【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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月明かりの光りと微かな灯りの中を力強く歩いていくと、少ししてから・・・



「アナタ、丁度良いところに。
これを持って行きなさい。」



女が後ろから声を掛けてきて、それに振り返ると1人の女がいた。
40代半ばくらい、黒いナイトドレスに黒いガウンを羽織った女が食器がのったトレーを私に向けてきた。



「はい。」



誰だか分からないので返事だけをして両手でトレーを受け取る。
トレーを見下ろすと食器は少しだけ汚れているけれど、凄く綺麗に食べた跡がある。



「どちらで夜食を食べていらっしゃったんですか?」



周りの扉を見渡してみても特に何かがある部屋ではない。
首を傾げながら女を見ると、女は怒り狂ったような顔で私のことを見ている。



「侍女が私に質問なんてしないで!!!
アナタ達は黙って言われた通りにしていればいいの!!!」



そんな怒鳴り声を残し女は早足で去っていく。
ムキになって怒っていた女の後ろ姿を眺めながらトレーを持ち、女の動きをよく観察する。



そしたら・・・



少し・・・ほんの少しだけ、微かに意識をソッチに向けた。



カルベルがいたあの古い扉に。



小屋が3つあるだけの小さな空間が広がる古い扉に。



トレーを両手で持ったままその扉に向かってゆっくりと歩いていく。
そして片手をその扉に伸ばした時・・・



「カルティーヌ。」



低い男の声が私の名前を呼んだ。
その声の方を見てみるとステル殿下だった。



上等な生地で作られた寝る服にガウンを羽織り、“来ないで”と何度も言ったのにこんな所まで来た。



「遅いから迎えに来た。」



「私は遅くなってないよ。」



すぐに私を迎えに来たステル殿下に小さく笑いながら答え、古い扉に手を添えていた自分の手をトレーに戻した。



「今ここに女がいた。
黒いナイトドレスとガウンを着て、歳は40代半ば。
髪の毛の色は暗いから分からなかったけど、顔は整った造りをしていた。
目視で体長165センチ、重さ57キロ。」



「その特徴だけなら多くの女がそうだから分からないな。」



「ここの扉を気にしてた。
たぶんここで食事をしていたんだと思う。」



「ここか・・・。
たまに使われるんだよな、ここ。」



「そうなの?」



「俺もたまに使っていたが、男と女が隠れて会う場所だ。」



それを聞き・・・



それを聞いて・・・



さっき聞いた3人の騎士の会話を思い出す。



それだけではない、私が聖女として王宮に来てから何度も聞いた話。



「可哀想な皇太子殿下・・・。」



思わず小さく呟いてしまった。
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