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約1時間後
あれから幸治君と私の周りには多くの人達が集まった。
私は“羽鳥一美”という人間以前に増田財閥の人間。
増田財閥では前会長が辞任した後、こういった公の場に社長も譲社長も元気君も出席はしていない。
増田財閥の人間は常に“不在”だった中、増田財閥の分家の人間である私が現れた。
それも今話題となっている新事業、“Koseki”の代表取締役として。
私も営業活動をするつもりでこの場に来たけれど、他の人達だって私に“顔”を売っておきたいということは痛い程分かる。
みんなの笑顔や優しい言葉、それらが“ただの”笑顔と優しい言葉だと思うには、私はもう良い歳になりすぎたから。
私は知っている。
この人達は私の向こう側に増田財閥のトップを・・・現社長や譲社長のことを見ていると知っている。
それが分かったうえで私も笑顔で社交を続けていく。
私の隣に幸治君を並べて続けていく。
多くの人が私よりも幸治君に対して明らかに“素”の姿を出してしまっているのにも気付きながら。
それが良いのか悪いのかは別として、これも1つの判断材料だと思いながら名刺交換を繰り返していく。
さっき一夜さんが吐き出した言葉のことは一旦頭の隅に無理矢理置き、この場の中心に立ち続ける。
私の後ろにそびえ立つ、増田財閥という存在の大きさを改めて実感しながら。
“疲れた”
笑顔と優しい言葉の裏にある、みんなの強すぎる“気持ち”に“疲れた”と思った、その時・・・
この大きな会場の中で、ひときわ大きな笑い声が響いた。
あまりにも楽しそうな男の人の笑い声。
“本当”に笑っているその声には思わずその笑い声の主を探した。
その途中で私と同じように笑い声の主を探している多くの人達の顔が見えた。
そんな中から、見えた。
多くの人達の視線の先に、見えた。
元気君の姿が・・・。
この場にティーシャツとハーフパンツ、サンダルという出で立ちの元気君の姿が・・・。
フミちゃんの旦那さんがこの会社の後継者だと宣言されても尚その存在は大きい、さっきまではいなかった“皇子”の隣に立ち、“大きく笑う”どころか爆笑しまくっている元気君の姿があった。
“皇子”と元気君の存在に気付いた多くの人達が口を閉じた。
それにより会場内には更に元気君の爆笑の声が響き・・・
元気君が爆笑しながらもパッとこちらを見た。
そして、私の姿を確認するとまた大きく笑って・・・
「羽鳥社長!!
こういう場がよく合うな!!
やっぱり本物のお嬢様は違う!!!!」
そんなことを言ってまた爆笑し、私に向かって真っ直ぐと歩いてきた。
元気君が増田財閥の本家の次男だと認識出来ている人達がいるのかは分からないけれど、元気君が歩くとその場にいた人達が左右に分かれていき、私の元へ歩く元気君の“道”が自然と生まれた。
その光景を眺め、私は自然と笑顔になった。
社長や譲社長だけではないと、そう思って。
元気君だって歩ける。
どんな道だって歩ける。
海を越えた場所でその身体とその足でしっかりと歩き、また日本に戻ってきた。
また戻ってきた・・・。
今、増田財閥には“本当”のトップはいない。
社長も譲社長も増田財閥の“本当”のトップでいるつもりはない。
あの2人は増田財閥のことをとても憎んでいて、増田財閥なんてどうなっても良いと思っている2人。
だから・・・
“戻ってきた”。
増田財閥のことをどんなに憎んでいたとしても、それでも増田財閥のトップに立つという気持ちを抱いている本家の人間が。
“戻ってきている。”
何でか泣きそうになりながら、私は口を開いた。
大きく大きく開いた。
「彼は弊社の・・・増田ホールディングスの海外事業部の部長、増田元気です。」
私の元へ真っ直ぐと歩いてきた元気君に向かっても大きく大きく口を開いた。
「本日は海外出張から戻られる日でしたね。
出張お疲れ様でした、増田部長。
そして1日早いですが、取締役の就任おめでとうございます。」
何故ここに元気君が来たのか分からなかったけれど、明日付で取締役に就任する元気君に吐き出した。
そしたら元気君が“元気”な顔で笑い、持っていた封筒を私に・・・ではなく、まさかの幸治君に差し出してきた。
それには驚いていると・・・
「朝人さんから・・・松戸会計の所長さんから頼まれて持ってきました!!!
これ、このまま進めるようにって言ってました!!」
元気君が差し出してきた封筒を幸治君がお礼を言ってから受け取り、封筒の中身をチラッと覗いた。
そしたら、私にも見えてしまった。
真っ白な紙に書かれている手書きの字が。
“早く帰ってこい!!!”
と、書かれた文字。
松戸先生には言わないでここに来たと幸治君は言っていたずなのに何故か知られていて、それだけではなくこんな伝言を元気君に持たせてきた松戸先生。
それには笑顔を崩さないままで内心ムカムカとする。
す・・・・っっっごくムカムカとしていたら、封筒を手にしたままの幸治君がゆっくりと顔を上げ・・・
元気君のことを真っ直ぐと見た。
そして・・・
「ご結婚、おめでとうございます。」
元気君に向かってそんなことを言い出した。
あれから幸治君と私の周りには多くの人達が集まった。
私は“羽鳥一美”という人間以前に増田財閥の人間。
増田財閥では前会長が辞任した後、こういった公の場に社長も譲社長も元気君も出席はしていない。
増田財閥の人間は常に“不在”だった中、増田財閥の分家の人間である私が現れた。
それも今話題となっている新事業、“Koseki”の代表取締役として。
私も営業活動をするつもりでこの場に来たけれど、他の人達だって私に“顔”を売っておきたいということは痛い程分かる。
みんなの笑顔や優しい言葉、それらが“ただの”笑顔と優しい言葉だと思うには、私はもう良い歳になりすぎたから。
私は知っている。
この人達は私の向こう側に増田財閥のトップを・・・現社長や譲社長のことを見ていると知っている。
それが分かったうえで私も笑顔で社交を続けていく。
私の隣に幸治君を並べて続けていく。
多くの人が私よりも幸治君に対して明らかに“素”の姿を出してしまっているのにも気付きながら。
それが良いのか悪いのかは別として、これも1つの判断材料だと思いながら名刺交換を繰り返していく。
さっき一夜さんが吐き出した言葉のことは一旦頭の隅に無理矢理置き、この場の中心に立ち続ける。
私の後ろにそびえ立つ、増田財閥という存在の大きさを改めて実感しながら。
“疲れた”
笑顔と優しい言葉の裏にある、みんなの強すぎる“気持ち”に“疲れた”と思った、その時・・・
この大きな会場の中で、ひときわ大きな笑い声が響いた。
あまりにも楽しそうな男の人の笑い声。
“本当”に笑っているその声には思わずその笑い声の主を探した。
その途中で私と同じように笑い声の主を探している多くの人達の顔が見えた。
そんな中から、見えた。
多くの人達の視線の先に、見えた。
元気君の姿が・・・。
この場にティーシャツとハーフパンツ、サンダルという出で立ちの元気君の姿が・・・。
フミちゃんの旦那さんがこの会社の後継者だと宣言されても尚その存在は大きい、さっきまではいなかった“皇子”の隣に立ち、“大きく笑う”どころか爆笑しまくっている元気君の姿があった。
“皇子”と元気君の存在に気付いた多くの人達が口を閉じた。
それにより会場内には更に元気君の爆笑の声が響き・・・
元気君が爆笑しながらもパッとこちらを見た。
そして、私の姿を確認するとまた大きく笑って・・・
「羽鳥社長!!
こういう場がよく合うな!!
やっぱり本物のお嬢様は違う!!!!」
そんなことを言ってまた爆笑し、私に向かって真っ直ぐと歩いてきた。
元気君が増田財閥の本家の次男だと認識出来ている人達がいるのかは分からないけれど、元気君が歩くとその場にいた人達が左右に分かれていき、私の元へ歩く元気君の“道”が自然と生まれた。
その光景を眺め、私は自然と笑顔になった。
社長や譲社長だけではないと、そう思って。
元気君だって歩ける。
どんな道だって歩ける。
海を越えた場所でその身体とその足でしっかりと歩き、また日本に戻ってきた。
また戻ってきた・・・。
今、増田財閥には“本当”のトップはいない。
社長も譲社長も増田財閥の“本当”のトップでいるつもりはない。
あの2人は増田財閥のことをとても憎んでいて、増田財閥なんてどうなっても良いと思っている2人。
だから・・・
“戻ってきた”。
増田財閥のことをどんなに憎んでいたとしても、それでも増田財閥のトップに立つという気持ちを抱いている本家の人間が。
“戻ってきている。”
何でか泣きそうになりながら、私は口を開いた。
大きく大きく開いた。
「彼は弊社の・・・増田ホールディングスの海外事業部の部長、増田元気です。」
私の元へ真っ直ぐと歩いてきた元気君に向かっても大きく大きく口を開いた。
「本日は海外出張から戻られる日でしたね。
出張お疲れ様でした、増田部長。
そして1日早いですが、取締役の就任おめでとうございます。」
何故ここに元気君が来たのか分からなかったけれど、明日付で取締役に就任する元気君に吐き出した。
そしたら元気君が“元気”な顔で笑い、持っていた封筒を私に・・・ではなく、まさかの幸治君に差し出してきた。
それには驚いていると・・・
「朝人さんから・・・松戸会計の所長さんから頼まれて持ってきました!!!
これ、このまま進めるようにって言ってました!!」
元気君が差し出してきた封筒を幸治君がお礼を言ってから受け取り、封筒の中身をチラッと覗いた。
そしたら、私にも見えてしまった。
真っ白な紙に書かれている手書きの字が。
“早く帰ってこい!!!”
と、書かれた文字。
松戸先生には言わないでここに来たと幸治君は言っていたずなのに何故か知られていて、それだけではなくこんな伝言を元気君に持たせてきた松戸先生。
それには笑顔を崩さないままで内心ムカムカとする。
す・・・・っっっごくムカムカとしていたら、封筒を手にしたままの幸治君がゆっくりと顔を上げ・・・
元気君のことを真っ直ぐと見た。
そして・・・
「ご結婚、おめでとうございます。」
元気君に向かってそんなことを言い出した。
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