上 下
552 / 585
37

37-4

しおりを挟む
“必ず帰る”



“私は幸治君の元に必ず帰る”



そう強く強く思うけれど、スマホを持つ手は大きく震えている。



心臓の音が嫌な音で鳴り響き私の全身をカタカタと震わせてくる。



“増田譲社長”



その文字を長い時間見下ろし続けたけれど、まだスマホの画面に表示されている通話ボタンを押せずにいた。



私はこれから“いけないコト”ではなく“綺麗で正しいコト”をする。



これはきっと“いけないコト”ではなく“綺麗で正しいコト”で・・・。



そう思うのに長い時間通話ボタンが押せない。



“幸治君・・・”



幸治君の姿を思い浮かべ、幸治君に泣き付きたくなってしまった。



そしたら幸治君は必ず来てくれる。
私のどんなことにも付き合ってくれる。



でも・・・



でも、これは違う・・・。



これはうちの財閥の分家の“家”の問題。



そしてうちの財閥が抱えることになってしまった分家の人間達という“負”の要素。



「唯斗君の家の秘書・・・唯乃の旦那さんもワンスターエージェントで働いてるの?」



“青さんが動き出した。”
和希がそう口にした後に私なりに調べてみた結果、青さんは分家の家の秘書達を自分の会社に集めていることが分かった。



秘書達は“普通”の会社で働くには“普通”程度の能力しか発揮出来ないだろうけれど、使い方によってはどんなことでも可能で。



相当“使える人達”なはずで。



「うん、勤めてるよ。
ワンスターの社長から声を掛けて貰うまではマジで普通でもないような会社にしか雇って貰えないようなうちの秘書だけど、ワンスターだと結構仕事が出来るらしい。」



「ワンスターはうちの財閥を潰すというか・・・乗っ取るつもりでいる?」



聞いた私に唯斗君は一瞬だけ黙り、でもすぐに笑った。



「そうなんじゃない?
そうしてくれれば俺らは増田財閥に戻れる。」



ワンスターエージェントからの紹介で経理部にも転職してきたあの2人の女の子達。
恐ろしく仕事が出来て人間的にも強い強い女の子達。
そんな人達がワンスターエージェントからの紹介で各会社、各部署に入り込み始めていた。



「譲社長の方針じゃん?
今のうちの財閥は出来る奴が上に立つからさ。
ワンスターの息が掛かってる人達をうちの財閥の上に置かせる為にも、ほとんどの分家の秘書達は俺達のことを想ってワンスターの社長からの提案に乗ったよ。」



私が今から相手にするのは分家の人間達だけではない。
その後ろには青さんという強敵までいる。



“怖い”と思った。



凄く“怖い”と思った。



だから、思わず通話ボタンを押してしまった。



その通話ボタンの相手は譲社長ではなく、幸治君でもなく・・・




























「お母さん・・・・。」




幸治君と一緒に暮らし始めてから1度も連絡をすることはなかったお母さんだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

今日のオツボネさん

菅田刈乃
大衆娯楽
このお話はフィクションです。あなたの身近にいるおばさんとは一切関係ありません。  (気が向いたら投稿)

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

処理中です...