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数日後 6月下旬
今月も松戸先生がうちの会社に訪問し、いつも通り私とも確認作業をしていく。
いつも通り・・・本当に、いつも通りの松戸先生。
爽やかな笑顔から始まり、元気君が出したお茶のことで文句を言い、私にもたまに本性を見せたやり取りをする。
そんな“普通”すぎる松戸先生には私の方が戸惑ってしまった。
だから、タイミングを見て私の方から松戸先生に口を開く。
「私、松戸先生の事務所で働いている安部さんとお付き合いというか何というか・・・一緒に暮らしておりまして。
安部さんが暮らしているあの部屋で私も生活をしているのにご挨拶が遅くなりまして申し訳ございませんでした。」
ノートパソコンから一切目を離さない松戸先生に緊張しながらも最後まで伝えた。
そしたら・・・
「まだあの部屋にいるのかよ、図々しい女だな。
あいつには早く追い出せって言ったのに聞いてない?」
サラッとそのことを言われ、私の方を見ることもしない松戸先生に頷く。
「聞きました。
私が安部さんの相手ではダメでしたか?」
「うん、全然ダメ。」
幸治君からとっくに聞いていたけれど、実際に松戸先生本人からハッキリとそう言われた。
「俺、羽鳥さんみたいな女嫌いなんだよ。」
「それは松戸先生の女性の好みのお話ですよね?」
「ほら、そういう所が無理。
文句があるならハッキリ言ってこいよ。」
「文句と言いますか、松戸先生が安部さんの相手についてまで口を出して来たことには苦笑いでした。」
「口を出しまくるに決まってるだろ、あいつ女関係ゼロの男だからな。
女なんて腐る程いるのにまさかの羽鳥さんっていう・・・。
羽鳥さんこそ何もあいつを選ぶことねーだろ。
自分に釣り合いそうな“そういう男”を選んでおけよ。」
幸治君から何度も聞いた松戸先生のこの言葉。
それを今日、松戸先生本人から聞き・・・
毎回幸治君に吐き出している言葉を松戸先生を目の前に吐き出した。
「松戸先生は福富さんみたいな女の子が好みですからね。
西城さんや福富さんのお顔と私の顔のタイプは違うので、松戸先生好みの女でなくて申し訳ありません。
それにしても、福富さんの見た目って松戸先生の従妹の国光さんにソックリですよね?
ご自身の従妹とソックリのお顔で9歳も年下の福富さんが好きとか、松戸先生は安部さんに女関係のことで口出しが出来る人なのか私には疑問です。」
吐き出すにつれてムカムカが増していく。
昔から私はこの人にムカムカとしていた。
“中華料理屋 安部”に酷いことばかり言っていたこの人に。
なのに“中華料理屋 安部”をお店の扉の外に簡単に連れ出してしまえたこの人に。
“中華料理屋 安部”を“公認会計士 安部”にしてみせたこの人に。
独占欲を隠すこともせず、言いたいことを言って渡したい物を渡すこの人のことが。
福富さんの名前が出た瞬間に私のことを真っ直ぐと見てきたこの人に吐き出す。
「私だって昔からアナタのことが嫌いでした。
幸治君に酷いことばっかり言って、嫌いどころか大嫌いでした。」
この人のことを話す幸治君の顔はいつだって生き生きとしていた。
良い話の時も悪い話の時も、どんな話でも幸治君の顔は輝いていた。
「私には出来ないことを・・・やろうとも思えないことを“普通”に出来てしまうアナタのことが大嫌いです。」
「俺だって昔からお前のことが大嫌いだった。」
松戸先生が私のことを“お前”と呼びまた“大嫌い”だと言う。
「あんなに良い子だった男子高校生の幸治のことを7歳も年上の女がもてあそぶとか、男と女が逆だったら即問題になるやつだからな?」
「もてあそんでなんていません。」
「もてあそんだだろ。
ラーメン1杯奢ることも出来ない幸治のことを、ハンカチ1枚渡すことも駅まで送ることも出来ない幸治のことを、お前もてあそんでたんだよ。」
「そんなことしてません・・・!!」
「そんなことをしてたんだよ、それについてはしっかりと認めて自覚をしておけ。
あいつは高校生だったんだぞ?
綺麗な見た目の年上の女が自分の所に毎週のように通って好きなのがバレバレな感じでいるとか、お前はもてあそんでたんだよ。
ガキのあいつがどうなるかくらい簡単に想像出来たはずだろ?」
松戸先生からそう指摘をされ・・・
私は苦しくなりながらも昔のことを思い出し、その時のことを必死に考える。
必死に必死に考えて、考えて、考えて・・・
出てきた答えは・・・
「そんなの、私には分からなかった・・・。
私は幸治君よりも7歳も8歳も年上だったけど分からなかった・・・。」
涙を流すことは“死ぬ気”で我慢をして吐き出す。
「私だってあの歳で男関係ゼロの女だったから、そんなの分からなかった・・・!!」
めちゃくちゃ意地悪な顔で私のことを見ている松戸先生に吐き出すと、松戸先生が満足そうに笑った。
「千寿子の名前を出して俺のことを苛めてこようとするとか100年はえーよ。」
「・・・私、やっぱりアナタのことが大嫌いなんですけど。」
「気が合うな。
俺もやっぱりお前のことが大嫌いだよ。」
.
今月も松戸先生がうちの会社に訪問し、いつも通り私とも確認作業をしていく。
いつも通り・・・本当に、いつも通りの松戸先生。
爽やかな笑顔から始まり、元気君が出したお茶のことで文句を言い、私にもたまに本性を見せたやり取りをする。
そんな“普通”すぎる松戸先生には私の方が戸惑ってしまった。
だから、タイミングを見て私の方から松戸先生に口を開く。
「私、松戸先生の事務所で働いている安部さんとお付き合いというか何というか・・・一緒に暮らしておりまして。
安部さんが暮らしているあの部屋で私も生活をしているのにご挨拶が遅くなりまして申し訳ございませんでした。」
ノートパソコンから一切目を離さない松戸先生に緊張しながらも最後まで伝えた。
そしたら・・・
「まだあの部屋にいるのかよ、図々しい女だな。
あいつには早く追い出せって言ったのに聞いてない?」
サラッとそのことを言われ、私の方を見ることもしない松戸先生に頷く。
「聞きました。
私が安部さんの相手ではダメでしたか?」
「うん、全然ダメ。」
幸治君からとっくに聞いていたけれど、実際に松戸先生本人からハッキリとそう言われた。
「俺、羽鳥さんみたいな女嫌いなんだよ。」
「それは松戸先生の女性の好みのお話ですよね?」
「ほら、そういう所が無理。
文句があるならハッキリ言ってこいよ。」
「文句と言いますか、松戸先生が安部さんの相手についてまで口を出して来たことには苦笑いでした。」
「口を出しまくるに決まってるだろ、あいつ女関係ゼロの男だからな。
女なんて腐る程いるのにまさかの羽鳥さんっていう・・・。
羽鳥さんこそ何もあいつを選ぶことねーだろ。
自分に釣り合いそうな“そういう男”を選んでおけよ。」
幸治君から何度も聞いた松戸先生のこの言葉。
それを今日、松戸先生本人から聞き・・・
毎回幸治君に吐き出している言葉を松戸先生を目の前に吐き出した。
「松戸先生は福富さんみたいな女の子が好みですからね。
西城さんや福富さんのお顔と私の顔のタイプは違うので、松戸先生好みの女でなくて申し訳ありません。
それにしても、福富さんの見た目って松戸先生の従妹の国光さんにソックリですよね?
ご自身の従妹とソックリのお顔で9歳も年下の福富さんが好きとか、松戸先生は安部さんに女関係のことで口出しが出来る人なのか私には疑問です。」
吐き出すにつれてムカムカが増していく。
昔から私はこの人にムカムカとしていた。
“中華料理屋 安部”に酷いことばかり言っていたこの人に。
なのに“中華料理屋 安部”をお店の扉の外に簡単に連れ出してしまえたこの人に。
“中華料理屋 安部”を“公認会計士 安部”にしてみせたこの人に。
独占欲を隠すこともせず、言いたいことを言って渡したい物を渡すこの人のことが。
福富さんの名前が出た瞬間に私のことを真っ直ぐと見てきたこの人に吐き出す。
「私だって昔からアナタのことが嫌いでした。
幸治君に酷いことばっかり言って、嫌いどころか大嫌いでした。」
この人のことを話す幸治君の顔はいつだって生き生きとしていた。
良い話の時も悪い話の時も、どんな話でも幸治君の顔は輝いていた。
「私には出来ないことを・・・やろうとも思えないことを“普通”に出来てしまうアナタのことが大嫌いです。」
「俺だって昔からお前のことが大嫌いだった。」
松戸先生が私のことを“お前”と呼びまた“大嫌い”だと言う。
「あんなに良い子だった男子高校生の幸治のことを7歳も年上の女がもてあそぶとか、男と女が逆だったら即問題になるやつだからな?」
「もてあそんでなんていません。」
「もてあそんだだろ。
ラーメン1杯奢ることも出来ない幸治のことを、ハンカチ1枚渡すことも駅まで送ることも出来ない幸治のことを、お前もてあそんでたんだよ。」
「そんなことしてません・・・!!」
「そんなことをしてたんだよ、それについてはしっかりと認めて自覚をしておけ。
あいつは高校生だったんだぞ?
綺麗な見た目の年上の女が自分の所に毎週のように通って好きなのがバレバレな感じでいるとか、お前はもてあそんでたんだよ。
ガキのあいつがどうなるかくらい簡単に想像出来たはずだろ?」
松戸先生からそう指摘をされ・・・
私は苦しくなりながらも昔のことを思い出し、その時のことを必死に考える。
必死に必死に考えて、考えて、考えて・・・
出てきた答えは・・・
「そんなの、私には分からなかった・・・。
私は幸治君よりも7歳も8歳も年上だったけど分からなかった・・・。」
涙を流すことは“死ぬ気”で我慢をして吐き出す。
「私だってあの歳で男関係ゼロの女だったから、そんなの分からなかった・・・!!」
めちゃくちゃ意地悪な顔で私のことを見ている松戸先生に吐き出すと、松戸先生が満足そうに笑った。
「千寿子の名前を出して俺のことを苛めてこようとするとか100年はえーよ。」
「・・・私、やっぱりアナタのことが大嫌いなんですけど。」
「気が合うな。
俺もやっぱりお前のことが大嫌いだよ。」
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