【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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そして、結婚式直前に。
カルティーヌとは必要最低限しか顔を合わせず、目を合わせることもほとんどしなかった。



俺の心を渡すことはない。
カルティーヌの心を貰うこともない。
カルティーヌはどんな場所でも強く生き抜ける女かもしれないけれど、そこに愛はないのに必要以上に関わることは可哀想だと思った。



カルティーヌの心が可哀想だと思った。



インソルドの女には全く見えないカルティーヌ。
チチはカルティーヌのことをインソルドの女と言っているけれど、カルティーヌはどこをどう見てもインソルドに長くいたとは思えない。



俺がインソルドにいたことは王宮の誰もが知っていること。
それなのにカルティーヌはインソルドの話を俺にすることはなかった。
だから俺からもその話は何もしなかった。



なのに・・・



それなのに・・・



結婚式直前、白い簡素なウエディングドレスを着ているカルティーヌが先にカンザル教会の教皇がいる部屋へと入り、そしてすぐに出て来て。



次に俺が入り教皇からサインを求められ、そこに俺の王族の名前のサインを書こうとした時、見えた。



カルティーヌが書いたであろう拙い文字が、見えた。



“カルティーヌ・マフィオス”



そう書いてある文字の下に、見えた。



“カルティーヌ・エントルシア・ルル”



そう書かれているのが、見えた。



それを見て・・・



“ルル”と書かれているその文字を見て・・・



俺が右手に持っていたペンが折れた・・・。



「あ・・・すみません。」



教皇に謝罪をすると、教皇は優しい顔で首を横に振った。



「何か気になることがありましたか?」



俺に新しいペンを渡しながら聞いてきて、そのペンを受け取りながら今度は俺が首を横に振った。



なのに・・・



「カルティーヌ令嬢は王族だけが付けられる次の名前を“ルル”にしたいとおっしゃったので、ステル殿下と結婚した後は、下に書かれているその名前がカルティーヌ令嬢の新しい名前となります。」



教皇が続けてきた。



その話を聞きながら、俺は目の前にある紙に自分の名前を書いていく。



“カルティーヌ・エントルシア・ルル”



そう書かれた名前の隣に、“ステル・エントルシア”と・・・



そう書き終わった。



書き終わった、その瞬間・・・



「カルティーヌ令嬢はインソルドで“ルル”と呼ばれていたそうですよ。」



教皇が・・・



教皇が、そう言った・・・。



「ルル・・・。」



俺はこの口から“ルル”と声を出した。
誰かの前で“ルル”の名前を出したのはインソルドを発ってから初めてのことだった。



「俺の姉も・・・姉というか母というか、そんな女も・・・ルルという名前でした。
ルルが死んでしまったから、カルティーヌは新しくルルと呼ばれていたんでしょうね。」



インソルドでは当たり前の話だった。
新しく生まれた子どもや捨てられていた子ども、その子らに死んでしまった人間の名前を付ける。



短い名前を付けるインソルドの文化では当たり前のことでもあった。



だからそう言った・・・。



“ルル”の次にルルと呼ばれていた女のことを思い浮かべながら。
さっき数日ぶりに見たカルティーヌはやっぱり太陽と間違えるくらいに輝いていた。



“ルル”の姿を必死に思い浮かべようとしていたら、向かい側に座る教皇がゆっくりと右手を伸ばしてきた。



“ルル”と書かれている拙い文字を・・・。



そして、言った。



言ってきた・・・。



「その“ルル”が、この“ルル”ですよ。
15歳の時に自身の命に代えてでも貴方を守った“ルル”が、この“ルル”ですよ。」
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