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“あんな思い”を経験した幸治君の言葉がとても耳に響いた。
耳に響いただけではなく、頭にも全身にも響き・・・



「俺も・・・俺も、一美さんと結婚したかったな・・・」



小さな小さな声だったけれど、幸治君が吐き出した声はこんなにも私にぶつかってきた。



あまりにも大きな衝撃を受けたからか私は何も言えなくて。
”うん“と答えるだけのことも出来ないまま涙を流し続けた。



そしてお互いに何も口にしないまま数分が経った時・・・



ブワッ────────────....と、やけに強い風が・・・



でも不思議と温かい風が廊下を吹き抜けた。



その数秒後、スマホの向こう側から幸治君の真剣な声が・・・



「羽鳥さん。」



と、“羽鳥さん”に語り掛けた。



「俺は一美さんのエゴもワガママも嘘も、お礼だって謝罪だって何でも受け取るけど、子どもはそういうわけにいかないって、そう伝えてくれませんか?」



さっきまでとは違い幸治君のしっかりとした声が私の全身に響いてくる。



その言葉にはさっきの言葉よりも強い衝撃を受け・・・



だからか急に、私の下腹部から少しだけ痛みを感じた。



その瞬間・・・



おまたから“何か”が少しだけ出たのを感じた。



「羽鳥さん、一美さんに言って欲しいことがあります。」



心臓の音がドッドッドッドッ──────...と煩いくらいに聞こえてくる。



「一美さんのエゴやワガママや嘘を子どもに押し付ける前に、子どもからもちゃんと話を聞いてあげてくださいって、一美さんに伝えてくれませんか。
お腹の中の子はまだ喋れないけど・・・想像してあげてくださいって。
一美さん、”その子“は今、何て言ってますか?・・・・・・って。」



冷や汗が吹き出てきて、下腹部を押さえながらその場にゆっくりとしゃがんだ。



「羽鳥さん。」



幸治君がまた“羽鳥さん”と呼び、そして・・・



「幸せになってくださいよ、ちゃんと。」



“羽鳥さん”にそう言ってきた。



「羽鳥さんもちゃんと幸せになってください。」



スマホを耳に押し当てながら大きく涙を流し続ける。



「羽鳥さんが昔から好きだったその男の子は、もう男子高校生でもなく“普通”の男でもありませんから。」



「・・・・・・っ」



「その男の子は“可哀想な子”ではなく、羽鳥さんの財閥のことも羽鳥さん自身のことも、羽鳥さんの子どものことも羽鳥さんと同じくらい考えられる、“凄い男”になれていますから。」



エゴもワガママも嘘も“この子”に押し付けようとしている私に幸治君がそう言って・・・



「俺からの話はこれでお仕舞いです。
電話だとやっぱり変なことを・・・変なことばっかり言っちゃいましたね、すみません。
話を聞いてくれてありがとうございました。」



電話が切れた。



幸治君からの電話に7歳も歳上の私が何も言えないまま、電話が切れてしまった。



幸治君からの話はお仕舞いになってしまった。
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