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ネコちゃんを迎える為に購入していた2つのキャリーバッグ、そこに幸治君と私が引き取る白いネコちゃんと私が引き取り手を探した黒いネコちゃんが入り、青さんが運転してくれている車に揺られている。



酷いネコアレルギーの望さんは同乗していない。
私は助手席ではなく後部座席に座るよう口を封印されている青さんから指1本で指示を出され、大人しくネコちゃん達と後部座席にいる。



いや・・・



やっぱり大人しくはしていられないので煩くしてしまう。



「望さんと付き合うことになったんですか?」



望さんの家族の者として煩く口を出すという“いけないコト”をこれから始めていく。



私が座る後部座席、その斜め前の運転席で運転をしてくれている青さんは、封印された口を開くことなく首を横に振った。



「兄は青さんのことを認めているようですけど、私は望さんのお相手としてはそう簡単に認められません。」



和希がいなくなってしまった後、私は望さんの存在にどれだけ救われていたか。
それまでも望さんの存在に癒されてはいたけれど、私が小関の“家”の長女として強く自覚が出来たのは望さんの存在も大きい。



望さんの兄である和希が家からいなくなった後、望さんに恋愛感情を抱いている私のお兄ちゃんではなく私が望さんのことを守らなければいけないと思った。



加藤の“家”から“逃げない”と何度も私に言った望さんのことを私は小関の“家”の人間として守りたいと強く思った。



望さんはとても可哀想な女の子だから。



“そんなことない”と望さんは言ってくれるけれど、私には望さんがとても可哀想な女の子に見えてしまう。



でも・・・



「青さんと一緒に暮らすようになって望さん自身も変わったのは分かります。
少し前まではあそこまで私に意見をする子じゃなかったから。」



数分前、私に真っ直ぐと言葉を吐き出してきた望さんの姿を思い出し、認めたくはないけれどそれが青さんのお陰なのだということも理解している。



「望さんのことが異性として好きなんですか?」



エッチをしているけれど付き合っていないという2人。
だからか余計に青さんのことを認めたくはない気持ちになるのかもしれない。
小関の“家”だけではなくうちの財閥の為に青さんと一緒に暮らすことになった望さん。
そんな望さんに青さんがエッチをしていると分かり、私は凄くムカムカとしていた。



青さんは知っているはずなのに。



望さんがどれ程の覚悟を持って加藤の“家”にいるのか。
それなのにうちの財閥を壊そうとしている青さん。
お兄ちゃんや望さんのことを解放させるつもりで動いているのかもしれないけれど、望さんはそんなことを望んでいない。



望んでいないけれど・・・



青さんが望さんのことを異性として好きだとしたら青さんがやろうとしていることも少しだけは納得が出来そうで。



だからそう質問をした私に、青さんは・・・



また首を横に振った。



「最低・・・。」



思わず出てしまった言葉は車の中で響く。



「異性として好きではない女の子とエッチしてるんですか?
いくら望さんがお仕事で身体を触られたからといって、青さんがそんなことをしたら青さんだってあのミツヤマの社長と同じじゃないですか。」



「・・・・・・・」



「望さんのことを甘やかして可愛がって、それだけではなく成長させてくれているのも分かります。
でもエッチまで青さんがするのはどうしても私は許せないんですけど。」



「・・・・・・・」



「口の封印を取ってくれませんか?
私には望さんのように青さんが何を喋ろうとしているのか分かりませんから。」



そう言ったのに、青さんは口に貼られているセロハンテープを取ることはしない。



それを見て・・・



私は小さく笑った。



「望さんもそうでした・・・。
和希から貼られたセロハンテープを私が剥がそうとしても絶対に剥がさせてくれなかった。」



私のお兄ちゃんが仕事の相手としても望さんの相手としても認めた男の人。
私に何を言われても静かな運転を続けられる青さんに私は最後に吐き出す。



「望さんは普通の女の子なのに加藤の“家”に生まれてしまった可哀想な女の子なんです。
だから望さんのことをこれ以上可哀想な女の子にしないであげてください。
お願いします。」



後部座席に座りながらではあるけれど、私は深く頭を下げた。



「私にとっては望さんの方が大切なんです。」



私の幸せの為に離婚をした両親のことを思い浮かべながら吐き出す。



「うちの財閥なんかよりも私にとっては望さんの幸せの方が大切なんです。」



私が必死に吐き出した言葉に青さんはうんともすんとも言わなかった。



頭を下げ続けていた数分後、車は静かに止まり・・・



しばらくしてから後部座席の扉が開いた。



顔を上げてみると青さんが扉を開けてくれていて、黒いネコちゃんが入ったキャリーバッグを持ち上げ私に差し出してきた。



それを見てから辺りを見渡すと、私の実家と同じくらいの大きさと佇まいの家があった。
青さんからキャリーバッグを受け取ると、青さんはその家を親指で指差した。



「課長の家、おっきぃ・・・。」



地主の息子として生まれた砂川課長。
一人暮らしの砂川課長の家にネコちゃんが暮らすのは可哀想な気がして声を掛けていなかった。
そしたら私がネコちゃんの引き取り手を探していると聞き付けた砂川課長から逆に声を掛けられた。



「みんな“いけないコト”をしているものなのかな・・・。」



私と幸治君、望さんと青さん、佐伯さんと園江さん、そして砂川課長。
金曜日の夜に砂川課長から掛かってきた電話の内容を思い出しながら、私はこの大きな家の門の前でインターホンを押した。



「使える物は使う人だからね。」



ネコ1匹の命だろうが砂川課長は使ってしまう。



でも・・・



「凄く優しい人。」



きっとこのネコちゃんにも優しく出来る人であるという願いを込めて、凄く嬉しそうな顔でネコちゃんのことを見下ろしている砂川さんに黒いネコちゃんのことを引き渡した。



そしたら、その瞬間・・・



「ネコと女は猫かわいがりしておけば気付いた時には懐いてるもんですから。
重く考えすぎずにとにかく可愛がってやってください。」



口の封印を勝手に取った青さんがそんな“いけないアドバイス”をしてきて、私は笑うことなく吐き出した。



「青さん、煩いです。」



本気で怒った私に課長は物凄く驚いた顔をしていたので、それには笑顔を作って笑っておいた。
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