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8月24日
「そんなに睨まないでください。」
今月の松戸先生の訪問、いつもの会議室の中で松戸先生が私の方を見ることなく言ってきた。
「睨んでいません。」
私の言葉に松戸先生はチラッと私のことを確認し、不機嫌な顔で口を開いた。
「何の嘘だよ、面倒な女だな。」
「面倒なのは松戸先生も同じです。
従妹が元気君と結婚しただけなのに幸治君のことを呼び出すなんて。」
「アンタの32の誕生日までに幸治がここの担当になれなかったからって俺に当たるんじゃねーよ。
責めるならあんなに若い男を好きになった自分を責めるんだな。」
「そんなことはしませんよ・・・。」
膝の上で両手を強く強く握り締める。
「成人している子ですし、私はいけないコトをしたとは思っていません。
この気持ちがいけないコトだとは思いたくもありません。」
7歳や8歳どころか9歳も下の福富さんのことを好きになった松戸先生に真っ直ぐと答える。
「誰かを好きになって、その人と結ばれたいと思うことはいけないコトではないですよね?
その人と・・・結ばれたかったと思うことはいけないコトではないはずです。」
「あと1日あるのにアンタはもう過去形かよ。
あいつは夏季休暇も取らずに今日も早朝から頑張って仕事してるのにな。」
「あと1日ありますね・・・。
そのお言葉、期待してしまいますよ・・・?」
「あ、それはナシ。
あと1日で俺と同等かそれ以上になれるわけねーだろ。」
「・・・酷い。
それなら期待しちゃうような言葉を言わないでください。」
「ここ最近アンタの周りの人間達が煩くて迷惑してるんだよ。」
松戸先生が資料から目を離すことなく続ける。
「ここの社長も譲社長の方も、元気も・・・あとはあいつもな、俺と同じアパートに住んでたあの良い子。」
「和希・・・?」
「挨拶くらいしかしたことがなかったけどな、あんなに小さな子が1人で暮らしてる感じで、なのにいつもニコニコしてて良い子だなと思ってたんだよ。
それが、この前うちの事務所に来たと思ったらクソうるせー男だった。
しかもあの見た目で32とか。」
「和希、動いてくれたんだ・・・。」
社長達が動いてくれていたことよりもそのことに何でか泣きそうになった時、松戸先生が小さく笑った。
「誰に何を言われてもまだ時期じゃねーよ。
譲社長が最初に言い出したことだからな。
俺と同等かそれ以上の奴じゃなければここの担当にはさせない。」
「本当は、私のことが嫌いだからですか・・・?
幸治君の相手として私ではダメだから・・・?」
聞いた私に松戸先生は意地悪な顔で笑った。
「何でも自分の思い通りになると思うなよ、お嬢様。」
「そんなことは思ったこともありません・・・っ」
「皆が皆、自分に好意を持つなんて自惚れるな。
社長になったんだろ、これから顔も出ていく。
そうなると攻撃してくる奴なんて死ぬほどいる。」
「自惚れてもいませんし、そんなことは分かっています・・・っ」
「分かってねーよ。」
鋭く光るような目で松戸先生が私のことを睨んできた。
「アンタは何も分かってない。
俺はアンタが誰にどう攻撃されようがどうでも良いけどな、その時にアンタの隣に幸治がいてみろ、可哀想だろ。」
本当に光っているような目で私のことを睨んでいる。
「俺の両親は小児外科医だからな、俺は可哀想な子を見るのが大嫌いなんだよ。
あんなに良い子が可哀想な子になるのを俺は見たくない。」
「幸治君は・・・私と一緒になれなかったら・・・可哀想な子になるかもしれないのに・・・。」
「長い人生の中で一瞬な。
あいつはまだまだ若い、女なんて腐るほどこの世界にいる。」
その言葉に、涙を必死に我慢しながら吐き出した。
「男だってこの世界に腐るほどいますから。」
ピクリと小さく反応した松戸先生に大きく吐き出した。
「松戸先生よりも若くて優しくて良い男だって、この世界に腐るほどいますから。」
涙を溜めた目で必死に吐き出した。
「うちの会社にだって沢山いますから。」
福富さんのことを囲う沢山の男性社員のことを思い浮かべながら吐き出すと、松戸先生が小さく笑いながらノートパソコンに視線を戻した。
「もう8月も終わるな。」
小さく呟いた松戸先生の言葉に、私も小さく頷いた。
“終わってしまう”と思いながら。
この楽しくて幸せだった1年が終わってしまう。
私の人生の中で一瞬だけあった、楽しくて幸せしかなかった1年。
夢のような1年が、本当に夢のように終わりを迎える。
「そんなに睨まないでください。」
今月の松戸先生の訪問、いつもの会議室の中で松戸先生が私の方を見ることなく言ってきた。
「睨んでいません。」
私の言葉に松戸先生はチラッと私のことを確認し、不機嫌な顔で口を開いた。
「何の嘘だよ、面倒な女だな。」
「面倒なのは松戸先生も同じです。
従妹が元気君と結婚しただけなのに幸治君のことを呼び出すなんて。」
「アンタの32の誕生日までに幸治がここの担当になれなかったからって俺に当たるんじゃねーよ。
責めるならあんなに若い男を好きになった自分を責めるんだな。」
「そんなことはしませんよ・・・。」
膝の上で両手を強く強く握り締める。
「成人している子ですし、私はいけないコトをしたとは思っていません。
この気持ちがいけないコトだとは思いたくもありません。」
7歳や8歳どころか9歳も下の福富さんのことを好きになった松戸先生に真っ直ぐと答える。
「誰かを好きになって、その人と結ばれたいと思うことはいけないコトではないですよね?
その人と・・・結ばれたかったと思うことはいけないコトではないはずです。」
「あと1日あるのにアンタはもう過去形かよ。
あいつは夏季休暇も取らずに今日も早朝から頑張って仕事してるのにな。」
「あと1日ありますね・・・。
そのお言葉、期待してしまいますよ・・・?」
「あ、それはナシ。
あと1日で俺と同等かそれ以上になれるわけねーだろ。」
「・・・酷い。
それなら期待しちゃうような言葉を言わないでください。」
「ここ最近アンタの周りの人間達が煩くて迷惑してるんだよ。」
松戸先生が資料から目を離すことなく続ける。
「ここの社長も譲社長の方も、元気も・・・あとはあいつもな、俺と同じアパートに住んでたあの良い子。」
「和希・・・?」
「挨拶くらいしかしたことがなかったけどな、あんなに小さな子が1人で暮らしてる感じで、なのにいつもニコニコしてて良い子だなと思ってたんだよ。
それが、この前うちの事務所に来たと思ったらクソうるせー男だった。
しかもあの見た目で32とか。」
「和希、動いてくれたんだ・・・。」
社長達が動いてくれていたことよりもそのことに何でか泣きそうになった時、松戸先生が小さく笑った。
「誰に何を言われてもまだ時期じゃねーよ。
譲社長が最初に言い出したことだからな。
俺と同等かそれ以上の奴じゃなければここの担当にはさせない。」
「本当は、私のことが嫌いだからですか・・・?
幸治君の相手として私ではダメだから・・・?」
聞いた私に松戸先生は意地悪な顔で笑った。
「何でも自分の思い通りになると思うなよ、お嬢様。」
「そんなことは思ったこともありません・・・っ」
「皆が皆、自分に好意を持つなんて自惚れるな。
社長になったんだろ、これから顔も出ていく。
そうなると攻撃してくる奴なんて死ぬほどいる。」
「自惚れてもいませんし、そんなことは分かっています・・・っ」
「分かってねーよ。」
鋭く光るような目で松戸先生が私のことを睨んできた。
「アンタは何も分かってない。
俺はアンタが誰にどう攻撃されようがどうでも良いけどな、その時にアンタの隣に幸治がいてみろ、可哀想だろ。」
本当に光っているような目で私のことを睨んでいる。
「俺の両親は小児外科医だからな、俺は可哀想な子を見るのが大嫌いなんだよ。
あんなに良い子が可哀想な子になるのを俺は見たくない。」
「幸治君は・・・私と一緒になれなかったら・・・可哀想な子になるかもしれないのに・・・。」
「長い人生の中で一瞬な。
あいつはまだまだ若い、女なんて腐るほどこの世界にいる。」
その言葉に、涙を必死に我慢しながら吐き出した。
「男だってこの世界に腐るほどいますから。」
ピクリと小さく反応した松戸先生に大きく吐き出した。
「松戸先生よりも若くて優しくて良い男だって、この世界に腐るほどいますから。」
涙を溜めた目で必死に吐き出した。
「うちの会社にだって沢山いますから。」
福富さんのことを囲う沢山の男性社員のことを思い浮かべながら吐き出すと、松戸先生が小さく笑いながらノートパソコンに視線を戻した。
「もう8月も終わるな。」
小さく呟いた松戸先生の言葉に、私も小さく頷いた。
“終わってしまう”と思いながら。
この楽しくて幸せだった1年が終わってしまう。
私の人生の中で一瞬だけあった、楽しくて幸せしかなかった1年。
夢のような1年が、本当に夢のように終わりを迎える。
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