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お父様が言った通り、王宮から馬で約3週間掛かると言われる“死の森”にはすぐに着いた。
夜のはずなのに“死の森”は白い霧で覆われている。
“死の森”の中に入るとすぐにお父様はグースを着地させ、俺と第2皇子をグースから降ろした。
お父様は腰から大きな剣を抜き、グースを引きながら歩いていく。
俺は第2皇子をしっかりと抱き締めたままお父様の隣を歩いていく。
「どこまで行くの?」
「ここに住めそうな場所があればいいが・・・。」
歩いても歩いてもひび割れた地面が続くだけ、真っ白な霧の世界の中にたまに小さな赤があって・・・。
「ヒヒンソウ、こんな所にも咲いてるんだね?」
「どんな場所でも咲く強い花だからな。」
「こんなに小さな花だけど格好良いね。」
「そうだな。」
そんな会話を最後にお父様は何も話さなくなったから俺も話すのを止めた。
5歳の俺でも分かる・・・。
ここは“死の森”。
魔獣が出現するという理由だけで“死の森”といわれているのではない。
ここに生き物は住めない。
ひび割れた地面だけが続く場所。
月も太陽も見えない場所。
お父様はそんな場所で第2皇子を匿おうとしている。
5歳の俺も連れて。
お父様と無言で歩き続けていた時・・・
「フギャ・・・っフギャ─────────ッ」
俺の胸の真ん中で第2皇子が泣いた。
「そろそろ乳の時間か。
なくなったら街に買い出しに行きたいところだが、まずは落ち着ける場所を探すのが先だ。」
「うん。」
お父様はグースに乗せていた荷物から第2皇子に飲ませる乳を探してた。
探していた、その時・・・
「そこに子どもがいるのか・・・!?
逃げろ・・・!!!
ユンスが・・・魔獣が泣き声に向かっていくぞ!!!
音を立てずに逃げろ!!ユンスは目が悪い!!!」
白い霧の中からそんな叫び声が聞こえてきて、俺はバクバクと騒ぎ出す心臓の音を聞きながら泣き続ける第2皇子を強く抱き締めた。
「下がってろ。」
お父様は俺をグースのすぐ近くに立たせると、俺をグースと挟むように立った。
そして大きな剣を構えた時・・・
聞いたこともないような悲鳴・・・
悲鳴ともいえない大きな声とともに現れた。
大きな身体、顔は猿のようだけど猿ではない。
2本足で狂ったように向かってくる鎧のような皮膚を持つ魔獣が4体も現れて・・・。
そして、跳んだ・・・。
2体が、跳んだ・・・。
「カルティー!!音を出さずに走れ!!
グース!!カルティーを頼む!!
すぐに追う!!!」
お父様の指示を聞いて俺は第2皇子を抱いたまま走り出した。
俺は静かに走るけれど、俺の胸の真ん中にいる第2皇子が泣き続けている。
大きな大きな口を開けて必死に泣き続けている。
このままだとあの魔獣に追われ続けるけれど、第2皇子は生きる為に泣き続けている。
「生き延びるぞ・・・っ!!!
生き延びて、絶対にサンクリア王国に戻るんだぞ・・・!!」
夜のはずなのに“死の森”は白い霧で覆われている。
“死の森”の中に入るとすぐにお父様はグースを着地させ、俺と第2皇子をグースから降ろした。
お父様は腰から大きな剣を抜き、グースを引きながら歩いていく。
俺は第2皇子をしっかりと抱き締めたままお父様の隣を歩いていく。
「どこまで行くの?」
「ここに住めそうな場所があればいいが・・・。」
歩いても歩いてもひび割れた地面が続くだけ、真っ白な霧の世界の中にたまに小さな赤があって・・・。
「ヒヒンソウ、こんな所にも咲いてるんだね?」
「どんな場所でも咲く強い花だからな。」
「こんなに小さな花だけど格好良いね。」
「そうだな。」
そんな会話を最後にお父様は何も話さなくなったから俺も話すのを止めた。
5歳の俺でも分かる・・・。
ここは“死の森”。
魔獣が出現するという理由だけで“死の森”といわれているのではない。
ここに生き物は住めない。
ひび割れた地面だけが続く場所。
月も太陽も見えない場所。
お父様はそんな場所で第2皇子を匿おうとしている。
5歳の俺も連れて。
お父様と無言で歩き続けていた時・・・
「フギャ・・・っフギャ─────────ッ」
俺の胸の真ん中で第2皇子が泣いた。
「そろそろ乳の時間か。
なくなったら街に買い出しに行きたいところだが、まずは落ち着ける場所を探すのが先だ。」
「うん。」
お父様はグースに乗せていた荷物から第2皇子に飲ませる乳を探してた。
探していた、その時・・・
「そこに子どもがいるのか・・・!?
逃げろ・・・!!!
ユンスが・・・魔獣が泣き声に向かっていくぞ!!!
音を立てずに逃げろ!!ユンスは目が悪い!!!」
白い霧の中からそんな叫び声が聞こえてきて、俺はバクバクと騒ぎ出す心臓の音を聞きながら泣き続ける第2皇子を強く抱き締めた。
「下がってろ。」
お父様は俺をグースのすぐ近くに立たせると、俺をグースと挟むように立った。
そして大きな剣を構えた時・・・
聞いたこともないような悲鳴・・・
悲鳴ともいえない大きな声とともに現れた。
大きな身体、顔は猿のようだけど猿ではない。
2本足で狂ったように向かってくる鎧のような皮膚を持つ魔獣が4体も現れて・・・。
そして、跳んだ・・・。
2体が、跳んだ・・・。
「カルティー!!音を出さずに走れ!!
グース!!カルティーを頼む!!
すぐに追う!!!」
お父様の指示を聞いて俺は第2皇子を抱いたまま走り出した。
俺は静かに走るけれど、俺の胸の真ん中にいる第2皇子が泣き続けている。
大きな大きな口を開けて必死に泣き続けている。
このままだとあの魔獣に追われ続けるけれど、第2皇子は生きる為に泣き続けている。
「生き延びるぞ・・・っ!!!
生き延びて、絶対にサンクリア王国に戻るんだぞ・・・!!」
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