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こんなに暗い中でもステル殿下の瞳が揺れているのが分かる。
“幸運”なステル殿下のことを“可哀想”と私が言ったからなのだと分かる。
「次の人生では私に美しい花を渡して求婚してくれるの?」
「必ず・・・必ずする。」
「人の心は移り変わるんでしょ?
ステル殿下の心もきっとすぐに移り変わる。
次の人生でもすぐに私ではない好きな女が出来るよ。
ステル殿下には好きな女がいたんでしょ?
王宮で何度も何度も聞いたよ。
“没落貴族でインソルド出身、ヒヒンソウの花の刻印が浮かび上がった聖女と結婚することになった可哀想なステル皇太子殿下”って。
“やっと皇子として認められたのに”って。」
ここで会っていた女がいたステル殿下。
他の男と結ばれたと言っていた女なのかは分からないけれど、そういう女がいたステル殿下。
それなのに今は私のことがこんなに好きになっているステル殿下。
少し遅くなっているだけですぐに迎えに来てしまったくらい、私がこんな言葉を言ったらこんなにも怒りで満ち溢れた目をするくらい、ステル殿下は“今”、私のことが好きらしい。
「部屋に戻るぞ。」
トレーを両手に持った私の背中を押しながら、私の言葉には何の返事もしなかったステル殿下が歩き始める。
そんなステル殿下に続ける。
閉じることなくこの口が続けてしまう。
「好きだった女はその1人だけですか?
私の前は、その1人だけですか?」
「その子のことはもういい。
俺はこの人生でも次の人生でも、カルティーヌのことだけを好きでいる。
だからその子のことはもう聞くな。」
「なかったことにするのが早いですね、ステル殿下。
新しい女が出来たら昔の女のことは“棄てる”んですか?」
「違う・・・俺が棄てられた。
俺は“ステル”という名前だからな。
俺はいつも棄てられる側だ。
知らないうちに、気付かないうちに、俺はいつも棄てられている。」
「ステル殿下こそ、そんな女のどこが良かったんですか?」
「・・・もうその子のことはいい。
俺の花は受け取ってくれなかったその子のことはもういい。」
“幸運”なステル殿下のことを“可哀想”と私が言ったからなのだと分かる。
「次の人生では私に美しい花を渡して求婚してくれるの?」
「必ず・・・必ずする。」
「人の心は移り変わるんでしょ?
ステル殿下の心もきっとすぐに移り変わる。
次の人生でもすぐに私ではない好きな女が出来るよ。
ステル殿下には好きな女がいたんでしょ?
王宮で何度も何度も聞いたよ。
“没落貴族でインソルド出身、ヒヒンソウの花の刻印が浮かび上がった聖女と結婚することになった可哀想なステル皇太子殿下”って。
“やっと皇子として認められたのに”って。」
ここで会っていた女がいたステル殿下。
他の男と結ばれたと言っていた女なのかは分からないけれど、そういう女がいたステル殿下。
それなのに今は私のことがこんなに好きになっているステル殿下。
少し遅くなっているだけですぐに迎えに来てしまったくらい、私がこんな言葉を言ったらこんなにも怒りで満ち溢れた目をするくらい、ステル殿下は“今”、私のことが好きらしい。
「部屋に戻るぞ。」
トレーを両手に持った私の背中を押しながら、私の言葉には何の返事もしなかったステル殿下が歩き始める。
そんなステル殿下に続ける。
閉じることなくこの口が続けてしまう。
「好きだった女はその1人だけですか?
私の前は、その1人だけですか?」
「その子のことはもういい。
俺はこの人生でも次の人生でも、カルティーヌのことだけを好きでいる。
だからその子のことはもう聞くな。」
「なかったことにするのが早いですね、ステル殿下。
新しい女が出来たら昔の女のことは“棄てる”んですか?」
「違う・・・俺が棄てられた。
俺は“ステル”という名前だからな。
俺はいつも棄てられる側だ。
知らないうちに、気付かないうちに、俺はいつも棄てられている。」
「ステル殿下こそ、そんな女のどこが良かったんですか?」
「・・・もうその子のことはいい。
俺の花は受け取ってくれなかったその子のことはもういい。」
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