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「俺よりもずっと強くなったか、ソソ。」



チチが物凄く悔しそうな顔でそう言って、剣をゆっくりと下に下ろした。



「次の人生、な・・・。
インソルドとインラドルならではの考え方だよな。
それがなければあんな場所で生き抜くことは出来ない。」



チチが困ったように笑い、尻餅をついているジルゴバートを見下ろした。



「こいつの遺体がなければ次の国王や国王代理を置くことは出来ない。
こいつは“血の刻印”を結ぶはずがないからな。」



「ダンドリー、やめろ。
王座の間で血を流すことは許されない。」



クラスト陛下がそう言って、優しい顔でジルゴバートを見下ろした。
ハフリーク殿下の上から。



「ジルゴバート、太陽の刻印をステルに預けてくれるか?」



「ステルに・・・!?
そんなバカなことをするか・・・!!
黒髪持ちは国を滅ぼそうとする・・・!!
やっぱり滅ぼされた・・・!!
俺の王国を滅ぼされた・・・!!
拾うんじゃなかった・・・あの時こいつを拾うんじゃなかった・・・!!」



「そうだな、黒髪持ちは国を滅ぼそうとする。
この王国では過去に2度黒髪持ちの王族が生まれた。
1度目はクリア王国だった時代、黒髪持ちの皇子が生まれた翌日にロンタス王の兄である当時の国王が殺された。
2度目はやはり黒髪持ちの皇子が生まれて数日後、疫病が蔓延し多くの民が死んだ。
他の3つの大国でも黒髪持ちの王族については天に返していることもあり、この国でも黒髪持ちが生まれたらすぐに天に返すようにという明言がされることとなった。」



クラスト陛下が静かで重い声で話し、その声はマルチネス王妃が吹く笛の音の中で響いていく。



「その明言を太陽の刻印で“棄てる”という明言にしたが・・・。」



クラスト陛下が悲しい顔でソソのことを見た。



「大国である3つの国とばかり交流を続けていたからな、良くも悪くも。
世界はもっと広かった・・・。
地図では4つの大国と3つの小国しか書かれていない。
でも現実の世界ではそれ以上に、“国”と言ってもいいであろうモノが多く存在していた。」



そんな話には驚いていると、クラスト陛下がソソを真っ直ぐと見詰め続けたまま続ける。



「それらの“国”で言われていたことの1つに、“黒髪持ちが生まれたら厄災の前触れである”、というものがあった。」



ソソが自分の髪に少しだけ触れた。



その時、クラスト陛下が・・・



「“だから、備えよ。”」



重い重い声でそう言った。



「マルチネス妃が生まれ育った隣国では実際多くの黒髪持ちの者が生まれていた。
王族や貴族だけではなく平民の中でも。
隣国では古くから黒髪持ちの者達を天に返し続けていた。
この世界で最初に大きくなった国、この世界で1番の大国であるリングドウル王国。
その大国に国を殺させないよう、3つの小国が中規模だったクリア王国に攻め込んだ。
クリア王国を落とし4つの国を1つの大国にする為に。
中規模でありながらリングドウル王国にも負けない強い国であったクリア王国が必要だという動機だった。」



王宮に来てから私も学んだ歴史を話すクラスト陛下。
重い声を出しながらも息苦しそうに声を出し始めた。



それでもソソのことを真っ直ぐと見詰め続ける。



「黒髪持ちが国を滅ぼそうとするのではない。
黒髪持ちが生まれた時、厄災が降りかかる大きなモノが訪れる。
だから、備えよ・・・っ。」



クラスト陛下が息苦しそうに呼吸を始め、そんなクラスト陛下の代わりにハフリーク殿下が口を開いた。



「どんな厄災も祓えるくらいの力を備えよ。
例え小さな小さな“国”だとしても。
地図に載ることはない、他国に認識されることもない“国”だとしても。」



ハフリーク殿下が力強くソソを見詰める。



「グースで回っていても信じられないくらい世界は広かった。
あの地図に載っているのはこの世界のほんの一部。
“死の森”は恐ろしほど広がっている。
その全容など確認出来ないほどに。
恐ろしいほど広がり、そして・・・」



ハフリーク殿下が言葉を切り困ったように笑った。



「変化をしているようで。
だから地図ではこの世界全てを載せることは出来ない。」



「だから・・・っ俺達が認識しているこの世界の理など・・・っ何の意味も持たない・・・っ。
それくらいに広い・・・この世界はあまりにも広い・・・っ」



クラスト陛下が息を切らしながらそう言って、苦笑いをした。



「どうだ・・・18年の年月を掛け、多くの民の命を犠牲にして・・・そして出てきた答えはこれだ・・・っ。
こんな答えの為に・・・多くの民を見殺しにしてしまった・・・っ。」



クラスト陛下が力無くそう呟く。
でも、下を向くことはしない。
顔を上げていることも辛そうなその身体を、ハフリーク殿下におぶられていなければ立つことも出来ないであろう身体を、クラスト陛下は絶対に下げることはしていない。



そんなクラスト陛下を見て私は自然と笑顔になった。



割れた天井窓から太陽の光りが差し込む王座の間、その太陽の光りを纏っているクラスト陛下。
クラスト陛下自身にソソのような光りは見えないはずなのに、クラスト陛下の身体は太陽の光りを纏っているように見える。



真っ直ぐとソソを見詰め続けるクラスト陛下に私は言った。



私が言うべきことではないのは分かっているけれど、我慢出来ずに言った。



「太陽の刻印はクラスト陛下に返すべきだと思う。」
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