533 / 585
35
35-15
しおりを挟む
「おはよう・・・」
“大丈夫”
そう続けようとした私に、国光さんは福富さんソックリな顔で福富さんとは全然違う“仏”のような顔で笑った。
「つわりで辛そうですし、座ってください。」
その言葉には驚き、それと同時に濡れていた全身がサッ─────...と一気に冷たくなった。
「大丈夫です、誰にも言わないので。
どうぞ座ってください。」
国光さんはそう言って、私に片手を伸ばしてきた。
私よりも小さな可愛いその手を見下ろす私に国光さんの声がやけに重く響いた。
「私は本家の人間になりましたから。
分家の方達をお守りすることも私の役目です。」
国光さんが分家の人間である私にそう言ってくれた。
きっと元気君から聞いているはずなのに。
分家の人間達が元気君達にどれ程酷いことをしていたか知っているはずなのに・・・。
「羽鳥さん。」
国光さんが私のことを“羽鳥さん”と優しく呼んだ。
「座ってください。
まだもう少し時間が掛かりますから。」
それは会社の最寄り駅に到着するまでなのか両親に報告するまでなのか、それとも出産するまでなのか・・・。
「大丈夫です。」
国光さんの手を取らない私の手を国光さんが優しく握った。
「今は座りましょう。
座れる時には座って、休める時には休みましょう。
それも妊婦さんのお仕事だと思いますよ。」
何も動かない私の身体を国光さんが優しく電車の席に座らせてくれた。
「長靴は便利ですよ!
雨の日も雪の日も、子どもを背負ってでも歩けるらしいですし!!」
天気予報が雨でなくてもたまに長靴を履いてくる国光さん。
そんな日は必ず天気予報は外れて雨が降る。
松戸先生の従妹であり増田会長が直々に声を掛け入社をさせた国光美鼓(みこ)。
“ゆきのうえ商店街”の近くにある“よく当たる”と言われる小さな神社の娘として産まれた国光さんのことを座りながら見上げると、不思議とその目は赤く光っているように見えた。
「男の子かな。」
お腹の中の子どもの性別は男の子なのだともう判明した。
「子ども達は男の子ばっかり・・・。」
ブタネコ之助と桜のことを思い浮かべながら呟くと、国光さんは楽しそうに笑った。
「そうですね、男の子ばっかり産まれますね。」
その言葉には驚き、そして凄く苦しくなった。
凄く凄く苦しくなった・・・。
私は幸治君以外の男の人と結婚することになるらしい。
私は幸治君以外の男の人の赤ちゃんを産むことにもなるらしい。
“いけないコト”をしてしまった私には、その拒否権はやっぱりないらしい・・・。
少しでも綺麗で正しい分家の人間でいる為に、この子を1人で産んで育てていくという“いけないコト”は出来ないのだともう分かってしまった。
“大丈夫”
そう続けようとした私に、国光さんは福富さんソックリな顔で福富さんとは全然違う“仏”のような顔で笑った。
「つわりで辛そうですし、座ってください。」
その言葉には驚き、それと同時に濡れていた全身がサッ─────...と一気に冷たくなった。
「大丈夫です、誰にも言わないので。
どうぞ座ってください。」
国光さんはそう言って、私に片手を伸ばしてきた。
私よりも小さな可愛いその手を見下ろす私に国光さんの声がやけに重く響いた。
「私は本家の人間になりましたから。
分家の方達をお守りすることも私の役目です。」
国光さんが分家の人間である私にそう言ってくれた。
きっと元気君から聞いているはずなのに。
分家の人間達が元気君達にどれ程酷いことをしていたか知っているはずなのに・・・。
「羽鳥さん。」
国光さんが私のことを“羽鳥さん”と優しく呼んだ。
「座ってください。
まだもう少し時間が掛かりますから。」
それは会社の最寄り駅に到着するまでなのか両親に報告するまでなのか、それとも出産するまでなのか・・・。
「大丈夫です。」
国光さんの手を取らない私の手を国光さんが優しく握った。
「今は座りましょう。
座れる時には座って、休める時には休みましょう。
それも妊婦さんのお仕事だと思いますよ。」
何も動かない私の身体を国光さんが優しく電車の席に座らせてくれた。
「長靴は便利ですよ!
雨の日も雪の日も、子どもを背負ってでも歩けるらしいですし!!」
天気予報が雨でなくてもたまに長靴を履いてくる国光さん。
そんな日は必ず天気予報は外れて雨が降る。
松戸先生の従妹であり増田会長が直々に声を掛け入社をさせた国光美鼓(みこ)。
“ゆきのうえ商店街”の近くにある“よく当たる”と言われる小さな神社の娘として産まれた国光さんのことを座りながら見上げると、不思議とその目は赤く光っているように見えた。
「男の子かな。」
お腹の中の子どもの性別は男の子なのだともう判明した。
「子ども達は男の子ばっかり・・・。」
ブタネコ之助と桜のことを思い浮かべながら呟くと、国光さんは楽しそうに笑った。
「そうですね、男の子ばっかり産まれますね。」
その言葉には驚き、そして凄く苦しくなった。
凄く凄く苦しくなった・・・。
私は幸治君以外の男の人と結婚することになるらしい。
私は幸治君以外の男の人の赤ちゃんを産むことにもなるらしい。
“いけないコト”をしてしまった私には、その拒否権はやっぱりないらしい・・・。
少しでも綺麗で正しい分家の人間でいる為に、この子を1人で産んで育てていくという“いけないコト”は出来ないのだともう分かってしまった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる