衛騎士団の団長ならもう戻った。」
「俺を近衛騎士団の団長に戻すつもりなら太陽の刻印をまずはどうにかしろ。
俺を近衛騎士団から除籍するとお前が明言しておくと言ってただろ。」
最後にチチがそう言うと、クラスト陛下は困ったように笑った。
「俺の器でもある身体はこんな身体だ。
とてもではないが国王が務まる器ではない。」
クラスト陛下の静かで重い声が響いた時・・・
ドン─────────────ッ
と、鈍い音と大きな振動が王座の間に。
右手でナイフを強く握り締めながら振り向くと、いた。
いた。
ユンスが、いた。
頭部にだけ毛があるユンス。
個体によってその色が違い、燃えるような赤い色を持つユンスが。
「・・・殺しなさい!!!
エリナエルを殺しなさい!!!!」
マルチネス王妃が狂ったように叫び、また笛を吹き始めた。
チチは剣を構えながらクラスト陛下の方に向かおうとしたけれど、私は制止のポーズを取った。
そしたら、ソソも同じことをしたのが視界の隅に入った。
それに小さく笑っていると、ユンスがゆっくりゆっくりと歩き・・・
ハフリーク殿下が背負うクラスト陛下の前に。
そして・・・
魔獣の動きとは思えないくらい静かに、その場で片膝をつき・・・
頭を下げた。
燃えるような赤い毛がある頭を。
結構長い時間マルチネス王妃の笛の音が響いていく。
グースもエリーも天井窓に立ち続けるユンスも何も反応しない中、マルチネス王妃の笛の音だけが虚しく響き続けている。
そんな時間の中でクラスト陛下の笑い声だけが聞こえてきた。
「俺はこの国を傾かせた愚王。
ダンドリーよりもミランダよりも王の器がなかった国王の息子。
俺よりも王の器があったダンドリーとミランダがその身体を俺に渡してくれたのに、俺はこの国を傾かせた。
多くの民が死んでしまったのは俺の責任だ。
そんな俺が太陽の刻印を持つことは二度と許されないだろう。」
「じゃあ誰が太陽の刻印を持つことが許されるの?ソソ?」
「そうだな、これほどまでに王の器が磨かれたステルか・・・」
言葉を切ったクラスト陛下が楽しそうに笑いながら私のことを指差してきた。
「ステルよりも遥かに強く光るキミ、ルル。
国王の子ども、またはそれに準ずる者、その者がサンクリア王国の国王になると明言されている。
俺よりも王の器があるダンドリーとミランダの娘だ、それに準ずる者に当てはまらないこともないだろう。
太陽の刻印の問題が解決出来ればルルでも・・・」
そこまで聞いてから、私は慌てて言葉を遮った。
「私はこの国の民のことだけを考えられる人間ではないから!!」
「そうなのか?」
「うん、私の命は国王になるソソの為に、国王になったソソの為に使う。
5歳の時からそうやって生きてきた。
ソソが統率し指揮を取る王国の為だけに私の命はある。」
「そして、実際にその命に代えてまで守った・・・。
だからそこまでの光りを放つ聖女になったのか。
この王国にその身を捧げることの出来る花持ちと呼ばれる女性が条件を満たした時、聖女の刻印が刻まれる。
そしてその刻印を刻んだ王の器がある者と心が結ばれ続けている限り“血の刻印”は結ばれ、胸の真ん中の花は咲き続ける。」
クラスト陛下がそこまで言い、苦しそうにしながらも大きな声で笑った。
「そんなことが起きるのは数百年に1度あるかないかの出来事。
それがこの短期間に2人の聖女が現れるとはな。
それもどちらもヒヒンソウの花の刻印を持つ聖女。」
クラスト陛下が楽しそうに笑い、ミランダの方を見た。
そして優しい優しい顔で笑い掛ける。
「俺の王国でよく待っていてくれたな、遅くなった。」
「遅すぎ、ケリー・・・!!!
私もうこんなに老けちゃった・・・!!!」
「そうだな、結構老けたな。
でも俺の方はもっと酷い、こんな姿になってしまった。
太陽の刻印が持てるかどうか以前に、1人ではこの王国の民の前に立つことも出来ない身体になった。」
「僕が背負い続けるよ。」
「ハフリークも世界を回ったことで各国と繋がりを持てた。
王国の為にして貰いたい仕事も多くある。」
「じゃあ、僕が。」
「ナンフリークは民の気持ちに寄り添うことの出来る優しい心を持っている。
その心が必要となる仕事は多くある。」
「俺は無理だな、国王陛下を背負いながら剣を振るえないこともないが、第2騎士団は民の為の騎士団。
近衛騎士団なら分からなくもないが・・・。」
「ステルには第2騎士団の団長以外に政務も学ばせたい。
俺を背負っている時間などない。
それに近衛騎士団の団長ならもう戻った。」
「俺を近衛騎士団の団長に戻すつもりなら太陽の刻印をまずはどうにかしろ。
俺を近衛騎士団から除籍するとお前が明言しておくと言ってただろ。」
最後にチチがそう言うと、クラスト陛下は困ったように笑った。
「俺の器でもある身体はこんな身体だ。
とてもではないが国王が務まる器ではない。」
クラスト陛下の静かで重い声が響いた時・・・
ドン─────────────ッ
と、鈍い音と大きな振動が王座の間に。
右手でナイフを強く握り締めながら振り向くと、いた。
いた。
ユンスが、いた。
頭部にだけ毛があるユンス。
個体によってその色が違い、燃えるような赤い色を持つユンスが。
「・・・殺しなさい!!!
エリナエルを殺しなさい!!!!」
マルチネス王妃が狂ったように叫び、また笛を吹き始めた。
チチは剣を構えながらクラスト陛下の方に向かおうとしたけれど、私は制止のポーズを取った。
そしたら、ソソも同じことをしたのが視界の隅に入った。
それに小さく笑っていると、ユンスがゆっくりゆっくりと歩き・・・
ハフリーク殿下が背負うクラスト陛下の前に。
そして・・・
魔獣の動きとは思えないくらい静かに、その場で片膝をつき・・・
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