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私の言葉にミランダは完璧な作り笑いを浮かべてきた。
「他の侍女なら言いふらしていたでしょうけど、私はクラスト陛下から直々に任命された侍女長ですよ?
皇太子妃からの頼みとはいえそのような内容でしたら引き受けることは出来かねます。」
「優秀な侍女長だね。
そんな侍女長を選んだクラスト陛下は今どこにいるの?
18年も行方不明なんておかしいよね。」
「行方不明ではありません。
療養中だと何度もご説明しましたよね?
ステル殿下をご出産した際に第2王妃のエリナエル王妃が亡くなってしまわれたのが原因です。」
「そんな弱い国王が国王だったなんて国民も驚きだよね。
それで行方不明になられたんじゃどうしようもないよ。」
「行方不明ではありません!
そろそろ戻られるはずです・・・!!
きっと、戻られるはずです・・・!!」
今日もミランダのこの感じを見て、やっぱりクラスト陛下は行方不明になっているのだと確信する。
「私が探してくるよ、クラスト陛下の姿絵を見せてよ。」
「姿絵はクラスト陛下が戻られるまでは大切に保管されています。」
「ジルゴバート王弟殿下にだよね?」
「それは・・・はい。」
「殺されたんじゃないの?
ジルゴバートに。」
「それは有り得ません。」
今日もハッキリと言い切ったミランダを見ながら、すっかり私の身体を洗うことを忘れているミランダの代わりにシャワーから水を出した。
「・・・申し訳ございません。
こちらに回すとお湯が出ます。」
「お湯なんて使わない。
私は没落貴族のマフィオス家の長女、それもインソルドに流された家の人間。
そんな人間にお湯なんて必要ない。」
「何を聞いたかは分かりますが、宮廷で行われる会話は絶対に鵜呑みにしないことです。」
「鵜呑みになんてしてない。
でも、それが事実だから。」
冷たい水を浴びながら小さく笑った。
「第1皇太子も第2皇太子も聖女とはいえそんな女との結婚は拒むよね。
王位を継ぐ権利を認めていなかった第3皇子のステル皇子を皇太子にすることを認めてまで私を押し付けたかったらしいからね。
ステル皇子も全力で拒んでいたらしいけどね、可哀想に。」
水を止めてからミランダの方を見ると、ミランダは昨日までの様子とは違った。
こういった話を私がすると困った顔で笑っていたのに、今は力強い顔で私のことを見ている。
「ステル皇太子は本日より宮廷に行っております。
昨日までは欠席予定だった政治への関与に精悍な顔つきで向かわれました。
正直・・・驚きました。」
ミランダが嬉しそうに笑いながら私のことを見詰める。
「貴女にも一切興味を持っていなかったステル殿下が一晩中貴女を抱いていたことに。」
「ステル殿下、好きな女がいたみたいだね。」
「宮廷で聞きましたか?」
「それもそうだけど、本人に確認した。」
「流石でごさいますね・・・っ」
ミランダがこんなに楽しそうに笑うのを初めて見た。
あまりにも自然な笑顔なので私も思わず笑い返した。
「ミランダ、仕事の合間に色々教えてくれてたのにごめん。
私は普通の皇太子妃にはなれない。」
「他の侍女なら言いふらしていたでしょうけど、私はクラスト陛下から直々に任命された侍女長ですよ?
皇太子妃からの頼みとはいえそのような内容でしたら引き受けることは出来かねます。」
「優秀な侍女長だね。
そんな侍女長を選んだクラスト陛下は今どこにいるの?
18年も行方不明なんておかしいよね。」
「行方不明ではありません。
療養中だと何度もご説明しましたよね?
ステル殿下をご出産した際に第2王妃のエリナエル王妃が亡くなってしまわれたのが原因です。」
「そんな弱い国王が国王だったなんて国民も驚きだよね。
それで行方不明になられたんじゃどうしようもないよ。」
「行方不明ではありません!
そろそろ戻られるはずです・・・!!
きっと、戻られるはずです・・・!!」
今日もミランダのこの感じを見て、やっぱりクラスト陛下は行方不明になっているのだと確信する。
「私が探してくるよ、クラスト陛下の姿絵を見せてよ。」
「姿絵はクラスト陛下が戻られるまでは大切に保管されています。」
「ジルゴバート王弟殿下にだよね?」
「それは・・・はい。」
「殺されたんじゃないの?
ジルゴバートに。」
「それは有り得ません。」
今日もハッキリと言い切ったミランダを見ながら、すっかり私の身体を洗うことを忘れているミランダの代わりにシャワーから水を出した。
「・・・申し訳ございません。
こちらに回すとお湯が出ます。」
「お湯なんて使わない。
私は没落貴族のマフィオス家の長女、それもインソルドに流された家の人間。
そんな人間にお湯なんて必要ない。」
「何を聞いたかは分かりますが、宮廷で行われる会話は絶対に鵜呑みにしないことです。」
「鵜呑みになんてしてない。
でも、それが事実だから。」
冷たい水を浴びながら小さく笑った。
「第1皇太子も第2皇太子も聖女とはいえそんな女との結婚は拒むよね。
王位を継ぐ権利を認めていなかった第3皇子のステル皇子を皇太子にすることを認めてまで私を押し付けたかったらしいからね。
ステル皇子も全力で拒んでいたらしいけどね、可哀想に。」
水を止めてからミランダの方を見ると、ミランダは昨日までの様子とは違った。
こういった話を私がすると困った顔で笑っていたのに、今は力強い顔で私のことを見ている。
「ステル皇太子は本日より宮廷に行っております。
昨日までは欠席予定だった政治への関与に精悍な顔つきで向かわれました。
正直・・・驚きました。」
ミランダが嬉しそうに笑いながら私のことを見詰める。
「貴女にも一切興味を持っていなかったステル殿下が一晩中貴女を抱いていたことに。」
「ステル殿下、好きな女がいたみたいだね。」
「宮廷で聞きましたか?」
「それもそうだけど、本人に確認した。」
「流石でごさいますね・・・っ」
ミランダがこんなに楽しそうに笑うのを初めて見た。
あまりにも自然な笑顔なので私も思わず笑い返した。
「ミランダ、仕事の合間に色々教えてくれてたのにごめん。
私は普通の皇太子妃にはなれない。」
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