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「あの人は?」
「私が言った嫌味に何も言わずに行っちゃったよ?」
向こう側に見える男の子2人に手を振りながら答えると、男の子2人も大きく手を振ってくれた。
「あの人は体調が良くない人にも優しいんですよね。」
「みんなに優しくすれば良いのに。」
「みんなに大人の笑顔を振り撒きながら一応優しくしてるじゃないですか。」
私の隣に戻ってきた幸治君がお弁当箱の蓋を開けた。
そこからは美味しそうなハムとキュウリのサンドイッチが出て来て。
「あの人は“お父さん”と“お母さん”から育てられていないので、“お父さん”と“お母さん”が悪く言われない為に昔から外面だけは良かったらしい。」
「そうなんだ・・・。」
私にもすっかり外面ではなくなっている松戸先生の意地悪な顔を思い浮かべ、ビニール袋からハンバーガーを取り出した。
「お父さんとお母さんから育てて貰えないと、“何か”が足りないような子になるのかな・・・。」
丸いハンバーガーを見下ろしながら呟くと、幸治君が私の手を優しく自分の口元へと引き・・・
私が持っていたハンバーガーをパクッと食べた。
「これ一美さん本当に食べられる?」
心配そうな顔で聞いてくる幸治君の口元にはハンバーガーのソースが少しだけついていて、そのソースを指で拭ってから舐めてみた。
「濃いお味だね。」
「うん、俺食べようか?
ハンバーガーとか食べたことないですよね?」
「うん、初めて食べる。」
この分厚いハンバーガーをどうやって食べるのか。
大きな口を開けたとしても私の口の中に入るのか。
初めて食べるハンバーガーを戸惑いながら見下ろし続ける。
「みんな何かしら足りてないんだと思いますよ。」
幸治君がそんなことを言って、お弁当箱に入っていたサンドイッチをパクッと食べた。
「俺は料理人でしたけどサンドイッチなんて作ったことがなかったし。」
「うん・・・。」
「一美さんは両親が揃っているけどハンバーガーを食べたことがないし。」
「うん・・・。」
「俺は“普通”以下の男子高校生だったけど、大人だったお嬢様の“羽鳥さん”が知らないことを沢山知ってた。」
「うん・・・。」
「色んな人と出会ってきたと思ってた俺でも、ここまで生粋の本物のお嬢様と出会ったことはなくて。」
「うん・・・。」
「みんな“何か”足りていない物があるんだと思います。
俺は、“パパ”では足りない“お父さん”がいて、どんなに頑張っても足りない“お金”の存在もあって、“普通”になれないうちの“家”がきっと嫌だった。」
初めて聞くその話には、ハンバーガーから視線を移し幸治君の横顔を見る。
「“普通”以下の男子高校生の自分がきっと嫌だった。」
「そっか・・・。」
「本当は、凄く凄く嫌だったんだと思う。」
「うん・・・。」
「だから、どこかの財閥のお嬢様である“羽鳥さん”が、俺のことをあんなに深く大好きだと思ってくれていたその気持ちに、すごく救われたんだと思います。」
幸治君が吐き出してくれた言葉に深く頷くと、幸治君が照れたように笑った。
「高くて美味しい物なんて死ぬほど食べているだろうし、須崎さんみたいな男とだって死ぬほど出会っているはずなのに、1杯650円の俺の醤油ラーメンを本当に美味しそうに食べて、“普通”以下の俺に会う為に毎週末あの扉を開けて来てくれて・・・」
幸治君が言葉を切って、雲1つない空を見上げた。
「俺に足りていない物が沢山あったからこそ、俺は“羽鳥さん”のことが凄く好きになったと思う。」
“私だってきっとそうだよ。”
泣きすぎてその言葉は吐き出せなかったけれど、泣きながら両手に持っていた初めて食べるハンバーガーをこの口に入れた。
大きな大きな口を開けて。
お嬢様がしては“いけない口”をして。
それくらい口を大きく開けて食べたハンバーガーの味は凄く濃くて。
なのに、その味に食欲をそそられて・・・。
気持ち悪くて何も食欲がないはずの私の身体も心も何でかこんなにも満たされて・・・。
「美味しい・・・。」
泣きながらも小さく吐き出した私に、幸治君は大きく頷きながら私のことを見た。
「そのハンバーガー、結構有名なハンバーガーですからね。
“ゆきのうえ商店街”のハンバーガーですよ?」
そう言われ・・・
「そっか・・・これがあそこのハンバーガーなんだ・・・。」
永家不動産で働いていた時だけではなく、“Koseki”のお店のことで何度も何度も見掛けたはずのハンバーガー屋さん。
譲社長と譲社長の幼馴染みが手掛けたハンバーガー屋さんはいつ見掛けても大盛況で。
「初めて食べたよ・・・。」
「うん、俺は一美さんのそういう所も好きですよ。」
幸せそうな顔で笑う幸治君が私の口元を指先で拭ってくれた。
「“何か”が足りていない所がある一美さんのことも、俺は大好きです。」
「私が言った嫌味に何も言わずに行っちゃったよ?」
向こう側に見える男の子2人に手を振りながら答えると、男の子2人も大きく手を振ってくれた。
「あの人は体調が良くない人にも優しいんですよね。」
「みんなに優しくすれば良いのに。」
「みんなに大人の笑顔を振り撒きながら一応優しくしてるじゃないですか。」
私の隣に戻ってきた幸治君がお弁当箱の蓋を開けた。
そこからは美味しそうなハムとキュウリのサンドイッチが出て来て。
「あの人は“お父さん”と“お母さん”から育てられていないので、“お父さん”と“お母さん”が悪く言われない為に昔から外面だけは良かったらしい。」
「そうなんだ・・・。」
私にもすっかり外面ではなくなっている松戸先生の意地悪な顔を思い浮かべ、ビニール袋からハンバーガーを取り出した。
「お父さんとお母さんから育てて貰えないと、“何か”が足りないような子になるのかな・・・。」
丸いハンバーガーを見下ろしながら呟くと、幸治君が私の手を優しく自分の口元へと引き・・・
私が持っていたハンバーガーをパクッと食べた。
「これ一美さん本当に食べられる?」
心配そうな顔で聞いてくる幸治君の口元にはハンバーガーのソースが少しだけついていて、そのソースを指で拭ってから舐めてみた。
「濃いお味だね。」
「うん、俺食べようか?
ハンバーガーとか食べたことないですよね?」
「うん、初めて食べる。」
この分厚いハンバーガーをどうやって食べるのか。
大きな口を開けたとしても私の口の中に入るのか。
初めて食べるハンバーガーを戸惑いながら見下ろし続ける。
「みんな何かしら足りてないんだと思いますよ。」
幸治君がそんなことを言って、お弁当箱に入っていたサンドイッチをパクッと食べた。
「俺は料理人でしたけどサンドイッチなんて作ったことがなかったし。」
「うん・・・。」
「一美さんは両親が揃っているけどハンバーガーを食べたことがないし。」
「うん・・・。」
「俺は“普通”以下の男子高校生だったけど、大人だったお嬢様の“羽鳥さん”が知らないことを沢山知ってた。」
「うん・・・。」
「色んな人と出会ってきたと思ってた俺でも、ここまで生粋の本物のお嬢様と出会ったことはなくて。」
「うん・・・。」
「みんな“何か”足りていない物があるんだと思います。
俺は、“パパ”では足りない“お父さん”がいて、どんなに頑張っても足りない“お金”の存在もあって、“普通”になれないうちの“家”がきっと嫌だった。」
初めて聞くその話には、ハンバーガーから視線を移し幸治君の横顔を見る。
「“普通”以下の男子高校生の自分がきっと嫌だった。」
「そっか・・・。」
「本当は、凄く凄く嫌だったんだと思う。」
「うん・・・。」
「だから、どこかの財閥のお嬢様である“羽鳥さん”が、俺のことをあんなに深く大好きだと思ってくれていたその気持ちに、すごく救われたんだと思います。」
幸治君が吐き出してくれた言葉に深く頷くと、幸治君が照れたように笑った。
「高くて美味しい物なんて死ぬほど食べているだろうし、須崎さんみたいな男とだって死ぬほど出会っているはずなのに、1杯650円の俺の醤油ラーメンを本当に美味しそうに食べて、“普通”以下の俺に会う為に毎週末あの扉を開けて来てくれて・・・」
幸治君が言葉を切って、雲1つない空を見上げた。
「俺に足りていない物が沢山あったからこそ、俺は“羽鳥さん”のことが凄く好きになったと思う。」
“私だってきっとそうだよ。”
泣きすぎてその言葉は吐き出せなかったけれど、泣きながら両手に持っていた初めて食べるハンバーガーをこの口に入れた。
大きな大きな口を開けて。
お嬢様がしては“いけない口”をして。
それくらい口を大きく開けて食べたハンバーガーの味は凄く濃くて。
なのに、その味に食欲をそそられて・・・。
気持ち悪くて何も食欲がないはずの私の身体も心も何でかこんなにも満たされて・・・。
「美味しい・・・。」
泣きながらも小さく吐き出した私に、幸治君は大きく頷きながら私のことを見た。
「そのハンバーガー、結構有名なハンバーガーですからね。
“ゆきのうえ商店街”のハンバーガーですよ?」
そう言われ・・・
「そっか・・・これがあそこのハンバーガーなんだ・・・。」
永家不動産で働いていた時だけではなく、“Koseki”のお店のことで何度も何度も見掛けたはずのハンバーガー屋さん。
譲社長と譲社長の幼馴染みが手掛けたハンバーガー屋さんはいつ見掛けても大盛況で。
「初めて食べたよ・・・。」
「うん、俺は一美さんのそういう所も好きですよ。」
幸せそうな顔で笑う幸治君が私の口元を指先で拭ってくれた。
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