【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

文字の大きさ
上 下
135 / 168
7

7-15

しおりを挟む
そう叫んだジルゴバートが笛を吹いた。
王座の間にいた全員が静まり返り、その光景を見ているのが分かる。



モルダン近衛騎士団長だけがソソの前に立ったけれど、ソソがナンフリーク殿下の方を指差すと、モルダン近衛騎士団長はナンフリーク殿下を連れて王座の間の隅へと移動していくのを気配で感じ取った。



ソソの隣で私も右手でナイフを握り締めながら、ユンスを見上げる。



でも・・・



いくら待ってもユンスは何も動かない。



静かな空間の中、ジルゴバートが吹き続ける笛の音だけが響いていく。



響いていた、その時・・・



王座の間に女の狂ったような笑い声が重なった。



その笑い声の主を確認すると、ユンスが現れていたのに王妃の座から動くことなく座り続けていたマルチネス王妃だった。



「貴方って本当にロンタスが大好きよね~!!!」



狂ったように笑いながら続ける。



「ロンタスなんて国王ではなく国王の代理だった男じゃない!!
本当に優秀だったのは兄の方!!
髪の色も真っ白、頭脳も剣も何もかも兄である国王の方が優秀だった!!」



皇太子妃教育では学ばなかったことをマルチネス王妃が笑いながら話し始めた。



「隣国の3ヶ国が共謀し攻め込んできたことでロンタスの兄は死んで、その兄の代理となったのがロンタス!!
ロンタスは兄より何もかも劣っていた!!
そんなロンタスが剣王なんて言われているなんてね!!」



マルチネス王妃が狂ったように笑う中、ジルゴバートは狂ったように笛を吹き続ける。



「ロンタスが剣王といわれるのは剣の腕があったからじゃない!!
兄が残した13人の側近達が優秀であっただけ!!!
その13人の側近達のことをロンタスは“13の剣”だと言い続けていた!!!
“13の剣”があったから隣国の3ヶ国をまとめ1つの王国に出来たのに、サンクリア王国の剣王ロンタスだなんて言われて笑っちゃうわよ!!!」



マルチネス王妃が更に狂ったように笑う。



笑い続ける。



「ロンタス自身は真っ赤な髪の色をした出来損ないの弟!!!
唯一持っていたのは白い翼を持った魔獣、グースだけ!!!
兄が死んでから現れたからって兄の化身だと信じていたとか、本当に頭まで劣っている!!!」



「「13の剣・・・。
白い翼のグース・・・。」」



ソソと言葉が重なった。
それは分かったけれど、ソソのことは見ずに天井窓の縁に立ち続けているユンスのことを見上げた。



「「赤い髪の色・・・。」」



頭部だけに毛があるユンス。
天井窓の縁に立つユンスは赤い毛を持っていた。



太陽を背中にそのユンスが私達のことを見下ろしているのをソソと一緒に見上げていた。



その時・・・



グースの大きな大きな鳴き声が空から落ちてきて、大きな大きな風が吹き込んできた。



そして現れたのは、真っ白な翼を持つグース。
他のグースよりも遥かに大きなグース。
ソソが乗っていたグースだった。



ソソのグースが王座の間に着地をすると、すぐにソソの方へと近付いてきた。
そのグースをソソが優しく撫でながら労い、困った顔で笑った。



「お前はいつも必ずお前から来てくれるのに、俺の魔獣であるはずのエリーは何処へ行ったんだ?
ユンスが逃げ出したことも教えに来ないで。」



姿が見えないエリーにソソが文句を言った。



そしたら、その時・・・



また王座の間に大きな風が吹き込んだ。



割れた窓を見上げると、来た。



来た。



チチのグースが来た。



チチのグースにチチが乗り、チチの前には瞬間移動が出来るはずのエリーまで乗っている。



「チチ・・・!!!」



私がチチを呼ぶとチチは怪しく笑い、そしてグースを王座の間に着地させた。



グースから降りたチチに駆け寄ると、チチはグースに乗っていたエリーに両手を伸ばし下ろしてあげている。



そんなエリーを見て、私は驚いた。



「え・・・人間・・・?」



どこをどう見ても人間の姿をしているエリーに驚いていると、私よりもずっと驚いた声を出した女が。



「何で・・・!?どうして・・・!?」



声の主は今度もマルチネス王妃だった。
死んでしまう直前のような様子になるくらい驚いていて。



そして・・・



「死んだはずでしょ・・・っエリナエル・・・!!!!」



そう叫んだ。



ソソの魔獣、エリーのことを見ながら。



ソソがまだインソルドにいた頃、初めてエリーが半獣の姿になった時にチチが付けた名前、エリーという名前の魔獣を見ながら。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

【完結】逆行した聖女

ウミ
恋愛
 1度目の生で、取り巻き達の罪まで着せられ処刑された公爵令嬢が、逆行してやり直す。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書いた作品で、色々矛盾があります。どうか寛大な心でお読みいただけるととても嬉しいですm(_ _)m

処理中です...