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幸治side........



夕方の色と夜の色が混ざり合う空の下、桜並木の下に沢山の人が集まっている公園の中を全力で走っていく。
途中で脱いだスーツのジャケットは汗で濡れ、ワイシャツはもっと汗だくになっている。



そして見えた先には大きなブルーシートの上に座る若い男の集団。
その中にたった1人だけいる女の人。



それは“ただの女の人”ではない。



これまで生きていて見たことがないくらいの美人で、なのに不思議と可愛くもあって、そして“普通”ではないオーラを纏っている。



“中華料理屋 安部”のティーシャツにハーフパンツだとしても消えることはないその雰囲気。
“ただの女の人”ではないことが不思議と分かってしまうくらいのオーラ。



今は俺の奥さんとして振る舞ってくれている一美さんが、俺ではない若い男達に向かってめちゃくちゃ可愛くて嬉しそうで幸せそうな笑顔で何かを話している。



その笑顔を全速力で走りながら見て・・・



まだ遠い場所にいる一美さんに大きく叫んだ。



「一美さん・・・・・っっ!!!」



周りには大勢の人がいるけれど、そんなことは一切気にせず大きな声で叫んだ。



そしたら一美さんはパッと俺の方を見て・・・



フニャッと顔を緩ませ笑い・・・



“幸治君。”
そう口を動かしたように見えた瞬間・・・



一美さんの周りに座る若い男達がウワッッッとバカデカイ声で沸き上がった。



それには驚きながらも一美さんの所まで辿り着くと、一美さんはやっぱりフニャフニャの笑顔で笑っている。



「留守電を聞いて死ぬほど心配しましたから・・・。」



呼吸を整えながらそう言って、1番奥の良い場所に座る一美さんの方へ向かう為に革靴を脱いだ。



「妻がすみません、迎えに来ました。
追加の電話をくれたのは誰かな?」



「俺です!!お久しぶりです!!」



「凄い偶然だったね。
場所の説明をありがとう。
的確で分かりやすい説明だったよ。」



いつか会った男の子にそう言って、フニャフニャの笑顔で俺に笑いかけてくる可愛すぎる奥さんの腕を握った。



そしたら驚くほど冷たくなっていてそれには焦る。



手に持っていたスーツのジャケットを一美さんの身体に掛けると、一美さんはジャケットの袖に自分の両手を通し・・・



「幸治君の匂いだ。」



と、ブカブカの両手の袖を鼻に持っていき幸せそうに呟いた。



それがめちゃくちゃ可愛すぎて内心ドキドキとしていたら・・・



「マジっすか、幸治さんの匂いってどんな匂いするんっすか?」



「香水とかつけてます?」



「香水はつけてないのに良い匂いがするんだよ?
凄く凄く良い匂いでず~っとクンクンしていられるの。」



なんだかエロい雰囲気にもなっていてそれには慌てていると、周りに座る若い男達は全くそんな感じにはなっておらず。



何故かめちゃくちゃ幸せそうな顔で一美さんのことを見ている。



「幸治さんも座ってくださいよ!!」



「少しだけでもご一緒したいっす!!」



「先生!!俺らに指導をお願いします!!」



顧問先でも“先生”とは呼ばれない俺のことを“先生”と呼んできて・・・



何故かキラッキラな目で俺のことを見上げてくる。



そして・・・



「奥さんから就活の指導をして貰った後に少しだけお酒をご一緒したら、一瞬で酔っ払って!!
そしたら一生“幸治君がね~”、“幸治君にね~”“幸治君のね~”が続いていて、俺ら話を聞いてるだけで幸せな結婚生活気分を味わえてて!!」



そんな言葉に他の男達は何度も頷いている。



それには思わず小さく吹き出しながら一美さんに文句を言う。



「俺がいない間に何をしてるんですか。」



「だって、みんな凄く聞き上手なんだもん。
それに幸治君とのノロケ話を聞いて貰えて凄く嬉しかったの。」



まだ“いけない関係”ではある一美さんと俺。
俺のことを話せる相手や話せる内容は限られているはずで。



「幸治君も一緒にお花見しよう?
みんな幸治君と凄く会いたがってたんだよ?」



一美さんがそう言って、両手を俺の方に伸ばしてきた。



「でも、私が1番会いたがってたよ?」



そんな“可愛い”しかない一美さんの両手に引き寄せられるように俺の膝はブルーシートについた。



俺に抱き付いてくる一美さんの身体を両手でしっかりと抱き締め返す。



それに周りの若い男達はまたバカデカイ声で沸き上がり・・・



「「「「幸治さーーーーーーーんっっっ」」」」



と、酔っ払いの男達から俺の名前を無駄に呼ばれた。



それには自然と大きく笑いながらブルーシートに腰を下ろし「うるせーよ!!」と突っ込みながらも笑い続ける。



一美さんがフニャフニャと幸せそうに笑いながら俺の足の間に座り、俺の身体に身体を預けてきた。



「幸治さん、ビールどうぞ!!」



「いや、まずこっちを先に飲むよ。
勿体ないから。」



一美さんの前にあった缶ビールを持ち上げるとほとんど減っていないことが分かる。
新幹線での一件も思い出しながら、一美さんが抱き締めたブタネコ太郎をポンポンと撫でた。



見上げた桜はやけに綺麗に見えて。



俺がこれまで見た桜の中で1番綺麗に見えて。



一美さんだけではなく名前も知らない若い男達と一緒にした花見が、中学生以降忙しく生きてきた俺が久しぶりにした花見となった。



「せんせぇ~・・・。」



一美さんまで俺のことを“先生”と呼んですり寄って来て、これには最後らへんは花見どころではなくなっていたけれど。
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