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“Hatori”のパーティードレスを着て、お洒落な街の中を引き出物の袋を片手に歩いていく。
履き慣れているはずの高いヒールの靴をフラフラと動かしながら。
幸治君から貰ったタオルハンカチで何度も何度も涙を拭いながら。
あれから、自分でも驚くほどに泣いた。
泣いても泣いても涙は止まらず、久しぶりにした濃い目のお化粧は全て流れ落ちた。
汚く落ちていたお化粧も流れ落ちるくらいに泣いた。
そして現在進行形で泣いている。
幸治君から貰ったタオルハンカチで涙を拭う度に目に入ってしまう自分の左手。
そこには仕事以外の日は必ずつけている結婚指輪の輝きがない。
増田財閥の分家の長男であるお兄ちゃんと、永家財閥の分家のお嬢様である貴子さん。
そんな2人が挙げる結婚式に、まだ正式な婚約者ではない幸治君から貰った結婚指輪を私はつけていくことが出来なかった。
そういう“いけないコト”は出来なかった。
それが綺麗で正しいことなのだと分かる。
私は間違っていないのだと分かる。
でも・・・
凄く“苦しい”と思ってしまう。
どうしても“苦しい”と思ってしまう。
お兄ちゃんと貴子さんの幸せな姿を見る度、思い出す度、やっぱり“苦しい”と思ってしまう。
こんなにも涙が止まらないくらいに思ってしまう。
何もついていない左手の薬指を、幸治君から貰ったタオルハンカチを唇につけながら眺めた。
いつしかこの両足は止まってしまったことに気付きながら。
両足が止まってしまっただけではない。
私の身体は今にもこの場にしゃがんでしまいそうになっている。
“何だか、もうダメかもしれない。”
何についてそう思ったのか自分でも分からないけれど、漠然とその言葉が浮かんだ。
浮かんできてしまった、その時・・・
「お姉さん、大丈夫ですか?
俺達、何かお手伝いしましょうか?」
いつか聞いた、そんな言葉が聞こえてきた・・・。
しゃがみこむのを止め、その声を元を辿る。
そしたら、いた。
幸治君と初めての旅行をする為に乗った新幹線で出会い、幸治君と初めてお花見が出来たキッカケとなった日に再会をした2人の男の子。
今日は何だか綺麗で大人っぽい格好をした男の子達がいた。
「また会いましたね、お姉さん!!」
「ドン引きするくらい泣いてるじゃないっすか!!」
「そこまで泣いてたら逆にナンパするの悩むやつ!!」
「そんなに感動した結婚式だったんですか?」
男の子達が今日もテンポ良く話し掛けてきて、それに答えたいという気持ちはあるのに何も言葉には出来ない。
次から次へと涙が流れてきて、この口から言葉がどうしても出てこない。
そんな私のことを凄く心配した顔で見る男の子達が、私の方へもう1歩近付こうとした。
そしたら、そのタイミングで・・・
私の背中にソッと大きな手が添えられた。
その手はスルッと私の腰を滑り、お腹の方まで回ってきたかと思ったら・・・
グッ──────...と引き寄せられ・・・
トンッとしっかりした何かが私の身体を受け止めた瞬間・・・
凄く好きな匂いがした。
凄く凄く安心する匂いがした。
「すみません、俺の妻でして・・・・・って、マジかよ、どんな確率だよ。」
私の大好きな匂いと声がして、幸治君が迎えにきてくれたと分かった。
披露宴が終わる前に私は家に電話を掛け、会場の最寄り駅まで迎えに来て欲しいと幸治君にお願いをしていた。
でも最寄り駅まではあと少し距離があるにも関わらず、幸治君は私のことを見付けて迎えに来てくれた。
履き慣れているはずの高いヒールの靴をフラフラと動かしながら。
幸治君から貰ったタオルハンカチで何度も何度も涙を拭いながら。
あれから、自分でも驚くほどに泣いた。
泣いても泣いても涙は止まらず、久しぶりにした濃い目のお化粧は全て流れ落ちた。
汚く落ちていたお化粧も流れ落ちるくらいに泣いた。
そして現在進行形で泣いている。
幸治君から貰ったタオルハンカチで涙を拭う度に目に入ってしまう自分の左手。
そこには仕事以外の日は必ずつけている結婚指輪の輝きがない。
増田財閥の分家の長男であるお兄ちゃんと、永家財閥の分家のお嬢様である貴子さん。
そんな2人が挙げる結婚式に、まだ正式な婚約者ではない幸治君から貰った結婚指輪を私はつけていくことが出来なかった。
そういう“いけないコト”は出来なかった。
それが綺麗で正しいことなのだと分かる。
私は間違っていないのだと分かる。
でも・・・
凄く“苦しい”と思ってしまう。
どうしても“苦しい”と思ってしまう。
お兄ちゃんと貴子さんの幸せな姿を見る度、思い出す度、やっぱり“苦しい”と思ってしまう。
こんなにも涙が止まらないくらいに思ってしまう。
何もついていない左手の薬指を、幸治君から貰ったタオルハンカチを唇につけながら眺めた。
いつしかこの両足は止まってしまったことに気付きながら。
両足が止まってしまっただけではない。
私の身体は今にもこの場にしゃがんでしまいそうになっている。
“何だか、もうダメかもしれない。”
何についてそう思ったのか自分でも分からないけれど、漠然とその言葉が浮かんだ。
浮かんできてしまった、その時・・・
「お姉さん、大丈夫ですか?
俺達、何かお手伝いしましょうか?」
いつか聞いた、そんな言葉が聞こえてきた・・・。
しゃがみこむのを止め、その声を元を辿る。
そしたら、いた。
幸治君と初めての旅行をする為に乗った新幹線で出会い、幸治君と初めてお花見が出来たキッカケとなった日に再会をした2人の男の子。
今日は何だか綺麗で大人っぽい格好をした男の子達がいた。
「また会いましたね、お姉さん!!」
「ドン引きするくらい泣いてるじゃないっすか!!」
「そこまで泣いてたら逆にナンパするの悩むやつ!!」
「そんなに感動した結婚式だったんですか?」
男の子達が今日もテンポ良く話し掛けてきて、それに答えたいという気持ちはあるのに何も言葉には出来ない。
次から次へと涙が流れてきて、この口から言葉がどうしても出てこない。
そんな私のことを凄く心配した顔で見る男の子達が、私の方へもう1歩近付こうとした。
そしたら、そのタイミングで・・・
私の背中にソッと大きな手が添えられた。
その手はスルッと私の腰を滑り、お腹の方まで回ってきたかと思ったら・・・
グッ──────...と引き寄せられ・・・
トンッとしっかりした何かが私の身体を受け止めた瞬間・・・
凄く好きな匂いがした。
凄く凄く安心する匂いがした。
「すみません、俺の妻でして・・・・・って、マジかよ、どんな確率だよ。」
私の大好きな匂いと声がして、幸治君が迎えにきてくれたと分かった。
披露宴が終わる前に私は家に電話を掛け、会場の最寄り駅まで迎えに来て欲しいと幸治君にお願いをしていた。
でも最寄り駅まではあと少し距離があるにも関わらず、幸治君は私のことを見付けて迎えに来てくれた。
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