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夕方



「カルティーヌ姫・・・!!
こんな所を誰かに見られたら・・・っ!!」



「だから・・・っ!!
ここでしてるんでしょ・・・っ!?」



「ですが・・・っっ」



城壁の最上部、ケロルドが汗を浮かべながら苦しそうな顔をしている。
その顔を見て、最後に全力で身体を動かした。



そして・・・



「・・・っ」



ケロルドが息を飲んだのを喉仏が上下に動いたのを見て確認する。



「負けました・・・。」



その言葉を聞いてから、ケロルドの喉仏に突き付けていたナイフをゆっくりと下ろした。



「人とは思えないほどに強いですね・・・。
そんなに短い剣で俺の間合いに入るのがよく怖くありませんね。」



「女の身体ではナイフの方が長い間戦うことが出来る。
男のようにそれを片手でコントロールするのは短時間しか出来ないから。
どんなに筋肉がついても男のように戦うのはやっぱり難しい。
だから女は女が出来る戦い方の最善を尽くしている。」



「凄いですね、インソルドは・・・。」



「女や子どもが最後の最後に最善を尽くすのは、この身体を盾にする戦い方。
より強い者を生かす為に。」



「盾に・・・?それって・・・」



「より強い者が魔獣に倒されそうになっている時、その者を守る為にこの身体で盾になる。
普段はそんなことが起きることはないけど、有事の時にはそうするように教育されている。
だから1年前の魔獣の大群が押し寄せてきた時は数十人の女と子どもが死んでしまった。
その死んでしまった全員も勇敢な戦士だった。」



その時のことを思い出しながらナイフを強く握り締める。



「あの時に今のような力があればよかった・・・。
ステル殿下が言っていた通り、私の身体能力は向上してる。
私があと1体でも2体でも多く倒せていれば、あんなに多くの人間は死んでいなかったかもしれない。」



「それは毎日ステル団長・・・あ、ステル殿下も言っている言葉です。」



ケロルドがそう言って、呼吸を整えながら剣を腰に仕舞った。



「あの日のことを忘れるなと訓練の前には毎日言います。
アデルの砦を守ることに精一杯で、アデルの砦の向こう側にいる人達を助けに行くことは出来なかった。」



「それは仕方ないよ。
まずはアデルの砦を守ることがケロルド達の仕事だった。」



「そうですけど・・・!!
アデルの砦の向こう側にあった光景は地獄のような光景でした。
それまでも地獄のような日々を過ごしていた人達にとって、あの日は本物の地獄だったと思います。
それでもアデルの砦を目指していた・・・。
多くの魔獣とともに、皆もアデルの砦を目指していた・・・。
僕達なら助けてくれると信じて・・・。」



ケロルドがその目に涙を浮かべながら、でも強い目をしながら私のことを見詰める。



「ステル殿下もこの国の安泰を望んでいました。
だから聖女様との結婚について強く拒否をしなかった。
とても苦しそうでしたし、毎日のように思い悩んでいる様子でしたけど、今は恐ろしいくらいに機嫌の良いステル殿下の姿を見ることが出来て僕達も嬉しく思っています。」



「恐ろしく機嫌が良いっていうのも凄いね。」



「絶対に下は向かない方でしたけど、昔から向こう側を見て長い時間過ごすこともある方でしたから。」



ケロルドはそう言って向こう側を指差した。
そこには、天まで昇るように渦巻いているような霧、“死の森”の霧があった。



ナイフを右手に持ったまま“死の森”を眺める。



「ソソ・・・。」



この人生では二度と会うことはない弟の名前を小さな小さな声で呟いた。
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