【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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「・・・・。」



地面に倒れたまま、俺は静かにユンスを見上げる。



ユンスの鋭い爪が俺の肩から胸に掛けて切り付けられている。
その痛みなど何も感じず、遠くに飛ばされた剣はどんなに手を伸ばしても届かないことも分かっている。



届いたとしても、もう足も手もこれ以上は動かない。



もう、これ以上は戦えない。



でも、こんなに知能が高かったユンスを11体も倒した。
この1体はきっとチチが倒してくれるはずで。



この1体だけなら“厄災”ではないはずで。



きっと、“厄災”ではない・・・。



俺はきっと“厄災”ではない・・・。 



でも・・・



「もう、いい・・・。」



俺はルルから男として愛して貰えることはない。
俺に国王の血が流れている限りは男として愛して貰える日は来ない。



「求婚の花を受け取って貰えても、そこにルルからの愛はない・・・。」



動かない身体のまま、口だけを動かしながらユンスを見上げ続ける。



俺に向かって太くて長い両手を大きく振り上げたユンスを。



それがやけにゆっくりに見えて・・・。



凄く凄くゆっくりに見えて・・・。



「次の人生でもルルに会えるといいな・・・。」



真っ白な霧の中でそう呟いた。



最後にルルの姿を思い浮かべながら。



太陽のように眩しく光るルルの姿を思い浮かべながら。



「俺を早く殺して・・・。」



やけにゆっくりに見えるユンスに向かって呟いた。



呟いた、その瞬間・・・

























「ソソ・・・・・っ!!!!!」








ルルが俺を呼ぶ声が聞こえて・・・






聞こえて・・・





そして、





そして・・・





一瞬にして俺の前に現れ・・・





現れて・・・





あんなにゆっくりに見えたユンスの動きが一瞬で動き・・・





ユンスの太くて長い腕が振り下ろされ・・・





俺の前に現れたルルは地面に叩きつけられた。





あまりにも突然の出来事で、予想外の出来事で、呆然としながら地面に倒れるルルの背中を眺めることしか出来ず・・・。





仰向けで倒れるルルの身体。
地面がどんどん赤く染まっていくのを呆然と眺めることしか出来ず・・・。





指先も動かすことが出来ない俺に、ルルが右手を俺に伸ばしてきた。




右手に握られているルルのナイフを俺に差し出すように、伸ばしてきた。




「ソソ・・・っ」




ルルが俺のことを“ソソ”と呼ぶ。
ルルが名付けてくれた名前、“ソソ”と。




こんなにも赤い血が地面に広がっていくのに。




なのに・・・




ルルの目は死んではいなかった。




強く強く強く、どこまでも強く、俺のことを見詰めている。




「ぃきぬ・・・い、て・・・っ」




ルルのその言葉を聞き・・・




ルルからのその言葉を聞き・・・




俺はルルから差し出されたナイフを右手で握り締め、俺に向かって太くて長い腕を振り下ろそうとしているユンスに視線を移した。




それから叫びながらユンスの懐に入っていく。




動かないはずの足で。




動かないはずの右手でルルのナイフを突き付けながら。




ルルのナイフは信じられないくらい軽くて。




この軽さを知っていたはずだけど、さっきまで握っていた俺の剣とは比べ物にならないくらい軽すぎて。




早くチチのようになりたいと思っていた俺は長い剣を使っていて。




でも、ルルはいつもこの短いナイフを使っていた。




自分に合う武器をしっかりと使いこなしていた。




ルルがこのナイフで戦っていた姿を思い浮かべながら、その姿を真似ながらユンスと戦い・・・




戦って・・・




戦って・・・




「ハァッ・・・ハァッ・・・」




地面に倒れて動かなくなったのを確認し、最後に念のためトドメを差してからルルが倒れる方に勢い良く振り向いた。




「ルル・・・っ」




仰向けで倒れ続けているルルの元へと走り、ルルを仰向けにする。





そしたら・・・





ルルの身体は胸から下腹部まで、血塗れだった。
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