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数日後



太陽が輝いている下、城壁の上で俺は“死の森”の霧を見詰めていた。



肌寒くなってきた空気の中でルルに言う。



「これから聖女に会う・・・。
インソルドの女だし、その女の心も他の男の元にある。
俺の心もルルにあげるから・・・。
必ずあげるから・・・だから、許して。
俺がルル以外の女と結婚して、ルル以外の女と子作りすることを許して。
心は必ずルルにあげるから・・・」



この目から涙が流れるのを耐えながら、“死の森”の霧に向かって伝えた。



「次の人生では俺と結婚しよう・・・。
美しい花を持って、必ず迎えに行くから・・・。
俺が迎えに行くまで、他の男の花は受け取らないで待ってて・・・。」



この人生で結婚する相手、聖女のカルティーヌには花を準備しなかった。
インソルドを発つ前夜に2人だけでも結婚式を挙げた男がいるのなら、その男から花を受け取っているはずだから。



だから俺は花を聖女のカルティーヌには渡さないつもりだった。



求婚はしないつもりだった。



俺の心はルルにあげるから。



俺の身体だけを聖女のカルティーヌに渡す。



そして、聖女のカルティーヌについても。



カルティーヌの身体だけを俺にくれればいい。



この国の為に、この国に生きる民の為に、インソルドで生きた2人で戦友のようにこの王宮で最善を尽くす。



“死の森”を眺めながら、ルルに求婚をしたその場所を眺めながら、そう覚悟を決め太陽を見上げた。



「見てて、ルル。
俺が強く強く強く、どこまでも強く生き抜くところを。
最善を尽くすところを、見てて。」



眩しく光る太陽を見上げながらそう言った時、城壁に出られる扉が開いた音が聞こえた。



その音の方に視線をゆっくりと移すと、いた。



いた・・・。




聖女のカルティーヌだと思われる女が、いた。




金にも銀にも見える髪が結われ、肌は透き通るように白く、柔らかな大きな目、小ぶりな鼻と自然と上がっている口角がある唇。




細い首に華奢な肩、折れてしまいそうなくらいに細い腕をしている女。




どこをどう見てもインソルドの女ではない女が、いた。




その女を確認し、俺は目を逸らした。




慌てて目を逸らした。




強く強く両手を握り締めながら、目を逸らした。




「心は絶対に渡さない・・・。
俺はルルしか見えない・・・。
俺にはルル以外見えない・・・。」




女がゆっくりとゆっくりと、貴族の女のようにゆっくりと俺の元へ歩いてくるまでにそう呟いた。




深く深呼吸をしながら、もう1度女の方に視線を戻した。




心は絶対に渡さないと、そう強く想いながら。




強く強く強く、どこまでも強く想いながら。




この光り輝く女を真っ直ぐと見詰めた。




ルルともミランダとも比べ物にならないくらい輝いている女のことを。




本物の太陽なのではないかと思うくらいに輝いている女のことを。




俺のことを柔らかくも力強い目で真っ直ぐと見詰める女が着ていたドレスは、真っ赤で・・・。




あまりにも真っ赤に見えて・・・。




まるで血のようだと、そんなことを思って・・・




思わず下を向いてしまいそうになった・・・。




ルルが流していた血のように見えてしまって、下を向いてしまいそうになった・・・。
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