上 下
568 / 585
38

38-4

しおりを挟む
「うん、渡したよ。」



その返事を聞いて、聞いたことを後悔した。
でも知りたかった・・・。
婚約者のような相手が羽鳥さんに現れたかどうか、いつも気になって仕方がなかった。



“普通”以下の男子高校生の俺が好きになってどうにかなる人ではないとは分かっているけれど、いつも気になってしまっていた。



この人の隣に並べる男はどんな男なんだろうと気になってしまっていた。



俺がそんな凄い男になれるなんてこれっぽっちも思わないけれど、妄想や夢に見ることは何度もしていた。



俺が“普通”以上の男になって、“普通”以上どころか何かよく分からなけれど凄い男になって、“普通”に羽鳥さんの隣に並べる男になって、この店を羽鳥さんと一緒に出る。



お嬢様で大人のこの人がどんなデートだと喜んでくれて、どんな店に連れていけば良い雰囲気になるかなんて全く分からないけれど、妄想や夢の中では何だかお洒落で高そうな場所でいつも良い雰囲気になる。



それで・・・



それで・・・



何かよく分からないけれど凄い男になれている俺はこの人とセックスをする。



“普通”のセックスだけでもなく結構凄い感じのやつまで妄想し、夢に見て、そんな気持ち悪いとドン引きされるようなことを考え、何度も何度も下半身に手を伸ばしたことがある。



でも、言わない限り知られることはないから。
妄想の中だけでも、夢の中だけでも、俺は好きな女の人と結ばれたいと思っていた。
それくらいなら許されると思っていた。



現実の世界ではそんなことは絶対に起きないから。



だから・・・



だから・・・



「婚約したんですか?
おめでとうございます。」



今日も普通に笑って、嘘をつく。



“おめでとう”だなんてこれっぽっちも思っていないけれど、この人がまた週末にこの店に・・・俺に会いに来てくれるなら、俺は何度だってどんな嘘だってつく。



嘘をつき続ける。



そう今日も覚悟をしながら言ったら、羽鳥さんがクスクスと静かに笑った。



「違うよ、うちの部署でも今年は男性社員達にチョコを渡すことになって。
社内があんまり良い雰囲気じゃないんだよね、部長をしている分家の人間が良くない人で。
少しでも良い雰囲気にと思って、女性社員達でチョコを配ってみたの。」



「そうだったんですか。」



内心死ぬほどホッとしながらそう答えると、羽鳥さんがまたレンゲでゆっくりとスープを飲んだ。



それから明らかにムッとした顔で、なのに笑っているという顔で俺のことを見上げた。



そして・・・



「幸治君は女の子にチョコを貰ったんだ?
よかったね。」



どこをどう見ても“よくない”と思っている顔でそんなことを言い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

真実は仮面の下に~精霊姫の加護を捨てた愚かな人々~

ともどーも
恋愛
 その昔、精霊女王の加護を賜った少女がプルメリア王国を建国した。 彼女は精霊達と対話し、その力を借りて魔物の来ない《聖域》を作り出した。  人々は『精霊姫』と彼女を尊敬し、崇めたーーーーーーーーーーープルメリア建国物語。  今では誰も信じていないおとぎ話だ。  近代では『精霊』を『見れる人』は居なくなってしまった。  そんなある日、精霊女王から神託が下った。 《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》  その日エルメリーズ侯爵家に双子が産まれた。  姉アンリーナは精霊姫として厳しく育てられ、妹ローズは溺愛されて育った。  貴族学園の卒業パーティーで、突然アンリーナは婚約者の王太子フレデリックに婚約破棄を言い渡された。  神託の《エルメリーズ侯爵家の長女を精霊姫とする》は《長女》ではなく《少女》だったのでないか。  現にローズに神聖力がある。  本物の精霊姫はローズだったのだとフレデリックは宣言した。  偽物扱いされたアンリーナを自ら国外に出ていこうとした、その時ーーー。  精霊姫を愚かにも追い出した王国の物語です。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初心者のフワフワ設定です。 温かく見守っていただけると嬉しいです。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

アムネーシス 離れられない番

山吹レイ
BL
諸富叶人は十七歳、高校生二年生、オメガである。 母親と二人暮らしの叶人はオメガという呪われた性に負けずに生きてきた。 そんなある日、出会ってしまった。 暴力的なオーラを纏う、ヤクザのような男。 その男は自分の運命の番だと。 抗おうとしても抗えない、快感に溺れていく。 オメガバースです。 ヤクザ×高校生の年の差BLです。 更新は不定期です。 更新時、誤字脱字等の加筆修正入る場合あります。 ※『一蓮托生』公開しました。完結いたしました。 

監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されたやり直し令嬢は立派な魔女を目指します!

古森きり
ファンタジー
幼くして隣国に嫁いだ侯爵令嬢、ディーヴィア・ルージェー。 24時間片時も一人きりにならない隣国の王家文化に疲れ果て、その挙句に「王家の財産を私情で使い果たした」と濡れ衣を賭けられ処刑されてしまった。 しかし処刑の直後、ディーヴィアにやり直す機会を与えるという魔女の声。 目を開けると隣国に嫁ぐ五年前――7歳の頃の姿に若返っていた。 あんな生活二度と嫌! 私は立派な魔女になります! カクヨム、小説家になろう、アルファポリス、ベリカフェに掲載しています。

【連載版】「すまない」で済まされた令嬢の数奇な運命

玉響なつめ
恋愛
アナ・ベイア子爵令嬢はごくごく普通の貴族令嬢だ。 彼女は短期間で二度の婚約解消を経験した結果、世間から「傷物令嬢」と呼ばれる悲劇の女性であった。 「すまない」 そう言って彼らはアナを前に悲痛な顔をして別れを切り出す。 アナの方が辛いのに。 婚約解消を告げられて自己肯定感が落ちていた令嬢が、周りから大事にされて気がついたら愛されていたよくあるお話。 ※こちらは2024/01/21に出した短編を長編化したものです ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています

処理中です...