【R18・完】お嬢様は“いけないコト”がしたい

Bu-cha

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その日の夜



私の部屋のベッドに横になっていた私の耳に、幸治君が帰って来た音が聞こえた。
それを確認しブタネコ之助と桜をベッドに残したまま、私はリビングへと向かってしっかりと歩く。



「お帰りなさい。」



ネクタイを緩めながら冷蔵庫の扉を開けていた幸治君が、私のことを見て少し驚いた顔になった後、優しく笑って「ただいま。」と返す。
昨日までは幸治君が帰って来ても私は部屋から出ることも出来なくなっていた。



「今日は生姜焼きだ、美味しそう。」



嬉しそうな顔で笑う幸治君が電子レンジに生姜焼きを入れ、私のことを見ることなく笑顔で口を開く。



「松戸から聞きました。
体調が悪かったみたいですね。
俺のご飯とか作らなくて大丈夫ですし、洗濯も掃除も俺がやるので、一美さんはゆっくりしてくださいね。」



動いている電子レンジを眺めながら幸治君が続ける。



「病院に行きましたか?」



松戸先生からどこまで聞いているか分からない。
そもそも、松戸先生が“どこまで分かる人”なのか分からない。



だから幸治君が私のお腹に赤ちゃんがいるということまで知っているかは分からない。



そのことは知らないかもしれない。



でも、知っているのかもしれない。



それを確認することも確認したいとも思わない。



私がするべきことはそれではなくて。



私がしなくてはいけないことはそんなことではなくて。



何も言わない私のことを幸治君はゆっくりと見てきた。



凄く真剣な顔で見てきた。



そんな幸治君に向かって私は“普通”の笑顔で言った。



「今回の生理が重いみたいで、それで具合が悪いだけだから大丈夫。」



そんな嘘を吐き出した。



幸治君のことを守る為、そして何よりも私のお腹の中にいる赤ちゃんのことを守る為に、私は嘘をつく。



「そっか。」



優しい顔で笑った幸治君は電子レンジから生姜焼きを取り出す。
そしたらキッチンの中に生姜焼きの匂いが一気に充満する・・・。
それには気持ち悪くなるだけで吐き出してしまう程ではない。



つわりが酷くないことに安心し、他のお皿も電子レンジに入れていく幸治君に笑顔を貼り付けながらまた吐き出した。



「明日の定時後、不動産会社に行ってくる。」



私の言葉にまた私のことを見た幸治君に、笑顔のまま続ける。



「“いけないコト”をするのはお仕舞い。」



私のことをジッと見詰める幸治君に笑い続ける。



「1年以上も私の“いけないコト”に付き合ってくれてありがとう。」



何も言わない幸治君に吐き出し続ける。



「ブタネコ之助と桜は私が引き取るから。」



「いや、俺が・・・と言いたいところだけど、これから仕事がめちゃくちゃ忙しくなるからお願い出来ますか?」



幸治君は私が吐き出していく言葉を受け取り続けていく。
反論も抵抗も説得もしてくることはない。
それには安心し、でも少しだけ寂しくもなり・・・。



“松戸先生は“そこまで”は分からないんだな。”



私が妊娠していると分かっていたら、幸治君はきっと私の吐き出した言葉を受け取らないはずで。



「明日の定時後に不動産会社に行ってくるから。」



「分かりました。」



「・・・分かってくれるんだ。」



「はい、すぐに迎えに行くので。」



寂しくなってしまった私に幸治君がそんな言葉を渡してくれて・・・。



それには慌てて首を横に振る。



「あっごめんね・・・、迎えに来てくれなくて良いの・・・っ。
もう、お仕舞いで・・・もう、これが“最後”で良いの・・・っ。」



必死に笑顔でいたけれど、この目からは涙が溢れてしまった。



私の涙に引き寄せられたように幸治君の両手が伸びてきて、私の頬を包み込んでくれた。



「絶対に迎えに行くので待っててください。」



「ダメだよ・・・来ちゃダメ・・・。
これ以上はダメ・・・。
幸治君のことを“可哀想”にしたくない・・・。
私・・・私は、幸治君のことが好きで・・・本当に大好きで・・・。」



幸治君の胸に勢いよく抱き付いた。



「絶対に幸せになって貰いたいの・・・っ。
昔からずっとそれを願っていたの・・・っ。
だからこれ以上は私と一緒にいたらダメなの・・・っ。」



「俺の幸せを一美さんが勝手に決めないでください。」



幸治君が優しく私のことを抱き締めてくれる。



「受け取って、幸治君・・・。
お願い、受け取って・・・。」



私がしてしまった“いけないコト”により、私の両親からだけではなく財閥の分家達からもこの先の道を荒らされてしまう。



そこに幸治君のことを連れてはいけない。



こんなに若くてこんなに良い子な幸治君のことを“可哀想”になんてしたくない。



「私のことは忘れて、ちゃんと幸せになって・・・。」



幸治君は何も言わず、私のことを優しく抱き締め続けた。
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