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ホテルの大きな会場、私の隣には爽やかな笑顔から一変、不機嫌な顔を隠すことなく立っている幸治君がいる。
ついさっきまで一緒にいた友達は子ども達や旦那さんと一緒にまた食べ物を取りに行っている。



「海ではごめんね?
幸治君のことを放置しちゃってた。」



夕方から始まったフミちゃんの旦那さんのホテルの創業300周年のパーティー。
ドレスアップする為に“女子”達は旦那さんや子ども達とは一旦別れ、つい数分前にやっと幸治君とも合流が出来ていた。



私がプレゼントをしたスーツを着て私が婚約指輪のお返しに渡した腕時計をつけている、不機嫌な顔の幸治君に謝った。



そしたら・・・



「そのドレス、どうしたの?
持参したドレスと違うやつじゃん。」



すご~・・・・・く、すごーーーーーーく怒っている顔と声でそう言われた。



その指摘に自分の姿を見下ろすと、“Hatori”の新作のドレスの1つを着ている私の身体がある。



「数年前、このホテルに“Hatori”が入ったんだよね。
みんなが“Hatori”に貢献するって言ってくれて一緒にお店に入って。
みんなが買う流れで私も買っちゃった。
似合ってない?」



聞いた私に幸治君は更に怒った顔になり・・・



「腕と背中と胸が出過ぎ・・・。」



そんなことを言われたけれど、そこまで怒られるほど出てはいなくて。



「夕方からのパーティーだしこういうデザインのドレスを着るのは結構普通だよ?
ほら、みんなも。」



他の友達の方を見たけれど幸治君は全然そっちを見てくれず、私のことを見下ろし続けながらまた口を開いた。



「その“みんな”の旦那が一美さんの話をめちゃくちゃしてましたから。」



「そうなの?」



「いつまでも裸でいて、それは言われるに決まってます。」



「だから、裸じゃないって。」



「あれはマジで裸と同じ。」



「もぉ~・・・。」



「“もぉ~”を言いたいのは俺ですから。」



幸治君がそう言って・・・



こんなに怒っているのに私の左手をソッと握り・・・



左手の薬指に指輪を優しくはめてくれた。



それも婚約指輪と結婚指輪の2つの指輪を。



「部屋から持ってきたの?」



「はい。」



「ここでつけてて大丈夫かな・・・。
ファッションリングじゃ通用しないしこのパーティーには色んな業界のトップの人達も多くいる。」



「だからです。」



幸治君が怒った顔ではなく真剣な顔で私のことを見詰める。



「もう時間が残されていないので、強引にでも事を進めていきましょう。」



「これは強引だね・・・。」



「うちの所長が俺のことを認めてくれるのを仕事をしながら待っているだけでは時間が全然足りないので。
俺も“いけないコト”をしたいので、付き合ってください。」



いつもは私の“いけないコト”に付き合ってくれている幸治君が力強い目をしながらも楽しそうに笑った。



「例えタイムリミットが来てしまったとしても、一美さんの相手が俺以外の誰かにされないように、俺は“いけないコト”がしたいです。」



「うん・・・。」



何でか泣きそうになりながらも頷いた。



「付き合うよ・・・。
幸治君の“いけないコト”に私も付き合う・・・。」



そう言ってから鞄の中から名刺入れを取り出した。



「だから幸治君も付き合って。
“Koseki”の代表取締役になったからにはここで営業活動をしていく。」



私が“Koseki”を立ち上げると知ったフミちゃんと旦那さんが声を掛けてくれた今回のパーティー。
ただの久しぶりの女子会では終わらせないつもりで来たけれど、私の営業活動以外にももう1つ大切な“いけないコト”が増えた。



幸治君の腕を右手で組み、会場の中心へと歩き始める。



いつものように高いヒールの靴で。



私は歩ける。



私は1人だって歩ける。



でも・・・



どんな私でも私のことを受け入れてくれる幸治君が、私の隣で一緒に歩いてくれていることがこんなにも安心する。



さっきまでは出来ないと友達に吐き出していた“いけないコト”、それが私1人ではなく幸治君と一緒なら出来る気がする。



どんな“いけないコト”でも出来ると思えてしまう。
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