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────────────・・・・・・
「駅まで送ります。」
ハンカチを渡すこともラーメン1杯をご馳走することも出来なかった俺が最後にそれだけはしたいと思って伝えた。
そんな俺に羽鳥さんは慌てたようにを横に振る。
そしたら羽鳥さんの隣に並ぶ羽鳥さんの婚約者の男の人も羽鳥さんと同じ動作をした。
レジの向こう側で、2人で俺に首を横に振った。
「安部さんの気持ちだけ頂くよ。
羽鳥さん、このまま会社戻ります?」
「はい、荷物の整理もありますしそのつもりです。」
「そっか、俺タクシー拾うから途中まで一緒に乗せていくよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「夜、お店に間に合うようには戻るから。」
どんな店に行くんだろう。
こんなにお嬢様の羽鳥さんは普段どんな店に行ってるんだろう。
いつもどんな物を食べてるんだろう。
いつもいくらくらいの物を食べているんだろう。
こんな1杯650円のラーメンなんて、こんな店になんて、本当だったら食べることも食べに来ることもないお嬢様の羽鳥さんは、本当だったら俺と出会うこともなかったお嬢様で。
「幸治君、今日はお休みの予定だったの?
時間をくれてありがとうね。」
「いえ。」
「お父様によろしくね?」
「はい。」
「じゃあ、行ってくるね。」
羽鳥さんがその言葉を久しぶりに言う。
だから俺は昔と同じように”はい“と答えなければいけない。
羽鳥さんがこの扉から出て、これから先の長い人生をお嬢様として頑張れる為に、俺は”はい。“と言わなければいけない。
それは分かる。
それは分かっている。
でもそれがどうしても言えなくて。
俺は・・・
俺はまた、羽鳥さんに会いたい。
これが最後なのだと分かっているけれど、それでも俺はまた羽鳥さんに会いたい。
羽鳥さんのことを好きとか、やりたいとか、そんなことはもう絶対に思わないし絶対に口に出したりはしないから。
今後は絶対にしないから。
そんな失敗は絶対にしないから。
俺はまた、羽鳥さんに会いたい。
「羽鳥さん。」
羽鳥さんに呼び掛けたのは俺ではなく羽鳥さんの隣に並ぶこの男だった。
婚約者から呼ばれた羽鳥さんは慌てた様子で足を一歩踏み出した。
“中華料理屋 安部”から踏み出した。
俺から、踏み出した。
「今まで本当にありがとう。
なんか・・・ごめんね?」
約4年前にも聞いた言葉を今日も聞いた。
謝罪はしないはずの羽鳥さんが俺に謝罪の言葉を言って、歩きだした。
“中華料理屋 安部”から歩きだした。
俺の元から歩き出した。
婚約者がいたとしても今でも俺のことが好きなのに。
婚約者からのハンカチではなく俺が渡したラーメンを手に取ったのに。
婚約者ではなく俺にあんなにも”好き“の顔を向けていたのに。
”中華料理屋 安部“の扉から、羽鳥さんが“凄い男“である婚約者と並んで歩いていく後ろ姿を眺める。
雲1つない青空はムカツクくらい綺麗で。
ムカツクくらい綺麗だから・・・
つい、妄想してしまった。
羽鳥さんの後ろ姿に並ぶ自分の後ろ姿を。
なんかよく分からないけど、羽鳥さんの隣を普通に歩けるくらいの、とにかく凄い男になれている自分の姿を。
そんな妄想をして、やっぱり死ぬほど苦しくなった。
死ぬほど苦しくなったけど・・・
「これが最後の妄想だから・・・。」
雲1つない綺麗な青空の下、羽鳥さんと並ぶ自分の姿をもう少しだけ妄想した。
そして・・・
「幸せになってください・・・。」
俺の後ろ姿の隣に歩く羽鳥さんの後ろ姿に、そう伝えた。
ハンカチを渡すこともラーメン1杯をご馳走することも、駅まで送ることも出来なかった俺が、遠ざかっていく羽鳥さんにそう伝えた。
「駅まで送ります。」
ハンカチを渡すこともラーメン1杯をご馳走することも出来なかった俺が最後にそれだけはしたいと思って伝えた。
そんな俺に羽鳥さんは慌てたようにを横に振る。
そしたら羽鳥さんの隣に並ぶ羽鳥さんの婚約者の男の人も羽鳥さんと同じ動作をした。
レジの向こう側で、2人で俺に首を横に振った。
「安部さんの気持ちだけ頂くよ。
羽鳥さん、このまま会社戻ります?」
「はい、荷物の整理もありますしそのつもりです。」
「そっか、俺タクシー拾うから途中まで一緒に乗せていくよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「夜、お店に間に合うようには戻るから。」
どんな店に行くんだろう。
こんなにお嬢様の羽鳥さんは普段どんな店に行ってるんだろう。
いつもどんな物を食べてるんだろう。
いつもいくらくらいの物を食べているんだろう。
こんな1杯650円のラーメンなんて、こんな店になんて、本当だったら食べることも食べに来ることもないお嬢様の羽鳥さんは、本当だったら俺と出会うこともなかったお嬢様で。
「幸治君、今日はお休みの予定だったの?
時間をくれてありがとうね。」
「いえ。」
「お父様によろしくね?」
「はい。」
「じゃあ、行ってくるね。」
羽鳥さんがその言葉を久しぶりに言う。
だから俺は昔と同じように”はい“と答えなければいけない。
羽鳥さんがこの扉から出て、これから先の長い人生をお嬢様として頑張れる為に、俺は”はい。“と言わなければいけない。
それは分かる。
それは分かっている。
でもそれがどうしても言えなくて。
俺は・・・
俺はまた、羽鳥さんに会いたい。
これが最後なのだと分かっているけれど、それでも俺はまた羽鳥さんに会いたい。
羽鳥さんのことを好きとか、やりたいとか、そんなことはもう絶対に思わないし絶対に口に出したりはしないから。
今後は絶対にしないから。
そんな失敗は絶対にしないから。
俺はまた、羽鳥さんに会いたい。
「羽鳥さん。」
羽鳥さんに呼び掛けたのは俺ではなく羽鳥さんの隣に並ぶこの男だった。
婚約者から呼ばれた羽鳥さんは慌てた様子で足を一歩踏み出した。
“中華料理屋 安部”から踏み出した。
俺から、踏み出した。
「今まで本当にありがとう。
なんか・・・ごめんね?」
約4年前にも聞いた言葉を今日も聞いた。
謝罪はしないはずの羽鳥さんが俺に謝罪の言葉を言って、歩きだした。
“中華料理屋 安部”から歩きだした。
俺の元から歩き出した。
婚約者がいたとしても今でも俺のことが好きなのに。
婚約者からのハンカチではなく俺が渡したラーメンを手に取ったのに。
婚約者ではなく俺にあんなにも”好き“の顔を向けていたのに。
”中華料理屋 安部“の扉から、羽鳥さんが“凄い男“である婚約者と並んで歩いていく後ろ姿を眺める。
雲1つない青空はムカツクくらい綺麗で。
ムカツクくらい綺麗だから・・・
つい、妄想してしまった。
羽鳥さんの後ろ姿に並ぶ自分の後ろ姿を。
なんかよく分からないけど、羽鳥さんの隣を普通に歩けるくらいの、とにかく凄い男になれている自分の姿を。
そんな妄想をして、やっぱり死ぬほど苦しくなった。
死ぬほど苦しくなったけど・・・
「これが最後の妄想だから・・・。」
雲1つない綺麗な青空の下、羽鳥さんと並ぶ自分の姿をもう少しだけ妄想した。
そして・・・
「幸せになってください・・・。」
俺の後ろ姿の隣に歩く羽鳥さんの後ろ姿に、そう伝えた。
ハンカチを渡すこともラーメン1杯をご馳走することも、駅まで送ることも出来なかった俺が、遠ざかっていく羽鳥さんにそう伝えた。
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