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エリナエルがクラスト陛下に抱き締められながら、クラスト陛下の身体から身を乗り出して俺達に訴えてきた。
最高に気持ち良いその展開には心の中で大笑いをする。
俺よりも完璧な兄が黒髪の子どもを生ませた。
俺の子ども、ハフリークは俺に似た灰色の髪の毛。
今マルチネス妃が身籠っている子どもはどうなるかは分からないが、黒髪ではないことは確かだろう。
計算するに、ミランダのことを思い浮かべながら達した日の子どもだということになる。
マルチネス妃が今身籠っているのは俺とミランダとの子どもだ。
きっと、そうだ・・・。
そう思いながらエリナエルを心配そうに見ている心優しいミランダ。
今日も美しく光り輝いている。
「陛下・・・信じてください、本当に陛下の子どもです・・・っ」
「分かっている。
それは俺が1番良く分かっているから。
ただ、黒い髪の毛で生まれてしまったことは王族にとっては話し合うべきことで。
終わったらすぐに会いに行くから部屋で待っていてくれ。」
「終わったらって何をですか・・・!?
天に返すことをですか・・・!?
どこですか!?
私と陛下の赤ちゃんはどこにいるんですか!?」
エリナエルがクラスト陛下にすがり付きながら、でもその身体がズルズルと下に落ちていく。
クラスト陛下が抱き締めているはずなのに下に。
「天に返さないで・・・っ。
絶対にそんなことをしないで・・・っ。
あの子は王になる・・・きっと、王になる・・・。
私には見えた・・・あの子を産んだ瞬間・・・あの子が王になった所が見えた・・・。
金にも銀にも見える髪の色をした、華奢で真っ赤なドレスを着た女の子と2人で並び、王座に座るでもなく立っている姿が見えた・・・。」
そんなイカれた言葉まで飛び出てきて思わず声が漏れそうになった。
「それはこの国を滅ぼした後なんじゃないですか!?」
俺が贔屓にしている貴族が大笑いをしながらそう言うと、他の貴族達も大笑いし始めた。
「黙れ。」
この部屋の空気がビリっと痺れるような声が響き、それがクラスト陛下が発した声なのだと気付く。
戦や討伐にも自ら出向いていたくらい剣の腕があるクラスト陛下。
俺も一緒に行ったことがあるがその時でもこんな声は聞いたことがなかった。
「エリナエルを部屋に連れていく。
マドニス、俺が戻るまで頼んだぞ。」
その目だけでここにいる全員を殺すことが出来そうなくらい、それくらい鋭い目付きのクラスト陛下がマドニス宰相にこの後のことを頼んだ。
俺にではなく、マドニス宰相に頼んだ。
それが酷く苛立たせた。
俺を苛立たせた。
俺の方が有能だったのに。
男の“性”としては、俺の方が有能だったのに。
苛立ちが沸騰してくる中、見えた。
俺が贔屓にしている貴族達がニヤニヤと小さく笑いながら俺に目配せしている顔が。
訴え掛けてきている。
この貴族達にいつも言われていた言葉を、訴えられていた言葉が浮かんできた。
“ジルゴバート殿下が国王陛下だったら良かったのに”
何度も何度も俺を気持ち良くさせていた言葉が今、浮かんできた・・・。
そしたら、その瞬間・・・
「ジルゴバート陛下!」
贔屓にしていた1人の貴族が俺にそう言った・・・。
「あ、申し訳ありません!
心の声が出てしまって!!
でも、クラスト陛下が黒髪の子どもを迎えたなんて民が知ったら、国は今後どうなりますかね?
他国も今が好機だと本格的に攻め込んでくるかもしれませんよ、牽制の戦ではなく。」
古くからいる貴族が宥める声なんて聞こえないくらい、この場には俺が贔屓にしている貴族達がいた。
こんなにもいた。
俺に“迷言”を残したあの男は間違えていたらしい。
だって俺はこんなにも求められている。
こんなにも“国王陛下”として求められている。
俺にも器があった。
王になる器がちゃんとあった。
だって気持ち良い・・・。
こんなにも気持ち良い・・・。
人の上に立つということは・・・
国の上に立つということは・・・
こんなにも・・・
こんなにも気持ち良い・・・。
最高に気持ち良いその展開には心の中で大笑いをする。
俺よりも完璧な兄が黒髪の子どもを生ませた。
俺の子ども、ハフリークは俺に似た灰色の髪の毛。
今マルチネス妃が身籠っている子どもはどうなるかは分からないが、黒髪ではないことは確かだろう。
計算するに、ミランダのことを思い浮かべながら達した日の子どもだということになる。
マルチネス妃が今身籠っているのは俺とミランダとの子どもだ。
きっと、そうだ・・・。
そう思いながらエリナエルを心配そうに見ている心優しいミランダ。
今日も美しく光り輝いている。
「陛下・・・信じてください、本当に陛下の子どもです・・・っ」
「分かっている。
それは俺が1番良く分かっているから。
ただ、黒い髪の毛で生まれてしまったことは王族にとっては話し合うべきことで。
終わったらすぐに会いに行くから部屋で待っていてくれ。」
「終わったらって何をですか・・・!?
天に返すことをですか・・・!?
どこですか!?
私と陛下の赤ちゃんはどこにいるんですか!?」
エリナエルがクラスト陛下にすがり付きながら、でもその身体がズルズルと下に落ちていく。
クラスト陛下が抱き締めているはずなのに下に。
「天に返さないで・・・っ。
絶対にそんなことをしないで・・・っ。
あの子は王になる・・・きっと、王になる・・・。
私には見えた・・・あの子を産んだ瞬間・・・あの子が王になった所が見えた・・・。
金にも銀にも見える髪の色をした、華奢で真っ赤なドレスを着た女の子と2人で並び、王座に座るでもなく立っている姿が見えた・・・。」
そんなイカれた言葉まで飛び出てきて思わず声が漏れそうになった。
「それはこの国を滅ぼした後なんじゃないですか!?」
俺が贔屓にしている貴族が大笑いをしながらそう言うと、他の貴族達も大笑いし始めた。
「黙れ。」
この部屋の空気がビリっと痺れるような声が響き、それがクラスト陛下が発した声なのだと気付く。
戦や討伐にも自ら出向いていたくらい剣の腕があるクラスト陛下。
俺も一緒に行ったことがあるがその時でもこんな声は聞いたことがなかった。
「エリナエルを部屋に連れていく。
マドニス、俺が戻るまで頼んだぞ。」
その目だけでここにいる全員を殺すことが出来そうなくらい、それくらい鋭い目付きのクラスト陛下がマドニス宰相にこの後のことを頼んだ。
俺にではなく、マドニス宰相に頼んだ。
それが酷く苛立たせた。
俺を苛立たせた。
俺の方が有能だったのに。
男の“性”としては、俺の方が有能だったのに。
苛立ちが沸騰してくる中、見えた。
俺が贔屓にしている貴族達がニヤニヤと小さく笑いながら俺に目配せしている顔が。
訴え掛けてきている。
この貴族達にいつも言われていた言葉を、訴えられていた言葉が浮かんできた。
“ジルゴバート殿下が国王陛下だったら良かったのに”
何度も何度も俺を気持ち良くさせていた言葉が今、浮かんできた・・・。
そしたら、その瞬間・・・
「ジルゴバート陛下!」
贔屓にしていた1人の貴族が俺にそう言った・・・。
「あ、申し訳ありません!
心の声が出てしまって!!
でも、クラスト陛下が黒髪の子どもを迎えたなんて民が知ったら、国は今後どうなりますかね?
他国も今が好機だと本格的に攻め込んでくるかもしれませんよ、牽制の戦ではなく。」
古くからいる貴族が宥める声なんて聞こえないくらい、この場には俺が贔屓にしている貴族達がいた。
こんなにもいた。
俺に“迷言”を残したあの男は間違えていたらしい。
だって俺はこんなにも求められている。
こんなにも“国王陛下”として求められている。
俺にも器があった。
王になる器がちゃんとあった。
だって気持ち良い・・・。
こんなにも気持ち良い・・・。
人の上に立つということは・・・
国の上に立つということは・・・
こんなにも・・・
こんなにも気持ち良い・・・。
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