【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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俺の本当の名前は“ステル”だった。
クラスト国王は俺に“ステル”と名付け、そして俺のことを棄てた。
チチの話では俺を匿うよう命令をしたそうだけど、クラスト国王は俺のことを“棄てる”と重鎮会議で発言したらしい。
俺のことを第2皇子とはしないと、太陽の刻印を押して明言しながら。



そしてその日の夜、近衛騎士団の団長と俺の姿が消えた。
翌朝にアデルの森に棄てられるはずだった俺を近衛騎士団長が連れ去ったことは明白だった。



それについてクラスト国王は関与していないと首を横に振り、アデルの砦にいる第1騎士団を動かし近衛騎士団長を捕らえる命令も出していた。



王宮に戻り知ったその話を俺は鵜呑みにしなかった。
ここでは多くの良くないモノが蠢き合いそれぞれが“何か”をしている。



だからそんな話は鵜呑みにしていなかった。
チチからされた話だけを俺は信じていた。



クラスト国王の血が流れている証明は出来ないけれど、チチからの言葉だけを信じてここまで生き抜いてきた。



強く強く強く、どこまでも強く・・・。



最善を尽くして生き抜いてきた・・・。



その結果がこれだった・・・。



これだった・・・。



「俺はカルティーヌから愛されることはない。
そんなことは分かっている。
もうそんなことはちゃんと気付いている。」



何度も何度も伝えた。
俺の想いを何度もカルティーヌに伝えた。



でも、カルティーヌはいつも俺から目を逸らし、乾いた声で笑っていた。
俺の心を受け取ってくれることはない。



俺がどんなにこの心を差し出しても受け取ってくれることはない。



教えてくれることもなかった。
死んでいないと、生きていると、自分が“ルル”なのだと、教えてくれることもなかった。



10歳の俺が渡した求婚を“ルル”はとっくの昔に棄てていた。



美しい花ではなくヒヒンソウの花にだけど、俺は“ルル”への気持ちを込めていたのに。



次の人生になってしまうけれど“結婚しよう”と、そう込めていたのに。



この人生だけではなく次の人生でも俺からの求婚を迷惑そうにしていた。



「でも・・・それでも、俺の元に現れてくれたから・・・。
“次の人生”を生きているとしか思えないような姿で俺の元に現れ、戦友になってくれたから・・・。
それだけでいい・・・。
それだけでも俺は幸運だった・・・。
俺は物心がついた時からずっと幸運な男だった・・・。
みんなから愛されていると、姉や母のような愛だろうけど“ルル”からも愛して貰っていると、そう勘違いすることが出来ていて俺は幸運だった・・・。」



右手に握る剣の柄を強く強く強く握り締め、ジルゴバートの喉に突き付けた。



「お前を殺したら俺も自ら死ぬ。
それがこの国にとっての最善であり俺にとっても・・・“ルル”にとっての最善にもなる。
聖女だからといって王族と結婚しなければならないという法はない、ただの通例だ。
俺が死んだ後も“ルル”はこの王宮に残り民の為に最善を尽くす聖女となるだろう。」



喉に剣を突き付けられているジルゴバートの顔から汗が大量に流れていくのを見下ろしながら、“ルル”のことを振り返ることなく伝えた。



「この人生で俺と結婚をした人生にしてごめん。
“ルル”にとっては可哀想な人生になってしまっただろうけど、俺は幸運だった。
俺は生まれた時からずっと幸運だった。
“ルル”がいてくれたから俺は幸運な人生を送れていた。
“ルル”が死んでしまったと思っていた後も、“ルル”が次の人生で待っていてくれていると思えていたから俺は幸運な人生を送れていた。」



最後に“ルル”の姿を見たいと思うけれど、ジルゴバートから目を離すことなく続けた。



「この人生で“ルル”と数日だけ結婚が出来て俺は幸運だった。
俺が皇子で“ルル”が聖女でなければきっとそんな時間を過ごすことなんて出来ていなかった。
この人生では俺の花は受け取ってくれなかったから・・・。」



“ルル”の胸の真ん中で赤く光っていたヒヒンソウの花の刻印を思い浮かべる。
まるで俺から渡したヒヒンソウの花を、求婚を受け取ってくれたかのような刻印を。



でも・・・



「次の人生では、俺はヒヒンソウの花ではなくもっと美しい花を渡して求婚するから・・・。
だからヒヒンソウの花なんかを渡して求婚するような男じゃなくて、俺を選んで・・・。」



俺と同じヒヒンソウの花を渡し求婚をした男。
その男から貰った花の刻印が“ルル”の胸の真ん中に浮かび上がったのかもしれない。



そう考えるとムシャクシャとして仕方なかった。



「先に向こうに行って待ってる。
次の人生では最初から“ルル”よりも強い男でいられるよう、向こうで先に訓練してる。」



天井窓から差し込んでくる太陽の光りを感じながら、ジルゴバートの喉に剣を突き刺した。










ステルside..........
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