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まだまだ暗い冬の明け方、俺と同じ部屋にあるベッドで寝ているルルの姿を見詰め続けている。
寝ていてもこんなにも光っているルルの姿を。
一睡も出来ないまま、見詰め続けている。
「王宮になんて行きたくない・・・。」
気持ちの整理がつく日なんて来ることはない。
この村でルルと一緒に民の為に魔獣と戦う。
そして俺の求婚を受け取って貰い、ルルと子作りをする。
ルルや村の人間達と子どもを強く育てながら、そして村の“チチ”となる。
それ以外の未来なんて考えたこともなかった。
それ以外の未来なんて俺はいらなかった。
それ以外の未来なんて俺はいらない。
そう強く強く強く思いながら、でも・・・
自分の髪の毛を少しだけ触った。
「厄災・・・。」
俺が生まれてしまったせいでチチとルルは王宮を離れ、“嫁”と“母”と離れることになってしまった。
そして魔獣が頻繁に現れるこの村で、常に“死”と隣り合わせの中で生きることとなってしまった。
それは厄災ではないのか・・・。
チチとルルにとっての厄災ではないのか・・・。
そんな考えもグルグルと頭の中で回っていく。
その考えを振り払うように俺は枕元に置いていた剣を右手で取り、ルルが起きないように静かに家から出た。
そして・・・
村の外れにある“死の森”の霧の目の前で素振りをしていく。
まだ暗くて寒い冬の朝、口から出る息も霧のように白い。
かじかむ手は剣の柄を強く握れない。
いつもはこんなことなんて気にならないのに、今日はそんなことまで気になってしまう。
寒くて寒くて仕方なかった。
こんなに身体を動かしているのに何故か寒くて寒くて仕方なかった。
身体は熱くなり、汗がこんなにも身体から溢れているのに、寒くて寒くて仕方ない。
そんなことを思っていた時、気付いた。
すぐ近くにエリーが立っていることに。
いつからエリーが立っていたのか分からないくらい、神経を研ぎ澄ませられていないのだとも気付く。
「お前、今日はどうしたの?」
チチからの話で、サンクリア王国を建国した剣王のロンタス王も魔獣持ちだったと初めて聞いた。
俺はてっきりたまに魔獣持ちの人間がいるのだと思っていた。
俺はてっきりたまに黒髪の人間がいるのだと思っていた。
それくらいに、この村は俺のことを“普通”の人間として生かしてくれていたことにも気付く。
「お前ってグースみたいな魔獣らしいぞ?
飛ぶことも戦うことも何も出来ないのにな。
出来たのは俺のことをこの村の人間達に知らせに行ったくらいか・・・。」
エリーが俺のことをこの村に知らせた話は昔から聞いていた。
だからチチもルルもこの村で生活することが出来たと、そう聞かされていた。
「俺が皇子だって早く教えろよ・・・。」
いつもの魔獣の姿ではなく数ヶ月前から出来るようになった半獣の姿になっているエリーに文句を言った。
俺の魔獣だというわりにはいつもフラッと俺の前に現れ、ケガの手当てや食べ物を催促してくるだけのエリーに。
今日も食べ物を催促されるのだと思っていたら・・・
エリーが下ろしていた右手をゆっくり動かし、俺に差し出してきた。
俺にヒヒンソウの花を差し出してきた。
寝ていてもこんなにも光っているルルの姿を。
一睡も出来ないまま、見詰め続けている。
「王宮になんて行きたくない・・・。」
気持ちの整理がつく日なんて来ることはない。
この村でルルと一緒に民の為に魔獣と戦う。
そして俺の求婚を受け取って貰い、ルルと子作りをする。
ルルや村の人間達と子どもを強く育てながら、そして村の“チチ”となる。
それ以外の未来なんて考えたこともなかった。
それ以外の未来なんて俺はいらなかった。
それ以外の未来なんて俺はいらない。
そう強く強く強く思いながら、でも・・・
自分の髪の毛を少しだけ触った。
「厄災・・・。」
俺が生まれてしまったせいでチチとルルは王宮を離れ、“嫁”と“母”と離れることになってしまった。
そして魔獣が頻繁に現れるこの村で、常に“死”と隣り合わせの中で生きることとなってしまった。
それは厄災ではないのか・・・。
チチとルルにとっての厄災ではないのか・・・。
そんな考えもグルグルと頭の中で回っていく。
その考えを振り払うように俺は枕元に置いていた剣を右手で取り、ルルが起きないように静かに家から出た。
そして・・・
村の外れにある“死の森”の霧の目の前で素振りをしていく。
まだ暗くて寒い冬の朝、口から出る息も霧のように白い。
かじかむ手は剣の柄を強く握れない。
いつもはこんなことなんて気にならないのに、今日はそんなことまで気になってしまう。
寒くて寒くて仕方なかった。
こんなに身体を動かしているのに何故か寒くて寒くて仕方なかった。
身体は熱くなり、汗がこんなにも身体から溢れているのに、寒くて寒くて仕方ない。
そんなことを思っていた時、気付いた。
すぐ近くにエリーが立っていることに。
いつからエリーが立っていたのか分からないくらい、神経を研ぎ澄ませられていないのだとも気付く。
「お前、今日はどうしたの?」
チチからの話で、サンクリア王国を建国した剣王のロンタス王も魔獣持ちだったと初めて聞いた。
俺はてっきりたまに魔獣持ちの人間がいるのだと思っていた。
俺はてっきりたまに黒髪の人間がいるのだと思っていた。
それくらいに、この村は俺のことを“普通”の人間として生かしてくれていたことにも気付く。
「お前ってグースみたいな魔獣らしいぞ?
飛ぶことも戦うことも何も出来ないのにな。
出来たのは俺のことをこの村の人間達に知らせに行ったくらいか・・・。」
エリーが俺のことをこの村に知らせた話は昔から聞いていた。
だからチチもルルもこの村で生活することが出来たと、そう聞かされていた。
「俺が皇子だって早く教えろよ・・・。」
いつもの魔獣の姿ではなく数ヶ月前から出来るようになった半獣の姿になっているエリーに文句を言った。
俺の魔獣だというわりにはいつもフラッと俺の前に現れ、ケガの手当てや食べ物を催促してくるだけのエリーに。
今日も食べ物を催促されるのだと思っていたら・・・
エリーが下ろしていた右手をゆっくり動かし、俺に差し出してきた。
俺にヒヒンソウの花を差し出してきた。
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