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1週間後
「う~ん・・・何の花かな~。
もう少しよく見せてね~。」
アデルの砦の騎士に連れられた形でグースに乗り王宮へ入ると、しばらくしてから医師である男が女を連れて現れた。
そして裸になった私の身体を確認してくる。
チチから言われナイフは持ってきていない。
でも、ナイフがなくても一瞬で倒せそうな男だと判断する。
「クレドに触られそうになった時の方がずっと怖かったな・・・」
「はい?何かな?触って調べて欲しい?」
「ううん、何でもない。」
男が私の身体に手を伸ばしてきたので、その手を反射的にまたサッ払う。
さっきから裸のまま色々と質問され、あまりにも長い調査には時間が勿体無いと思い続けていた。
「これはヒヒンソウの花ですね。」
最初からずっと身動きをしなかった女が急に私の胸元を覗き込んできて、そう言ってきた。
「ヒヒンソウ・・・。」
私が自分の胸元を見下ろすと、日中の太陽の光りの中ではただの肌荒れにしか見えない小さな赤いモノがあるだけ。
「聖女様を長時間裸にさせるのは失礼ですよ。
インソルドから遥々いらしてくれたのですから、丁重におもてなしをしましょう。」
最初は厳しい口調で、最後はにこやかに笑いながら男に言った。
「インソルドね~・・・。
没落貴族のマフィオス家の長女が聖女になるとは、これまでの聖女の中で1番身分が低いかもな~。」
“没落貴族”、その言葉には思わず反応してしまいそうになったけれど、グッと耐えた。
ここに来る前にチチから言われていたから。
インソルドの隣にある“死の森”でソソを匿う予定だったチチ。
マフィオス家は“没落貴族”だということを広めるようお母様に頼んでいたと。
“死の森”の隣、あんな辺境の地を任されたということは流されたのだと。
第1騎士団であるアデルの砦の騎士は王宮とも繋がっているけれど、マフィオス家の当主が王宮を訪れることはこれまで1度もなかった。
過去の国王はそれが良い事であると認識していたようだけど、ジルゴバートは不快に思っていたらしい。
ジルゴバートのその気持ちも利用し、“没落貴族のマフィオス家に死の森への捜査なんて出来るはずがない”とお母様に広めさせたと。
だからインソルドとインラドルではチチとソソの捜査の命令はずっと出ていなかった。
マフィオス家が没落貴族であることが浸透していることに心の中で頷きながら、白に近い金色の髪をした女を見る。
「私は誰と結婚することになるのかな?」
「それはジルゴバート王弟殿下が決めることになります。」
「そうなんだ・・・。
2人の皇子のうち、どっちになるかな~・・・。」
「2人ではなく3人です。
皇子は3人います。」
「そうなの?」
チチからは王宮のことは少ししか聞かされないまま送り出されていた。
“全て自分の目と耳で調査して来い。”
そう言われていた。
だから皇子はてっきり2人だと思っていたけれど、3人いるらしい。
「私は侍女長のミランダと申します。
聖女様のお部屋の準備や挙式の準備、様々な準備がありますのでそれが整い次第こちらからご連絡差し上げます。
それまではインソルドにお戻りください。」
「俺は聞いてないな~。
このままここにいて貰いましょうよ。」
男が不満そうな顔でミランダに言うと、ミランダはにこやかな顔で男の背中を押して部屋から追い出すように出した。
それから神妙な顔で私に向き合ってきた。
「こちらから連絡をするまでは絶対に王宮には来ないようお願いします。
帰る時はこちらを被って・・・。」
服を着た私の頭に布を被せてきた。
「このタイミングで現れてくださった聖女様を、王族以外の男性と結婚させるわけにはいきません。
やはり聖女は王族と結婚をしなければいけない・・・そうしなければ国に安泰をもたらすことは出来ない・・・。」
そう言って、私が第1騎士団の騎士と一緒に城壁からグースで飛び立つ所まで見送っていたミランダ。
その顔はどこか切なそうで、でも力強い目をして私を見送っていた。
「う~ん・・・何の花かな~。
もう少しよく見せてね~。」
アデルの砦の騎士に連れられた形でグースに乗り王宮へ入ると、しばらくしてから医師である男が女を連れて現れた。
そして裸になった私の身体を確認してくる。
チチから言われナイフは持ってきていない。
でも、ナイフがなくても一瞬で倒せそうな男だと判断する。
「クレドに触られそうになった時の方がずっと怖かったな・・・」
「はい?何かな?触って調べて欲しい?」
「ううん、何でもない。」
男が私の身体に手を伸ばしてきたので、その手を反射的にまたサッ払う。
さっきから裸のまま色々と質問され、あまりにも長い調査には時間が勿体無いと思い続けていた。
「これはヒヒンソウの花ですね。」
最初からずっと身動きをしなかった女が急に私の胸元を覗き込んできて、そう言ってきた。
「ヒヒンソウ・・・。」
私が自分の胸元を見下ろすと、日中の太陽の光りの中ではただの肌荒れにしか見えない小さな赤いモノがあるだけ。
「聖女様を長時間裸にさせるのは失礼ですよ。
インソルドから遥々いらしてくれたのですから、丁重におもてなしをしましょう。」
最初は厳しい口調で、最後はにこやかに笑いながら男に言った。
「インソルドね~・・・。
没落貴族のマフィオス家の長女が聖女になるとは、これまでの聖女の中で1番身分が低いかもな~。」
“没落貴族”、その言葉には思わず反応してしまいそうになったけれど、グッと耐えた。
ここに来る前にチチから言われていたから。
インソルドの隣にある“死の森”でソソを匿う予定だったチチ。
マフィオス家は“没落貴族”だということを広めるようお母様に頼んでいたと。
“死の森”の隣、あんな辺境の地を任されたということは流されたのだと。
第1騎士団であるアデルの砦の騎士は王宮とも繋がっているけれど、マフィオス家の当主が王宮を訪れることはこれまで1度もなかった。
過去の国王はそれが良い事であると認識していたようだけど、ジルゴバートは不快に思っていたらしい。
ジルゴバートのその気持ちも利用し、“没落貴族のマフィオス家に死の森への捜査なんて出来るはずがない”とお母様に広めさせたと。
だからインソルドとインラドルではチチとソソの捜査の命令はずっと出ていなかった。
マフィオス家が没落貴族であることが浸透していることに心の中で頷きながら、白に近い金色の髪をした女を見る。
「私は誰と結婚することになるのかな?」
「それはジルゴバート王弟殿下が決めることになります。」
「そうなんだ・・・。
2人の皇子のうち、どっちになるかな~・・・。」
「2人ではなく3人です。
皇子は3人います。」
「そうなの?」
チチからは王宮のことは少ししか聞かされないまま送り出されていた。
“全て自分の目と耳で調査して来い。”
そう言われていた。
だから皇子はてっきり2人だと思っていたけれど、3人いるらしい。
「私は侍女長のミランダと申します。
聖女様のお部屋の準備や挙式の準備、様々な準備がありますのでそれが整い次第こちらからご連絡差し上げます。
それまではインソルドにお戻りください。」
「俺は聞いてないな~。
このままここにいて貰いましょうよ。」
男が不満そうな顔でミランダに言うと、ミランダはにこやかな顔で男の背中を押して部屋から追い出すように出した。
それから神妙な顔で私に向き合ってきた。
「こちらから連絡をするまでは絶対に王宮には来ないようお願いします。
帰る時はこちらを被って・・・。」
服を着た私の頭に布を被せてきた。
「このタイミングで現れてくださった聖女様を、王族以外の男性と結婚させるわけにはいきません。
やはり聖女は王族と結婚をしなければいけない・・・そうしなければ国に安泰をもたらすことは出来ない・・・。」
そう言って、私が第1騎士団の騎士と一緒に城壁からグースで飛び立つ所まで見送っていたミランダ。
その顔はどこか切なそうで、でも力強い目をして私を見送っていた。
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