上 下
558 / 585
37

37-10

しおりを挟む
11月末



スタジオの中でカメラのシャッターの音が鳴り響く。
なかなか1人目のモデルさんから次の人に順番が回らず、遂に福富さんがメロンソーダにバニラアイスをのせて飲み始めてしまった。



「ごめんね、もうちょっと待っててね。」



「私は健康体なので全然大丈夫ですよ。
それよりも羽鳥さんが座ってください!!」



「でも・・・」



私が断ろうとした時、私の両肩を後ろから誰かがソッと触れた。



振り向くと佐伯さんが優しい顔で私に笑い掛けている。



でもその顔色は私が見ても分かるくらい悪い。



「座ってください、羽鳥さん。」



「ありがとう、じゃあ・・・。
佐伯も座って?顔色悪いよ?」



「はい、すみません・・・。」



私の隣に座った佐伯さんが申し訳なさそうに私に口を開く。



「“Koseki”の専属モデルの1人になるって約束をしたのに・・・。
羽鳥さんがする“いけないコト”に協力するって約束をしたのに・・・。」



“Koseki”の専属モデルになると福富さんとすぐに頷いてくれた佐伯さん。
でもその顔には戸惑いの顔が浮かんでいた。



「私は写真がどうしても苦手で・・・。
私は全然綺麗じゃないから・・・全然綺麗な身体じゃないから・・・。」



こんなに綺麗で可愛い佐伯さんがそんなことを言う。
それはきっと、前に教えてくれた背中の痣の話をしているのだと分かる。



いつものように“waka”のトップスを着ている佐伯さん。
頑張って着替えようとしたのかスーツのジャケットは脱いでいる。



「羽鳥さん、ごめんなさい・・・。」



真っ青な顔で私に謝る佐伯さんの隣に、スッと誰かが立った。
その人を見上げると若松さんで・・・。



「コーラ。」



コーラの上にアイスクリームをのせた若松さんが佐伯さんにコーラを差し出した。
佐伯さんは真っ青な顔のままそのコーラをゆっくりと受け取ると、ストローでコーラを一口飲んで。



そしてコーラの上のアイスクリームを当たり前かのように若松さんが食べ始めた。



そんな2人の自然な姿を眺めながら、私は佐伯さんに笑った。



「佐伯さんはちゃんと協力してくれたでしょ?」



私の言葉に佐伯さんは不安そうな顔で私のことを見た。



「10月31日に入籍をした私の噂が会社で出た直後、佐伯さんと若松さんも入籍をして話題が分散された、ありがとう。」



「羽鳥さんが既に妊娠しているという噂まで・・・噂というか事実ですけど、それも出回り始めましたけどね。」



10月31日、ハロウィンで結婚記念日でもあった“あの日”、幸治君と私は役所に行ったその場で婚姻届を貰った。
そしてそのまま増田ホールディングスへと行き、譲社長と松戸先生から証人欄を記入して貰い、私のお父さんを呼び出しお父さんに報告をした。



お父さんからは案の定死ぬほど私が怒られたけれど、お父さんのことを連れてきてくれた元気君がお父さんが怒る度に死ぬほど爆笑をして。



そのうちあんなに怒っていたお父さんも笑い出し、なんだかよく分からないけれどみんなで笑った。



いや、松戸先生だけはずっと不機嫌な顔をしていた。



「そっちはいつ入籍するの?」



佐伯さんが福富さんにそう聞くと、「うちは12月20日。」と、福富さんがメロンソーダをクルクルとストローで回しながら答えた。



「あ、それなら羽鳥さんの妊娠の話も福富さんの結婚の話で分散されそうなタイミングだね。」



佐伯さんの言葉に福富さんが首を傾げた。



「私の結婚とか誰も興味なくない?」



「アナタ、私と同じその顔でどうして中身がそうなったの・・・?
そして松戸先生といる時、2人でどんな感じでラブラブな雰囲気になるのか全然想像出来ない。」



「ラブラブになったこともなければ今もないよ?」



「「そうなの・・・?」」



佐伯さんと私の声が重なると、若松さんが楽しそうに笑った。



「松戸先生の方が尻に敷かれてるっぽいな!!」



信じられないことに、福富さんは松戸先生のことが好きだったらしい。
幸治君と入籍した直後にそれを知り、私は慌てて福富さんと松戸先生が結ばれるように福富さんに助言をした。



だって・・・



“幸治君って自覚はしてないだろうけど、絶対に福富さんのことが結構好きだったもん。”



福富さんが結婚することに心の中で物凄く安心をしながら、またカメラのシャッターの音がする方を見た。



そこには、ワンスターエージェントから紹介して貰った有名なカメラマンの方がいる。
多くの芸能人の写真集を手掛けた人が時間配分も忘れて写真を撮っていて・・・



「「本当に格好いい・・・」」



私の呟きは佐伯さんとまた重なった。



佐伯さんも“純”のことを見ていたのだと分かり、2人で顔を見合わせて笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

体育教師たちやお医者さまに特別なご指導をしてもらう短編集

星野銀貨
恋愛
リンク先のDLsiteに置いてある小説のエッチシーンまとめ読みです。 サークル・銀色の花で色々書いてます。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

【R18】かわいいペットの躾け方。

春宮ともみ
恋愛
ドS ‪✕ ‬ドM・主従関係カップルの夜事情。 彼氏兼ご主人様の命令を破った彼女がお仕置きに玩具で弄ばれ、ご褒美を貰うまでのお話。  *** ※タグを必ずご確認ください ※作者が読みたいだけの性癖を詰め込んだ書きなぐり短編です ※表紙はpixabay様よりお借りしました

女の子がひたすら気持ちよくさせられる短編集

恋愛
様々な設定で女の子がえっちな目に遭うお話。詳しくはタグご覧下さい。モロ語あり一話完結型。注意書きがない限り各話につながりはありませんのでどこからでも読めます。pixivにも同じものを掲載しております。

情事の風景

Lynx🐈‍⬛
恋愛
短編集です。 Hシーンだけ書き溜めていただけのオムニバスで1000文字程度で書いた物です。ストーリー性はありませんが、情事のみでお楽しみ下さい。 ※公開は不定期ですm(>_<)mゴメンナサイ ※もし、それぞれの短編を題材に物語を読みたいなら、考えていきますので、ご意見あればお聞かせ下さい。

妹に彼氏を寝取られ傷心していた地味女の私がナンパしてきた年下イケメンと一夜を共にしたら、驚く程に甘い溺愛が待っていました【完】

夏目萌
恋愛
昔から姉の物を欲しがり必ず自分の物にしていく妹の事が大嫌いな亜夢は、大学進学と共に家を出て以降家族とは疎遠になった。 ようやく訪れた平穏な日々。 社会人になって、彼氏も出来て、順風満帆な毎日を送っていたある日、妹の有紗は突如姿を現した。 それを合図に亜夢の平穏な日常は崩れ去り、ついには彼氏を寝取られてしまう。 幸せを奪われ、傷心していた亜夢の元へ一人の青年が声を掛けられ、多少の迷いはあったものの、亜夢はその青年の誘いに乗って一夜を共にしてしまう。 当初は一夜限りだと思っていたのに、自分を見てくれる彼に惹かれてしまった亜夢は告白を受けてそのまま交際に発展するのだけど…… 実は、この出来事は全て、ある人物によって仕組まれていた事だった――。 ※他サイトにも掲載

処理中です...