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私のことを“ハンカチさん”と呼んでいた常連さん達がこの人の事務所で働いているのに。
譲社長と元気君とも繋がっているのに。
そして一夜さんのご両親ともお仕事で繋がっていて、一夜さんとも知り合いなはずなのに。
幸治君の家族とも仲が良く、福富さんとも仲が良い松戸先生。
それなのに松戸先生は何も知らない。
幸治君と私だってつい数日前に知った。
お互いの職場のことを。
それは、お互いが増田と永家の財閥の関係者だと思い込んでいた為に仕事に関することを口にしなかったことも勿論そうだけど、他に原因があるならこの人だと幸治君が言い切った。
その原因とは・・・
“福富さんに対する独占欲”。
松戸先生は、福富さんと再会したことは言ったらしいけれど、福富さんが働いている会社まで話していなかったらしい。
幸治君と福富さんがどうにかなってしまうことを昔から勝手に懸念していたそう。
私と福富さんが同じ職場だということを私から聞いた幸治君は、福富さんが永家ホールディングスで働いていると思っていた。
だから、増田財閥の顧問になっている松戸先生と福富さんとの仲を少し心配していたらしく、幸治君からも福富さんと永家財閥の話をイコールで出したことはなかったそう。
確かに、煩くて面倒でヤバい人なんだろうなと、そう思いながらもう1度吐き出してみる。
「松戸先生と同じくらいの方は、まだ事務所にいらっしゃらないんですか?」
「いないですねー。」
明らかに私との会話が面倒になっている様子を見せてきて、それには小さく笑った。
なんというか・・・、私にこういう態度を見せてくるのは和希と青さん、それと幸治君くんの他にこの人も加わった。
この人が昔幸治君に凄く酷いことを言っていたこともまた思い出し、ムカムカとしながら口を開く。
「下を育てるのも上に立つ者のお仕事だと思いますけどね。」
「おっしゃる通りですので、それをそのまま羽鳥さんにお返しします。」
「私にですか・・・?」
「福富さんも佐伯さんも、もっと出来る子達ですよね。
のんびり教育しすぎですね。」
私なりに考えながら教育をしているのにそんなことを言われ、それには少し深呼吸をしてから笑顔で答えた。
「おっしゃりたいことは分かります。
ただ、若い女の子達なので。
就業時間を越えてまでの業務を私は振るつもりがありません。
就業時間後はプライベートの時間を過ごして欲しいと思っています。
お仕事だけが人生ではないと私は思っていて、あの子達には“普通”の楽しい時間も過ごして欲しいと願っているので。」
松戸先生から絶対に反論されるかと思っていたのに、松戸先生はすぐに深く頷いた。
「良いことですね、定時で上がらせてください。」
それには驚いたけれど、思い出した。
この人は朝ご飯も夜ご飯も福富さんに作らせている。
私のレベルではこの人のことがいまいち掴めなくて、苦笑いをしながら頷いた。
“あの人には絶対に一美さんとのことは言いません。
福富と上手くいかないことにめちゃくちゃイライラしているので、俺の相手が一美さんだって知られたらすげー面倒そう。
それに俺はまだまだあの人の足元にも及ばないので。”
お父様の葬儀の夜、帰宅した幸治君が私に言ってきた話を思い出す。
“葬式の後に事務所に行ったら、あの人が俺の仕事をいくつかやっててくれてて。
それを見て痛いほど分かりました。
分かってはいたけど、改めて分かりました。
俺、まだまだ頑張らないと・・・。
マジで、本当に、死ぬ気で頑張らないと。
あの人は忖度なんて絶対にしない人だから、俺が本物の力をつけて増田財閥に関われる人間になります。”
私も頑固かもしれないけれど、幸治君も頑固なタイプで。
そして目の前にいるこの松戸先生も、きっと同じような人で。
煩くて面倒でヤバい人が3人。
「私にはそんなに時間は残されてないんだけどな・・・。」
女の身体にはどうしても時間が限られていることがある。
それを男の人に理解して貰うことは難しいのかもしれない。
「いや、でも自分は9歳も年下の福富さんをどうにかしようとして・・・。
本能的に若い女の子を求めてるじゃんね~!!」
きっと私や幸治君よりも煩くて面倒でヤバい松戸先生の悪口を、幸治君でも福富さんでもなく桜に吐き出しまくっていく。
幸治君の帰りは、きっと今日も遅い。
「“パパ”に会いたいね~・・・。」
私が作ったお弁当をお昼に食べ、“それで頑張れている”と言ってくれている幸治君。
「“ママ”と“子ども達”がいるから頑張れるんだって。」
布団の上で丸まった桜のことを優しく撫でる。
それから桜の隣にブタネコ之助を寝かせ、私は幸治君のベッドに横になった。
「寝る時は・・・“パパ”、一緒だからね・・・」
自分に言い聞かせるように吐き出し、瞳を閉じた。
*...*..・....*・....・*.....*
譲社長と元気君とも繋がっているのに。
そして一夜さんのご両親ともお仕事で繋がっていて、一夜さんとも知り合いなはずなのに。
幸治君の家族とも仲が良く、福富さんとも仲が良い松戸先生。
それなのに松戸先生は何も知らない。
幸治君と私だってつい数日前に知った。
お互いの職場のことを。
それは、お互いが増田と永家の財閥の関係者だと思い込んでいた為に仕事に関することを口にしなかったことも勿論そうだけど、他に原因があるならこの人だと幸治君が言い切った。
その原因とは・・・
“福富さんに対する独占欲”。
松戸先生は、福富さんと再会したことは言ったらしいけれど、福富さんが働いている会社まで話していなかったらしい。
幸治君と福富さんがどうにかなってしまうことを昔から勝手に懸念していたそう。
私と福富さんが同じ職場だということを私から聞いた幸治君は、福富さんが永家ホールディングスで働いていると思っていた。
だから、増田財閥の顧問になっている松戸先生と福富さんとの仲を少し心配していたらしく、幸治君からも福富さんと永家財閥の話をイコールで出したことはなかったそう。
確かに、煩くて面倒でヤバい人なんだろうなと、そう思いながらもう1度吐き出してみる。
「松戸先生と同じくらいの方は、まだ事務所にいらっしゃらないんですか?」
「いないですねー。」
明らかに私との会話が面倒になっている様子を見せてきて、それには小さく笑った。
なんというか・・・、私にこういう態度を見せてくるのは和希と青さん、それと幸治君くんの他にこの人も加わった。
この人が昔幸治君に凄く酷いことを言っていたこともまた思い出し、ムカムカとしながら口を開く。
「下を育てるのも上に立つ者のお仕事だと思いますけどね。」
「おっしゃる通りですので、それをそのまま羽鳥さんにお返しします。」
「私にですか・・・?」
「福富さんも佐伯さんも、もっと出来る子達ですよね。
のんびり教育しすぎですね。」
私なりに考えながら教育をしているのにそんなことを言われ、それには少し深呼吸をしてから笑顔で答えた。
「おっしゃりたいことは分かります。
ただ、若い女の子達なので。
就業時間を越えてまでの業務を私は振るつもりがありません。
就業時間後はプライベートの時間を過ごして欲しいと思っています。
お仕事だけが人生ではないと私は思っていて、あの子達には“普通”の楽しい時間も過ごして欲しいと願っているので。」
松戸先生から絶対に反論されるかと思っていたのに、松戸先生はすぐに深く頷いた。
「良いことですね、定時で上がらせてください。」
それには驚いたけれど、思い出した。
この人は朝ご飯も夜ご飯も福富さんに作らせている。
私のレベルではこの人のことがいまいち掴めなくて、苦笑いをしながら頷いた。
“あの人には絶対に一美さんとのことは言いません。
福富と上手くいかないことにめちゃくちゃイライラしているので、俺の相手が一美さんだって知られたらすげー面倒そう。
それに俺はまだまだあの人の足元にも及ばないので。”
お父様の葬儀の夜、帰宅した幸治君が私に言ってきた話を思い出す。
“葬式の後に事務所に行ったら、あの人が俺の仕事をいくつかやっててくれてて。
それを見て痛いほど分かりました。
分かってはいたけど、改めて分かりました。
俺、まだまだ頑張らないと・・・。
マジで、本当に、死ぬ気で頑張らないと。
あの人は忖度なんて絶対にしない人だから、俺が本物の力をつけて増田財閥に関われる人間になります。”
私も頑固かもしれないけれど、幸治君も頑固なタイプで。
そして目の前にいるこの松戸先生も、きっと同じような人で。
煩くて面倒でヤバい人が3人。
「私にはそんなに時間は残されてないんだけどな・・・。」
女の身体にはどうしても時間が限られていることがある。
それを男の人に理解して貰うことは難しいのかもしれない。
「いや、でも自分は9歳も年下の福富さんをどうにかしようとして・・・。
本能的に若い女の子を求めてるじゃんね~!!」
きっと私や幸治君よりも煩くて面倒でヤバい松戸先生の悪口を、幸治君でも福富さんでもなく桜に吐き出しまくっていく。
幸治君の帰りは、きっと今日も遅い。
「“パパ”に会いたいね~・・・。」
私が作ったお弁当をお昼に食べ、“それで頑張れている”と言ってくれている幸治君。
「“ママ”と“子ども達”がいるから頑張れるんだって。」
布団の上で丸まった桜のことを優しく撫でる。
それから桜の隣にブタネコ之助を寝かせ、私は幸治君のベッドに横になった。
「寝る時は・・・“パパ”、一緒だからね・・・」
自分に言い聞かせるように吐き出し、瞳を閉じた。
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