【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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23歳になる前日  初夏




「ルル!クレドが来たよ!!
会いたいって言ってたでしょ?」



エリーが育てたというポポが、まるで獣かのような速さで湖で水浴びをしていた私の元に駆けてきた。
強さでは私の方が強いけれど、足の速さでポポに敵う人間はいない。



「ありがとう!
クレドが来たのは1年ぶりくらいかな?
いつも半年に1度は来てたのに、最近来てなかったよね!?」



「そうだった?
クレドが来る時期なんて気にしたことなかった!!」



「私もそうだったけど!!
でも、今回は会いたかったから気にしてた!!」



「ルルってソソのことが好きなんじゃないの?
クレドに会いたかったって何?」



すっかり人間らしくなったポポがそんなことまで言ってくる。
それには大笑いしながら服を着て、村へと走り出した。



「私は誰のこともそういう好きじゃないから!!」



あと少しで足の速さもポポに勝てる。
半年前にあった魔獣の大群が押し寄せた時、私はチチよりも魔獣を多く倒した。
チチと分かれて私も戦士達の指揮を取り、チチが指揮を取った戦士達よりも私が指揮を取った女の戦士達は魔獣を多く倒すことが出来た。
ポポの戦力も大きかったけれど、その結果もあり私は第1騎士団の団長になり、この村での“カカ”になった。



魔獣の大群により崩壊し、まだまだ簡易的な居住部分しかないインソルドの村に戻ると、クレドがまた便利な物を持ってきてくれていてそれを披露している。



しばらくしたらチチに個人的に商売をしに居住部分に入ることは分かっているので、その前にクレドに話し掛けるつもりでいた。
いつも村に数日間滞在をしているクレド。
でも、すぐにでも教えて貰いたかったから。



「クレド!!私に文字を教えて!!」



村の多くの人間達がクレドに集まってきている中、その人間達をかき分けながら大きな声を出した。



普段から誰よりも大きな声で指揮を取っている私の声はすぐにクレドへと届いた。
クレドはパッと私の方を見て、それから何故か驚いた顔をした後、初めて見るくらい優しい顔で私に笑い掛けてきた。



「アデルの森の向こう側に住んでいる子かな?
こんな女の子をこの村に入れたらダメだよ。
早く送ってあげて。」



そんなことを村の人間達に言ってきて・・・。



「全然面白くないから止めてよ。
チチの所に行く前に私に文字を教えて!!」



そう言ってからクレドの腕を引き、村の人間達をかき分け、クレドが持ってきた便利な物に夢中になっている群れから外れた。



「・・・凄い力だね。
剣を持ったら強い女の子になるよ。」



「それ、もういいから。」



こんなやり取りをしている時間も勿体無いのですぐに本題に入る。



「ソソに手紙を書いてエリーに持たせたい。
だから私に文字を教えて。
手紙に書く内容だけの文字でいいから。」



「ソソに手紙を・・・?」



「うん、ソソに手紙を書きたいの。
“月のモノが来てないから子作りは出来ない。
それでもソソが大丈夫なら、側室だとしても私は大丈夫だからね。”って。
その文字を私に教えて欲しい。」



ソソはこの冬で18歳になる。
16歳になっても17歳になってもソソが私のことを迎えに来ることはなかった。



チチからエリーに渡したという私の“月のモノ”についての報告書に何の返事もないまま、ソソは18歳になろうとしている。



「この村では子作りが出来ない人間は結婚出来ない。
でもアデルの森の向こう側は違うでしょ?
子どもがいなくても夫婦になっている男と女がいることを私も覚えてる。
それに王族は正室も側室もいくつでも持てるのも覚えてる。
だからこそ、お母様は私のことを男として育てていた。」



何故か物凄く驚いた顔をしているクレド。
そのクレドに続ける。



「チチだけじゃない。
お母様からも強く強く強く、どこまでも強く生き抜くことを教わってきた。
最善を尽くすことを教わってきた。」



顔も思い出すことは出来ないお母様の教えだけは思い出し、私は言った。



「私がインソルドの女だからソソは求婚に来ないのかもしれない。
インソルドではそういう教えだから。
でも向こう側では違うことを私は知っているし、王族はそんなことが出来ることも私は知ってる。
だからちゃんと子作り出来る女を正室にして私を側室に迎えればいい。」



何も言わずにただ驚いているクレド。
クレドのそんな反応には首を傾げたけれど、そのまま続けた。



「私の命はソソの為にある。
だからソソの傍でソソの為にこの命を使いたい。」



そう言い切った私のことに、クレドは驚いた顔のままゆっくりと口を開いてきた。



そして・・・



「もしかして・・・もしかして、ルル・・・?」



そんな質問をしてきた。
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