【完】可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる

Bu-cha

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半年前




「お呼びでしょうか。」



わざわざ王座に座った俺の前にはステルがいる。
片膝をつき頭を下げながら俺にそう聞いてきた。



第1騎士団の鎧を脱ぐことはなく俺の前に片膝をついている。
黒髪は国を滅ぼそうとする記録は何だったのかというくらいに有能な男に育った。



「聖女が出現したらしい。
俺はわざわざ会っていないが、信用している貴族が確認したから間違いない。
聖女を確認する“医師”として色々と確認したようだな、身体を触ろうとしたら拒否されたらしいが。
お前、その聖女と結婚しろ。」



俺のその言葉にはステルが黙った。
少しだけ、ほんの少しだけ可哀想な気持ちにもなるので聞いてあげることにする。



「好きな女がいるからな、お前には。」



この話をすると、この男が下げていた頭を更に下げて頷いた。



「その女はもう1人の正室として迎え入れればいいだろ。
聖女が現れたからには王族に正式に取り込みたい。
なんといっても国に安泰をもたらすからな。」



「僕は黒髪持ちですので、その聖女様に何か良くないことが起きる可能性も考えられます。
第1皇太子殿下と第2皇太子殿下にそのお話はされましたか?」



「勿論した。
だかあの皇子達はあんな感じだからな。
すぐに断られた。」



「そうですか・・・。」



ステルが少しだけ悩んだ様子になり、頭を下げたままもう1度口を開いてきた。



「僕は騎士としての仕事が出来るだけで充分です。
他には何も望んでいません。
ですが、僕は黒髪持ち・・・」



ステルが言葉を切った後にゆっくりと顔を上げてきた。



その顔を見て俺は苛立ちが沸騰してくる。



「ただの騎士で黒髪持ちの僕が聖女様と結婚した場合でも国は安泰になるのでしょうか?
そんな心配も僕はしてしまいます。」



「そんなことを言ってただ断りたいだけだろ?」



苛立ちを隠しながら聞くと、ステルは困ったように笑った。



「僕の好きな女の子は妻がもう1人いる男の元には嫁いでくれないでしょう。
黒髪持ちで只でさえハンデがあります。
これ以上のハンデは・・・。」



この男が困っている顔をするのは最高に気持ち良い気分になってくる。



もっと困らせたくなってくる。



もっと苦しませたくなってくる。



「それならただの騎士ではなくさせてやる。
聖女との結婚により第3皇太子としての地位をやる。
次の王になれる可能性のある権利を。
それなら女も喜んでもう1人の正室になるだろう。
女というものは権力が大好きだからな。」



「ですが、僕はそういったものには興味はなく・・・。」



「分かっている。
だから形だけだ、形だけ。
それともなんだ?
この国の安泰を望んでいないのか?
そんな者に第2騎士団の団長を任せるつもりはないぞ?」



俺のこの言葉にはこの男が焦った様子になる。
この男は本当に欲のない男で。
本当に騎士団で働くことだけしかしていないような男で。



それが分かりきっているから俺はこの提案を・・・命令を下した。



俺はこの国の実質的な国王陛下だから。



俺はこの男にも命令を下せる。



この男にも・・・



俺の父親の顔にしか見えない男に育ったこの男にも・・・。



“ジルゴバートは王の器ではない”



そんな“迷言”を残した先代の国王陛下の顔と違う所が見当たらないくらいによく似た顔をしているこの男にも、俺は命令出来る。



「聖女まで現れた。
これで“俺の国”はもっと安泰になる。
頼んだぞ、ステル。」



「はい・・・。」



そして、深く頭を下げたステルの姿を見下ろしながら続ける。



「そういえば、聖女はインソルドから来たらしいぞ。」



俺の言葉にステルが少しだけ顔を上げた。



「インソルドですか、名前はなんという方でしょうか。」



「カルティーヌという名前だったかな。
インソルドに流された没落貴族、マフィオス家の令嬢だよ。」



「そうですか。」



ステルは女の話になるといつも興味のない様子になる。
“好きな女”も都合の良い言い訳に使っているようにしか俺には見えなかった。
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