【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

Bu-cha

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気持ち悪かったはずの私の身体にハンバーガーもポテトも全ておさまり、幸治君が作ってくれたサンドイッチと梨まで食べた。



お腹がいっぱいになった身体をレジャーシートに倒し、桜が楽しそうに幸治君の後ろをついていく光景をブタネコ之助を抱き締めながら眺める。



「お~!!ちゃんとついてくる!!」



嬉しそうな顔で桜のことを振り向き幸治君が笑うと、桜が立ち止まり長い草を可愛い手でチョンチョンと触り遊び始めた。



幸治君は桜の隣にしゃがみ、何でか神妙な顔で口を開いた。



「桜、お前そろそろ去勢されちゃうんだぞ。」



「何の話かと思ったらそのお話かぁ。」



「いや、何も笑い事ではないので。
俺が手術に連れて行きましょうか?」



「私が連れていくよ。
幸治君にお願いをしたら去勢手術をしないで帰ってきそうだもん。」



「・・・本当に去勢手術するんですか?」



「それについては何度もお話したけど、発情期の本能的な行動が出来ないことは桜にとって凄くストレスになるし、去勢手術をすることで病気の予防を行うことも出来るんだよ?」



「はい・・・。」



幸治君が静かに返事をし、それから大きく項垂れた。



「人間としては・・・飼い主である親としては、それが正解ですよね。」



「人間である私のエゴを押し付けてるかな?」



「押し付けまくりですよね。
だって桜は絶対に玉を取りたくないに決まってるじゃん。」



「それはそうだろうけどさぁ~。」



「いつだって子どもは親の都合を押し付けられるんだよ。
子どもにだって子どもなりの主張があるのに、子どもだから親に従うしかないことばっかりで。」



「うん・・・。」



私の為に離婚をしたお父さんとお母さんのことを思いながらそれには同意した。



「玉を残しておくことはそんなに“いけないコト”なんですかね・・・。」



「“いけないコト”ではないだろうけど、残しておくと桜が可哀想なことになるから。」



「一美さんにとっては桜が可哀想に見えるかもしれないけど、桜にとってはそれが可哀想なことじゃないかもしれない。」



「そうかもしれないけど、でも・・・でも、桜は喋れないから分からないよ。」



そう吐き出した私に桜は跳ねるように私の所に走ってきて、私の身体に自分の身体を擦りつけてくる。



「この話で一美さんと揉めると必ず桜が止めに入りますよね。」



「ね、凄く優しい子。」



横になっている私のお腹を鼻でクンクンと嗅いできた桜の頭を優しく撫でる。



「桜はどうしたい?
タマタマ取るの嫌?」



「“嫌だよ~”」



「もぉ~!桜に聞いてるの!!」



「聞かなくてもちょっと想像すれば余裕で分かるじゃん!!!」



「もぉ・・・っ、“パパ”なんて知らない!!
桜、シャボン玉しよう!!」



ゆっくりと起き上がり、幸治君が松戸先生から貰ってきたシャボン玉の容器を開けた。



それから・・・



まだ戻ってこない幸治君のことをチラッと見た。



「これって・・・ここにこれを入れて、フーッてするだけだよね?」



記憶にある限り初めてするシャボン玉の遊び方について幸治君に聞くと、幸治君はバカにすることなく優しい顔で笑いすぐに戻ってきてくれた。



そして私の隣に座り私の手からシャボン玉の容器と吹き口を受け取ると、シャボン玉の容器に吹き口を入れてからゆっくりと吹き口をまた取り出し・・・



吹き口に唇を付けフッ────────...と、息を吐いた。



そしたら、吹き口からは虹色に輝くシャボン玉が次から次へと出てきて・・・。



「綺麗・・・。」



呟いた私に幸治君は「はい。」と言って私にシャボン玉の容器と吹き口を渡してくれた。



「間接キスですけど。」



改めて言われると何だか“いけない響き”に感じてしまい、顔が熱くなりながらもシャボン玉を受け取った。



そして私も・・・



幸治君の唇がついていた吹き口に唇をつけ、フッ──────...と息を吐き出した。



そしたら・・・



虹色にキラキラと光る沢山の丸が、この風に乗って、あの空に向かって、輝きながら遠くへと流れていく。



どこまでも流れていく。



なかなか消えることなく流れていく。



自然に流れてきた涙を拭うことなく、雲1つない青い空を見上げた。



「幸治君、大好き・・・。」



私が吐き出したシャボン玉が青空の中に浮かんでいる。



「幸治君、ありがとう。」



光り輝く沢山のシャボン玉の中に、再会してからの幸治君との沢山の思い出が入っているかのように見えた。



そのどれもが綺麗に輝いていて。



凄く凄く幸せな輝きで・・・。



そして、次々に消えていった。



長いようで、なのに一瞬にも感じてしまうような短さで、消えてなくなってしまった。



「今日が私達の最後の日・・・。」



あんなに綺麗だと思っていた雲1つない青空が、今はこんなに切ない空に見えた。
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