【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

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『“中華料理屋 安部”の煩くて面倒でヤバい人』







二十歳    10月1日




土曜日の午前10時、店を開店して数分。
11時頃から入ってくるお客さんが多いけれど、親の代から土日は10時から開くようにしている。



ここは近所の人達や常連さん達によって何とか営業が出来ている店。
休日の遅くなった朝ご飯を食べに来る家族や1人暮らしの人もこの時間にたまに来てくれている。



たまに・・・本当にたまに、羽鳥さんもこの時間から来てくれていることがあった。
週末に何も予定がない日は朝10時から来てくれていて、スープをいつもよりもゆっくりと飲んで15時過ぎまでいてくれることもあった。



俺がよく作業をしているこの目の前のカウンターの席に座って、嬉しそうな顔で俺のことを見上げていた。



俺が高校3年生、3月10日の18歳の誕生日の日以来、羽鳥さんはこの店に来なくなってしまった。



“私は“中華料理屋 安部”が凄く大好き。”



何度もそう言って笑ってくれていた羽鳥さんの姿が今でもハッキリと思い出せる。
それくらいに羽鳥さんはその言葉を言ってくれていた。



何度も何度も言ってくれていた。



それは俺自身に対して言ってくれていたのもそうだけど、この店に対しても言ってくれていた。



「すみませんでした・・・。」



目の前に座る羽鳥さんの残像に今日も謝る。
俺が奪ってしまったから。
お嬢様の羽鳥さんが普通の羽鳥さんでいられる場所であるこの店を、俺自身が奪ってしまった。



後悔しかない・・・。



“あの日”のことは、後悔しかない・・・。



今日も深く後悔をしながら、残像の羽鳥さんに背中を向けて店の電話機を手に取った。



それから今日も羽鳥さんが教えてくれた電話番号を押していく。



ゆっくりとゆっくりと押していく。



そして最後の番号を指先で触れ・・・



しばらく触れ続け・・・



長い時間触れ続け・・・



今日も電話機の方が先に諦め、最後のボタンを押すことはないまま電話機が最初の状態に戻った。



羽鳥さんに繋がることはなかった電話機を今日も見下ろし、しばらくしてから電話機を戻した。



「もう、羽鳥さんのことが異性として好きではないので・・・。」



小さく呟きながら、電話機の隣に置いている羽鳥さんのハンカチを手に取った。
クリーニングの袋に入れたまま、1度も取り出すことはしなかったハンカチを。